乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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「皆は部屋から出るんだ! アルフレッドも、僕には近付くな!」
「ルーファス?」

 今、短剣はこの部屋にない。昨夜、また僕が窓から放り捨てたからだ。
 様子が変わった僕に、アルフレッドのルビーのような瞳が揺れる。

「早くしろ! ヴィーたちも、今すぐ部屋を出ろ!」
「でもお兄様……!」
「わけは……わけは、父上が説明してくださる。早く!」

 後で説明するとは言えなかった。
 それでも、と全員を急かす。
 ただ事ではないと感じたのか、アルフレッドがペーパーナイフを手に取る一方で、護衛がヴィヴィアンたちを外に出してくれる。

 一瞬、部屋が光りで満ちた。

 アルフレッドが魔法を使ったんだ。

「ルーファス、できたぞ!」
「アルフレッド様、自分が運びます」

 僕の意図を汲んだエリックが、光属性を付与されたペーパーナイフを受け取る。

「ベッドサイドの机に置いてくれ」
「わかった」

 エリックの動きを見つめる中、ふと胸にある硬い感触に気付く。
 ペンダントだ。
 ウッドワード家の、盾のエンブレムが入ったペンダント。
 不安なときは、これを触るのがクセになっていた。
 今になって気付いたそれを外す。

「アルフレッド、今から投げるものを受け取って欲しい」
「うん! これは……?」

 弧を描くペンダントを手にしたアルフレッドが、エンブレムに気付く。

「ヴィヴィアンに渡してくれないか」
「ルーファスは、どうするんだ?」
「僕はこれから、やらないといけないことがある」

 エリックがペーパーナイフを置くのを見て、アルフレッドと外に出るよう頼む。

「嫌だ! オレは残るぞ!」
「ダメだ。エリック、頼む」
「……わかった」

 これからすることを、アルフレッドには見せられない。
 ゲームとは、違うんだ。

「エリック、放せ! オレの命令が聞けないのか!?」
「今は聞けません」
「エリック! ルーファスっ、嫌だ、お兄様……!」

 エリックがドアを閉めるのを見届ける。
 ごめん、アルフレッド。
 ごめん、皆……きっとお見舞いに来てくれたんだよね。
 こんな別れになって、ごめん。

 体を叱咤し、ベッドから這い出る。
 どうやらずっと横になっていたせいで、体力が落ちているようだった。
 取り返しても思うように動かない体を引きずって、ドアに背中を預ける。
 これで、すぐには誰も入ってこられないはずだ。
 息が切れる体を少しだけ休ませる。

 ……気付いてくれた。

 彼らが気付いてくれたから、体を取り戻せた。
 もしかしたらゲームのルーファスは、気付いてもらえなかったのかもしれない。
 何にせよ、もう終わりだ。
 僕が、終わらせる。

 手には、ペーパーナイフがあった。
 短剣には及ばないけど、切れ味は鋭い。
 手紙の封を切るのは、楽しかったんだけどなぁ。
 震える手でシャツのボタンを外し、前をはだけさせる。
 ペーパーナイフを握る手の震えが止まらなくて、情けなさに笑いたくなった。
 けどきっと、今も僕は無表情なんだろう。
 それでいい。
 醜い顔では、死にたくなかった。
 父上に罪悪感を残す顔では死にたくなかった。

 死にたくない。

 本当は、死にたくなんてない。
 生きて、彼らと一緒に過ごしたかった。家族と、過ごしたかった。
 ヴィヴィアンやアルフレッドたちと高等学院に通いたかった。
 彼らの制服姿が素敵なのは知ってるから。きっと、凄く可愛く見えると思うんだ。

 でも、ゲームとは違う。

 ゲームと同じにはさせない。
 だから、この手で終わらせる。

 深く息を吐き、震える右手に左手を添えた。
 狙うのは心臓。
 確か左胸にあったはず。
 改めて明確な意識で見下ろす体は、細く小さかった。
 こんなに小さかったかな? と思ってしまうのは、前世の記憶のせいだろうか。
 小さな胸に、刃を立てる。

 一突きでいこう。

 失敗なんてしたくない。
 もう二度と、無力感に苛まれるのはごめんだ。
 今は鎮まっている「怨」が、また動き出す前に。

 死にたくはない。

 けど、それ以上に。

 父上をあんな風に弱らせる「怨」に、僕は負けたくなかった。
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