怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部二年生

035

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「外部生の旗印に、七瀬くんはなる意思があるのかどうかっていう話だったかな」
「そうだ。本人は組織だって対立するつもりはないと言っていた。だが外部生が不満を抱く気持ちも分かると、色々代弁されたよ」
「ふーん、例えば?」
「内部生は外部生に対して高圧的であるとか、だな。全員がそうであるとは言わなかったが、一部行動が目立つ生徒がいると。そしてそういった生徒は、大概親衛隊に入っているとのことだ」

 眞宙くんの問いに対する怜くんの答えに、ピクリと体が反応する。

「その親衛隊って……怜くんの?」
「七瀬が言うにはそうらしい。しっかり管理しろと言われた」
「そんな!? 親衛隊はぼくの管轄なのにっ!」

 親衛隊を統括しているのは、親衛隊長だ。
 七瀬くんの言葉が本当なら、文句はぼくに言うべきだろう。
 しかし、ここでの問題の本質は、そこじゃないと気付く。
 七瀬くんは親衛隊の管理が甘いことを怒っているんであって、怜くんに怒っているんじゃない。
 ぼくの管理の甘さが、怜くんに迷惑をかけたんだ。
 その事実に呆然となる。
 今まで親衛隊長としての責務には、真面目に取り組んできた。
 ガス抜きだって行ったはずなのに、全く意味を成していなかったってこと?
 ぼくは今まで、何を見てきたの……?

「保、大丈夫? 怜だって、保を責めるつもりで、この話をしてるんじゃないよ?」

 机に視線を落としたままのぼくを、眞宙くんが覗き込むように顔を下げて窺う。
 心配げな彼に、ぼくは笑みを返せただろうか。
 全身に針金でも入っているような心地だった。
 何気ない動作でも体がギクシャクする。

「そうだ、別にお前を責めるつもりはない。七瀬の言葉にどこまで信憑性があるのかも分からないしな。それにこの手の不満は今までにだってあったことだ。これを完全に絶つことは難しいだろう」
「エスカレーター式で高等部に上がってきた内部生の仲間意識は強いからね。それに加え、家の社会的地位の高さから、どうしても上流階級という意識が手放せない」
「片や七瀬を含めた外部生の家は、そこまで地位が高くない。これで確執が生まれないほうがおかしいだろう。内部生の全員が全員、高圧的ならまだしも、一部だけと言うなら、今までだって必要悪として認められてきた範囲内だ」

 確執による問題が大きくなりそうなら、風紀委員が動く。
 そしてその風向きを読むための装置の一つが、親衛隊という隊員を相互監視する組織だった。
 今までは、それで大丈夫だったと思う。
 けど七瀬くんの存在は、ぼくの不安を掻き立てた。
 BLゲーム「ぼくきみ」のゲーム主人公くんだからじゃない。
 彼だって、この世界では一人の人間なんだから。
 その一人の人間としての行動に、ぼくは心を乱される。

 画面を通して見ていたゲーム主人公くんの行動は、颯爽としていて格好良かった。
 誰にも臆せず発言できて、物事を正しい方向に導こうとするエネルギーに溢れてて……そんな彼が、ぼくも大好きだったんだ。

 「画面の中のぼく」も、こんな風に胸を締め付けられていたんだろうか。
 画面に映る彼は、いつも嫌味で、怜くんの前でだけ弱々しかった印象しか残っていない。
 プレイヤーとしてのぼくは、当然のことながら、彼にいい気持ちを抱いたことはなかった。
 そんな彼として、生まれて、育ったぼく。
 ねぇ、きみも……こんな息苦しさを感じながら、生活していたの?

 ゲームの終盤では断罪され、退学に追い込まれる。
 攻略キャラである、名法院家や佐倉家の反感を買った彼は、きっと本家の湊川家からも縁を切られただろう。
 けれど、もしかしたら。
 彼は、そのほうが幸せだったんじゃないかな。
 怜くんとの関係はいつか終わるものだと、彼も知っていたはずだ。
 ゴールが見えている関係から、この鳳来学園から、いち早く解放される形になった、彼は。
 ぼくは、未だ縋り付いているけれど……。
 怜くんと、離れたくない。
 傍にいたい。
 でもそれだと怜くんは、幸せになれない。
 ぼくが学園を去ることで、怜くんは平穏を得られるんだから。
 答えは出ている。
 一年生のときには、覚悟も決まっていた。七瀬くんを目の前にして、大分動揺してしまったけど……。

 怜くん、ごめんね! 今から気合いを入れ直すからね!

 学園を去ることで、ぼくもこの息苦しさから解放されるなら。
 ぼくは、やはりやり遂げなくちゃいけない。

 性悪の親衛隊長に、ぼくはなってみせる!

 机の下で、こっそりと拳を握った。
 どうしても心が先に動いてしまって、事実確認ができていなかったけど、今のところBLゲーム「ぼくきみ」の流れとしては間違っていない。
 七瀬くんに親衛隊を管理しろと言われて、怜くんは本来の統括者であるぼくに反感を覚えたはずだ。
 今のところ、面と向かって責めはしないと言ってくれてるけど。
 怜くんと眞宙くんの二人は、黙って話を聞いているぼくを寝不足で疲れていると思ったのか、特に構うことなく話を続けた。
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