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カストラーナ王国は人間側最大の勢力を誇る君主制の国家で、魔王討伐のための勇者パーティーを編成した国でもある。
実は勇者が派遣される前、長引く魔族と人間との争いに、停戦協定を結ぶべきだという声が、魔族側、人間側の双方から上がっていた。
そこで停戦に向けて尽力し、人間側の交渉役として名前が挙がっていたのが、カストラーナ王国の王弟であるグレイクニルだ。
だが彼が停戦協定の会談前に姿を消したことで、この話はなくなる。
人間側はグレイクニルが消息を絶ったのは魔族の陰謀だと疑い、魔族側は人間の陰謀を疑うという、泥沼の様相を呈したからだ。
オレもてっきり、人間側の停戦反対派にグレイクニルは消されたのだと思っていた。
「グレイクニル様」
「もうその名前では呼ぶなと言っているだろう」
「しかし……今の王国にはグレイクニル様のお力が必要なのです!」
「くどい。そもそも私を辺境に追いやったのは兄上ではないか。今更、勇者に反旗を翻されたからといって戯れ言を」
おっ、何か面白いことになってるのか? 朝食を終えた二人の会話に、思わず体がぷるんっと弾む。
魔王を倒した人間側にとって、今が魔族を追い込む好機だというのに、人間側でいざこざが起きているとなれば、魔族側は態勢を整えるチャンスだ。
魔王という指導者を欠いたことで、勢力が分散することは否めないだろうが。
オレのテンションが上がるのとは逆に、人間側であるレイの表情は曇っていく。
「何度来ても答えは変わらん。私の交渉相手であったスズイロ卿も魔王と共に倒れた今、停戦の道は絶たれたのだ」
「そのスズイロ卿についてなのですが、お耳にお入れしたいことがあります」
「何かあったのか?」
アッサムの言葉を聞いた途端、レイは身を乗りだした。
レイにとっては気になる情報らしい。
オレも自然と興味を引かれる。
「目撃情報があり、調べたところ……スズイロ卿は生きている可能性があります」
「何っ!?」
えっ!? オレここにいるのに!!?
前世での名前が出てきたと思ったら、オレが生きてるという話に耳を疑った。ピンクスライムの体に耳はないけどな!
信じられない事態に、ゼリー状の体が大きく跳ねる。
一瞬レイがこちらに視線を向けるが、すぐにアッサムのほうへ向き直った。
「ご存じの通り、現在魔族は勢力を分散させ、方々に散っております。中でも王が背後を取られないか懸念を抱いているシド卿は、スズイロ卿の第一子として有名ですが、彼の魔族領にて、スズイロ卿の姿が確認されました」
「信じられん、なんということだ…………」
オレの心境も、レイと全く同じだった。
シドのヤツ! さてはオレの死体を動かして遊んでるな!?
シドは、死霊使いとして有名だったヴァンパイア族の女との間に生まれた子どもだ。
当然のように死霊使いとしての技量を、母親から受け継いでいた。
死体が粉々にでもなっていない限り、彼ら死霊使いは死体を修復し、操ることができる。
きっとシドは勇者パーティーに破れたオレの死体を回収して、死霊魔法を施したに違いない。
でなければオレというスズイロの意識はここにあるのに、体が別行動している説明がつかなかった。
「……シド卿は確か母親がヴァンパイア族だったな。ヴァンパイア族の中には、死体を自由に動かせる者もいるという。彼が父親であるスズイロ卿の死体を動かしていることも考えられるのではないか?」
「我々が確認している死霊使いの能力は、見るからに死体と分かるほど体が崩れた死体を操るものです。目撃されたスズイロ卿は、傷一つなく生前の美しさを保っていたとか。勇者パーティーに倒された彼の死体が、無傷であるはずがありません」
……あれ? 死霊使いの修復能力について人間側は知らないのか?
