乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

文字の大きさ
38 / 82

038.エリック・ジラルド

しおりを挟む
〈弱き者の味方であれ〉

 ジラルド家に受け継がれてきた教えだ。
 今でこそ子爵という爵位を承っているが、昔のジラルド家は、一介の兵士でしかなかった。
 そこから戦闘で数多の功績をあげ、貴族の仲間入りをしたのだ。
 貴族として歴史が浅いこともあり、貴族社会ではまだ見下されることがある。
 けれど平民上がりだった祖先を思えば、乗り越えられた。

 弱き者の味方であれ、というのは貴族になった祖先が、忘れてはならないジラルド家の使命として残したものだ。

 強き者が、弱き者を守る。
 力は腕力に限らない。権力を持ったのなら、その力で、弱き者を守るのだと。
 当然のことだ。
 けれど悲しいことに、その当然が覆されるときがままあった。
 貴族の横暴はなくならない。
 しかも相手は平民に限らず、同じ貴族であっても、爵位が下というだけで蔑むのだ。

 貴族社会では、爵位がものを言う。

 下の者が、上の者に逆らうことなどできなかった。
 いや、してはいけないのだ。
 おかしいと思う。
 守るべき者を守らず、何が貴族だと。
 何のために王から爵位を承ったのか。
 本来なら栄光ある爵位を、ただ威圧の道具に使う者が許せない。

「王妃様は、今の貴族社会のあり方を憂いておられる。お前も特にウッドワード家には気を付けよ」
「父上、ウッドワード家に何があるのですか?」
「あの家は謎が多い。侯爵家にもかかわらず、魔力は男爵家と変わらないときている。一体何をして今の地位を守っているのか、わかったものではない」

 まず魔力の少なさに驚いた。
 侯爵家といえば、王家の次に地位が高い。相応に魔力も多いはずだ。
 それが男爵家ほどとなれば、自分よりも魔力が少ないことになる。

「そんなこと、あり得るのですか?」
「現にそうなのだ。噂では、爵位にものを言わせて、疑問視する者の口を封じていると聞く。お前はちょうど嫡男と同い年だ。次の夜会では顔を合わすかもしれん。決して、臆するではないぞ」

 父上に肩を叩かれ、意気込む。
 父上曰く、王妃様は侯爵家の出だが、下流貴族にも心を砕いてくださっており、貴族の鏡のような人だという。
 正しいおこないをすれば、ちゃんと報いてくださると。

 にもかかわらず、自分の力が及ばず気落ちする。
 ルーファスが少年を威圧するのを目の当たりにし、間に入ったまでは良かった。
 けれど想像以上にルーファスは手強く、結局少年は逃げるように去ってしまった。
 今まで、自分が相対した者は、爵位が上であっても怯んだ。悪いことをしていると自覚があるからだ。
 なのにルーファスは終始平然として、あまつさえ更に少年を脅す暴挙に出た。
 悪行を悪とも思わない、それがウッドワード家なのかと、今になって悪寒が走る。

「いました! お兄様、あの人です!」

 腕をさすったところで、聞こえた声に振り返った。
 そこには先ほどの少年がいた。

 立ち去ったと思っていたが、もしかして助けを呼びにいっていたのか?

 自分は力及ばず、少年に心配までさせてしまったのか。
 ルーファスは侯爵家、自分は子爵家だ。到底敵わないと思われてしまったのだろう。
 目の前にきた少年の兄が、口を開く。

「君は……ジラルド子爵家のエリック君かな?」
「はい、エリックと申します。この度は、自分の力が及ばず申し訳ありませんでした」
「本当だよ。弟がルーファス様と話す機会を台無しにするとは、どういう了見だい?」
「え? 自分は……」

 台無しにした? 何を?
 咄嗟に少年を見る。
 しかし厳しい視線を少年からも向けられ、考えがまとまらない。

「折角ルーファス様が声をかけてくださったのに! もしあれで、ぼくが嫌われたらどうしてくれるんだよ!」
「だって君は、怯えていただろう?」
「それは、まさか一番に声をかけてくださるなんて思わなくて、緊張はしてたよ! なのにあなたは言いがかりをつけて、ルーファス様を責めたんだ! 酷いよ!」

 酷い……? 自分が?

「自分は、ただ助けようと……」
「何からだい? エリック君、君は子爵家でありながら、侯爵家と伯爵家の会話に無礼にも割って入ったんだ。これは正式にジラルド家へ抗議させてもらうよ」

 ガラガラと自分の中で何かが崩れる音がした。

〈弱き者の味方であれ〉

 ウッドワード家に臆せず向かったつもりだった。
 正しいおこないをしているつもりだった。
 けれど少年が言うには、自分こそが悪者で――。

 自分は何をしてしまったのだ?
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

処理中です...