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高等部二年生
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クラスの人たちに限らず。
怜くんの親衛隊員に限らず。
会う人、会う人から生温かい視線を受けること一週間。
その間も新生徒会役員を決める書類選考をせっせとこなしていた結果、遂に今期から役員になる新一年生が発表される運びとなった。
中には、異例ではあるものの、ゲーム主人公くんである七瀬くんの名前もしっかり入っている。
長かった……立候補が多かった分、放課後は全て選考のための作業に費やされる日々だった。
先輩たちが手伝ってくれなかったら、きっと間に合わなかっただろう。
現生徒会役員との絆も、一段と深まったように感じられた。
新役員が決まった瞬間、涙ぐんだ役員はぼくだけじゃないはずだ。
放課後、生徒会室には、新一年生と七瀬くんを含めた、生徒会役員全員が集まっていた。
生徒会長である怜くんが挨拶するものの、見事に一年生諸君は緊張で固まっている。
同級生ですら、怜くんを前にするとカクカクする人もいるから仕方ない。
よしっ、ここはぼくが和ませないと!
「意見の対立は忌避することではない。見識を広げるためにも、学年にとらわれない交流を俺は奨励する」
「ぜひ怜くんを呼ぶときは、イエスッ、クールビューティー怜様! って声をかけてね!」
「おい、やめろ! ちなみに保の発言に限っては、基本的に無視でいい」
「怜くんそれは酷くない!?」
「酷くない。……では早速新体制で携わることになる催事について説明する。みんな、用意された席に着席してくれ」
一刀両断だった。
新生徒会長様は容赦がない。
会議を進めるなら、これ以上、口を挟むのは良くないだろうと、ぼくも大人しく着席する。
視界の端では、もっさりとした黒髪が動くのが見えたけど、ぼくが七瀬くんと目を合わせることはなかった。
食堂の一件から、彼とは気まずいままだ。
「新聞部が発案し、生徒会も公認してるこの催事は、内部生にはお馴染みのものだろう。年一度行われ、実施回数は今年で二十七回目となる。学園内の生徒を対象にした、『抱かれたい』もしくは『抱きたい』生徒をランキング形式で発表する催しだ」
「はぁ!?」
怜くんの説明に対して、声を上げたのは七瀬くんだ。
うん、外部生にとっては受け入れがたい催事だよね。
でも内部生にとってはもうお決まりの催事で、その結果は高等部だけじゃなく中等部にまで情報が流れるほどだった。
「七瀬、まだ説明の途中だ。意見があるなら後にしろ」
注意を受けた七瀬くんは大人しく唇を結ぶ。
しかしその眉間には、深い皺が刻まれていた。
「例年通り、生徒一人ひとりに投票用紙が配られ、告知や集計については新聞部が行う。よって生徒会も携わる催事ではあるが、実質することは、結果に公認を与えるだけだ」
といっても広報に就いた役員は、新聞部との連携や細々とした雑務が発生する。
新一年生はそれを全員で手伝うことで、生徒会での仕事の流れを掴むんだ。
言わば一年生役員にとって、チュートリアル的な催事だった。
「一年生諸君は、広報担当から指示を受けるように。何か質問のある奴はいるか?」
「ある」
怜くんの問いかけに対し、真っ先に七瀬くんが手を挙げた。
怜くんは頷いて、発言を促す。
「催事自体が正気の沙汰とは思えない。実施する必要性がどこにあるんだよ? 何でこんなこと、強制させられなきゃならないんだ!」
「必要がないなら、過去二十六回も行われるはずがないだろう。また投票については任意だ」
「投票は任意でも、投票される側は、『そういう目』で見られるってことだろ!?」
「そうだな」
「気持ち悪いと思わないのか!?」
「知ったことか」
「はぁ!?」
「お前の言う『そういう目』は、ランキングが行われる以前から発生している。ランキングがそれを助長する? 投票する者は『そういう目』を既に持っているのにか? 投票しない者は、元からそんな考えにはとらわれん」
興味のない人にとっては、終始意味のない催事だからね。
告知も校内新聞に掲載されるだけだし。
「投票される側には、いい気がしない者もいるだろう。だが自分が『そういう目』で見られていることを、知らないよりは知っていたほうがいい。ランキングの必要性については、風紀委員長の上村にでも話を訊け」
新聞部で集計された結果は、生徒会以外では風紀委員にも伝えられる。
「抱かれたい」ランキングはまだ見逃せても、「抱きたい」ランキングに選ばれた人には自衛を促すため、事前に告知をする必要があるからだ。
基本的に「抱きたい」ランキングに選ばれた人は、風紀委員の見回り対象になる。
望む人がいれば、人気のなくなる時間帯に、風紀委員から護衛として人を貸し出すこともあった。
これは「そういう目」が、ランキングによって可視化されることで、はじめて対応できることだ。
そしてぼくとしても、特に今回のランキングは見逃せなかった。
何故ならBLゲーム「ぼくきみ」では、「抱かれたい」ランキング一位の人は、ゲーム主人公くんとの好感度が一番高い人が選ばれるからだ。
しかもその後には、ちょっとエッチなイベントがあったりするから、さぁ大変!
確か頭上からダンボールとかを梱包するビニール紐の玉が落ちてきて、体に絡み付くんだっけ。
それを好感度一位の攻略対象が外すんだけど、手が敏感な部分に触れるっていうね!
