乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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 別にリーダーがいるのか。
 交渉するなら、そいつが相手か。
 身代金目的の誘拐なら、お金さえ手に入れば、命は助けられることもある。
 目の前の男も、まだ布で顔を隠していた。顔を見られたからと、殺される危険は少ないはず。
 必死に、前世の記憶をたぐり寄せる。
 ルーファスとしての人生の中に、その手の知識はない。
 動きが制限されている今、前世の記憶だけが頼みの綱だった。

 大丈夫だ、落ち着け。

 少なくとも、殺すのが目的じゃない。
 だったらもう殺されてる。
 捕まえたからには、何か要求があるはずだ。
 要求を聞いて、対処する。
 僕にできることをするんだ。
 大丈夫、大丈夫……。

 緊張で、心臓が痛い。

 じっとりと全身に滲む汗が不快だった。
 恐怖に支配されそうになるのを、必死で堪える。
 僕が、テディを守らないと。
 ただその一心で、自分を奮い立たせる。

 大丈夫、絶対助けが来る。

 父上が助けてくれる。その自信はあった。
 だから今は助けが来るまで、無事でいることを一番に考えよう。

 キィ、と木のドアが音を立てて開かれる。
 入ってきたのは、身なりがいいものの、顔に仮面をつけた男だった。
 彼がリーダーか。
 仮面の男は、僕を見下ろすなり、笑う。

「ふっ、無様だな。魔法が使えないと、こんな姿を晒すことになるのか。……だが縛られても涼しい顔をしているのは気に入らないな」

 そして横向きに転がる僕の頭を踏みつけた。

「全く、可愛げのない」
「ーーー!」

 ゴリゴリと革靴の底で撫でられる。
 目を瞑って痛みに耐える直前、テディが怒っているのが見えた。
 しかし仮面の男は気にした様子もなく、僕の頭を靴の下で数度転がす。

「何か言ったらどうかな?」
「要求は、何ですか」
「ふふっ、要求か。きみは本当に、わたしの神経を逆撫でるのが上手い」

 僕が回答に失敗したのは、すぐにわかった。
 先ほどよりも強く踏みつけられ、逆側の耳が石畳で擦れる。
 鋭く走った痛みに、耳が切れたのだと悟った。

「助けを求めるでも、命乞いするでもなく、要求を聞くか。いや、だが、実にきみらしい」

 あぁ、そうか。
 僕は交渉することで頭がいっぱいだった。
 けど彼は、僕に子どもらしい反応を期待していたんだろう。
 今から縋るのは……白々しいか。

「そうだな、まずは下僕の前で靴でも舐めてもらおうか」

 下僕? ここにいる、もう一人の男のことだろうか。
 僕の頭を踏みつけていた靴が、目の前に差し出される。

「ふふ、きみはどうかね? 目の前で主人が他人の靴を舐める姿を見るのは」

 そう言うと、仮面の男はテディに視線をやった。
 もしかして下僕ってテディのことか!?
 一緒にいたから侍従と勘違いされたのだろうか。

「ーーー!」
「ふふふ、こんな主人でも忠誠心はあるのかな?」

 憤るテディに、仮面の男は楽しそうだ。
 見せ付けるように、靴先を僕の唇に持ってくる。

「さぁ、綺麗にしてくれたまえ」
「……」

 靴に汚れはなかった。丁寧に磨かれている。
 眼前に見える、ズボンの裾のあつらえも綺麗だ。
 抵抗すべきか悩む一方で、観察して得られた答えは、あまりいいものじゃなかった。

 仮面の男は、貴族だ。
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