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031.

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 貴族を束ねる王家と繋がりを持っておいて損はない。
 むしろ貴族なら、誰でも懇意にしたいだろう。
 貴族社会で、家を守るための損得勘定については、イアンも説明されていると思うけど……。

「お父様は、きっと殿下の性格を知らないんです」
「知っていても、お考えは変わらないと思うよ」

 納得できないんだろうな。
 気に入らない相手にも、笑顔を向けないといけない社会なんて。

「僕も父上からは、ぬかりないようにと言われた」
「だから紅茶をかけられても許したんですか?」
「仲直りできたのは、殿下が反省していたからだよ。もし殿下が悪いと微塵も思っていなかったら、仲直りはできなかった」

 ちゃんと善悪の区別がつく相手だから、仲直りできた。
 そのことを強調する。

「殿下が悪いと思ってなくて、お父様に仲直りするよう言われたら?」
「表面上は許すかな。でも殿下は看破されるだろう」

 上っ面な対応に敏感だから、アルフレッドは他人に不信感を抱くんだ。

「だから僕としては、無理をしても意味がないと思うのだけど、イアンのお父上は納得されないだろう」

 話を聞いてる限り、イアンのお父上は、子どもにも大人の対応を求めるようだった。

「ボクはどうしたら……」
「イアンにできることは二通りかな」

 一つは、本当は嫌でも、仲良くする努力をしているとお父上に見せること。何もしないよりは、勘気に触れないだろう。
 もう一つは、殿下と共感できることはないか、探してみること。言わば、イアンからアルフレッドに歩み寄るんだ。
 今僕が考えられる対策を、イアンに伝える。

「どちらにするかは、イアンの心次第だ。直感で選ぶといい」

 どうしてもアルフレッドを好きになれなかったら、前者を。余地があるなら後者を。

「ただお父上の言い分も正しいことは忘れないで。僕たちがこれから生きる社会は、そういうところなのだと」

 理解はできなくても、頭に留めておいてほしい。
 成長すれば、嫌でも直面することだから。

「厳しいところなんですね……」
「だからこそ、お父上も厳しいのかもしれない」

 手を伸ばし、俯くイアンの頭を撫でる。
 指の間をサラサラと青い髪が流れた。
 しばらくイアンは僕に頭を委ねていたけど、やがてポツリとこぼす。

「ルーファスお兄様も一緒なんですよね」

 そして顔を上げると、僕と目を合わせた。
 真っ直ぐな瞳とかち合う。

「ルーファスお兄様も、ボクと同じ場所で生きるんですよね」

 貴族として生を受けた者同士、生きる場所は同じだ。
 頷く僕に、イアンは拳を握って断言した。

「だったら生き抜いてみせます。ルーファスお兄様が一緒だったら、どこも怖くありませんから!」

 どうしてイアンが、そこまで信頼してくれるのかわからなかった。
 けど彼の支えになれるなら、素直に嬉しい。
 最初とは違う、晴れ晴れとした顔を見せられたら尚更だ。
 少しでも助けられることがあるなら。できることがあるなら、応えてあげたいと思う。

「ボク、また会ってもらえるよう、殿下にお願いします!」

 イアンもアルフレッドも、人間性が素晴らしいことを僕は知っている。
 未来とは関係なく、二人がわかり合えたらいいと心から願った。
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