事前予想では、怜くんが一位だと目されている。
だとすると結果発表後に、怜くんと七瀬くんがエッチなことを……。
「保、珍しく顔が険しいがどうかしたか?」
「え? ううん、なんでもない」
しっかり顔に出てしまっていたらしく、怜くんに指摘される。
ポーカーフェイスってどうやったらなれるんだろう……。
怜くんの親衛隊員に限らず。
会う人、会う人から生温かい視線を受けること一週間。
その間も新生徒会役員を決める書類選考をせっせとこなしていた結果、遂に今期から役員になる新一年生が発表される運びとなった。
中には、異例ではあるものの、ゲーム主人公くんである七瀬くんの名前もしっかり入っている。
長かった……立候補が多かった分、放課後は全て選考のための作業に費やされる日々だった。
先輩たちが手伝ってくれなかったら、きっと間に合わなかっただろう。
現生徒会役員との絆も、一段と深まったように感じられた。
新役員が決まった瞬間、涙ぐんだ役員はぼくだけじゃないはずだ。
放課後、生徒会室には、新一年生と七瀬くんを含めた、生徒会役員全員が集まっていた。
生徒会長である怜くんが挨拶するものの、見事に一年生諸君は緊張で固まっている。
同級生ですら、怜くんを前にするとカクカクする人もいるから仕方ない。
よしっ、ここはぼくが和ませないと!
「意見の対立は忌避することではない。見識を広げるためにも、学年にとらわれない交流を俺は奨励する」
「ぜひ怜くんを呼ぶときは、イエスッ、クールビューティー怜様! って声をかけてね!」
「おい、やめろ! ちなみに保の発言に限っては、基本的に無視でいい」
「怜くんそれは酷くない!?」
「酷くない。……では早速新体制で携わることになる催事について説明する。みんな、用意された席に着席してくれ」
一刀両断だった。
新生徒会長様は容赦がない。
会議を進めるなら、これ以上、口を挟むのは良くないだろうと、ぼくも大人しく着席する。
視界の端では、もっさりとした黒髪が動くのが見えたけど、ぼくが七瀬くんと目を合わせることはなかった。
食堂の一件から、彼とは気まずいままだ。
「新聞部が発案し、生徒会も公認してるこの催事は、内部生にはお馴染みのものだろう。年一度行われ、実施回数は今年で二十七回目となる。学園内の生徒を対象にした、『抱かれたい』もしくは『抱きたい』生徒をランキング形式で発表する催しだ」
「はぁ!?」
怜くんの説明に対して、声を上げたのは七瀬くんだ。
うん、外部生にとっては受け入れがたい催事だよね。
でも内部生にとってはもうお決まりの催事で、その結果は高等部だけじゃなく中等部にまで情報が流れるほどだった。
「七瀬、まだ説明の途中だ。意見があるなら後にしろ」
注意を受けた七瀬くんは大人しく唇を結ぶ。
しかしその眉間には、深い皺が刻まれていた。
「例年通り、生徒一人ひとりに投票用紙が配られ、告知や集計については新聞部が行う。よって生徒会も携わる催事ではあるが、実質することは、結果に公認を与えるだけだ」
といっても広報に就いた役員は、新聞部との連携や細々とした雑務が発生する。
新一年生はそれを全員で手伝うことで、生徒会での仕事の流れを掴むんだ。
言わば一年生役員にとって、チュートリアル的な催事だった。
「一年生諸君は、広報担当から指示を受けるように。何か質問のある奴はいるか?」
「ある」
怜くんの問いかけに対し、真っ先に七瀬くんが手を挙げた。
怜くんは頷いて、発言を促す。
「催事自体が正気の沙汰とは思えない。実施する必要性がどこにあるんだよ? 何でこんなこと、強制させられなきゃならないんだ!」
「必要がないなら、過去二十六回も行われるはずがないだろう。また投票については任意だ」
「投票は任意でも、投票される側は、『そういう目』で見られるってことだろ!?」
「そうだな」
「気持ち悪いと思わないのか!?」
「知ったことか」
「はぁ!?」
「お前の言う『そういう目』は、ランキングが行われる以前から発生している。ランキングがそれを助長する? 投票する者は『そういう目』を既に持っているのにか? 投票しない者は、元からそんな考えにはとらわれん」
興味のない人にとっては、終始意味のない催事だからね。
告知も校内新聞に掲載されるだけだし。
「投票される側には、いい気がしない者もいるだろう。だが自分が『そういう目』で見られていることを、知らないよりは知っていたほうがいい。ランキングの必要性については、風紀委員長の上村にでも話を訊け」
新聞部で集計された結果は、生徒会以外では風紀委員にも伝えられる。
「抱かれたい」ランキングはまだ見逃せても、「抱きたい」ランキングに選ばれた人には自衛を促すため、事前に告知をする必要があるからだ。
基本的に「抱きたい」ランキングに選ばれた人は、風紀委員の見回り対象になる。
望む人がいれば、人気のなくなる時間帯に、風紀委員から護衛として人を貸し出すこともあった。
これは「そういう目」が、ランキングによって可視化されることで、はじめて対応できることだ。
そしてぼくとしても、特に今回のランキングは見逃せなかった。
何故ならBLゲーム「ぼくきみ」では、「抱かれたい」ランキング一位の人は、ゲーム主人公くんとの好感度が一番高い人が選ばれるからだ。
しかもその後には、ちょっとエッチなイベントがあったりするから、さぁ大変!
確か頭上からダンボールとかを梱包するビニール紐の玉が落ちてきて、体に絡み付くんだっけ。
それを好感度一位の攻略対象が外すんだけど、手が敏感な部分に触れるっていうね!
事前予想では、怜くんが一位だと目されている。
だとすると結果発表後に、怜くんと七瀬くんがエッチなことを……。
「保、珍しく顔が険しいがどうかしたか?」
「え? ううん、なんでもない」
しっかり顔に出てしまっていたらしく、怜くんに指摘される。
ポーカーフェイスってどうやったらなれるんだろう……。
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