考えてみれば戦場で死体を動かすときは、ゾンビ兵やスケルトン兵として戦線に出して、修復する手間はかけない。
人間側が死霊魔法を目の当たりにするのは戦場でだけだ。修復能力について知らなくても無理はないか。
「ううむ…………」
「どうか今一度、交渉の席についていただけないでしょうか」
「交渉は相手あっての話だろう。シド卿にその気がないのなら、私が出向いたところで無意味だ」
「それがそのシド卿のほうから、グレイクニル様のお名前が出たのです。グレイクニル様となら話し合いの席についてもいいと……どうか、お願いいたします!」
シドがねぇ……? オレが言うのもなんだが、ファザコンのアイツが、オレを殺した王国の人間と大人しく話をすることはないと思うぞ。
第一、グレイクニルが生きていたことは、オレすら知らなかったことだ。
シドも死んでいると思って名前を口にした可能性が大きい。
十中八九、レイが赴いたところで会談はなされないだろう。
しかしアッサムの懇願を見る限り、カストラーナ王国の国王は、その一縷の望みに縋りたいようだった。
それほどまでに情勢がひっ迫しているのか……?
シドが管理している魔族領はカストラーナ王国と隣接しているため、魔族対人間の激戦区でもある。
反旗を翻した勇者に退路を断たれ、その後ろをシドに突かれるなんてことはカストラーナ王も避けたいだろうが。
「……スズイロ卿が生きている可能性があるなら……その可能性に賭けるか」
いや、だから死んでるって。
思わず突っ込むが、オレの言葉がレイに届くことはなかった。
実は勇者が派遣される前、長引く魔族と人間との争いに、停戦協定を結ぶべきだという声が、魔族側、人間側の双方から上がっていた。
そこで停戦に向けて尽力し、人間側の交渉役として名前が挙がっていたのが、カストラーナ王国の王弟であるグレイクニルだ。
だが彼が停戦協定の会談前に姿を消したことで、この話はなくなる。
人間側はグレイクニルが消息を絶ったのは魔族の陰謀だと疑い、魔族側は人間の陰謀を疑うという、泥沼の様相を呈したからだ。
オレもてっきり、人間側の停戦反対派にグレイクニルは消されたのだと思っていた。
「グレイクニル様」
「もうその名前では呼ぶなと言っているだろう」
「しかし……今の王国にはグレイクニル様のお力が必要なのです!」
「くどい。そもそも私を辺境に追いやったのは兄上ではないか。今更、勇者に反旗を翻されたからといって戯れ言を」
おっ、何か面白いことになってるのか? 朝食を終えた二人の会話に、思わず体がぷるんっと弾む。
魔王を倒した人間側にとって、今が魔族を追い込む好機だというのに、人間側でいざこざが起きているとなれば、魔族側は態勢を整えるチャンスだ。
魔王という指導者を欠いたことで、勢力が分散することは否めないだろうが。
オレのテンションが上がるのとは逆に、人間側であるレイの表情は曇っていく。
「何度来ても答えは変わらん。私の交渉相手であったスズイロ卿も魔王と共に倒れた今、停戦の道は絶たれたのだ」
「そのスズイロ卿についてなのですが、お耳にお入れしたいことがあります」
「何かあったのか?」
アッサムの言葉を聞いた途端、レイは身を乗りだした。
レイにとっては気になる情報らしい。
オレも自然と興味を引かれる。
「目撃情報があり、調べたところ……スズイロ卿は生きている可能性があります」
「何っ!?」
えっ!? オレここにいるのに!!?
前世での名前が出てきたと思ったら、オレが生きてるという話に耳を疑った。ピンクスライムの体に耳はないけどな!
信じられない事態に、ゼリー状の体が大きく跳ねる。
一瞬レイがこちらに視線を向けるが、すぐにアッサムのほうへ向き直った。
「ご存じの通り、現在魔族は勢力を分散させ、方々に散っております。中でも王が背後を取られないか懸念を抱いているシド卿は、スズイロ卿の第一子として有名ですが、彼の魔族領にて、スズイロ卿の姿が確認されました」
「信じられん、なんということだ…………」
オレの心境も、レイと全く同じだった。
シドのヤツ! さてはオレの死体を動かして遊んでるな!?
シドは、死霊使いとして有名だったヴァンパイア族の女との間に生まれた子どもだ。
当然のように死霊使いとしての技量を、母親から受け継いでいた。
死体が粉々にでもなっていない限り、彼ら死霊使いは死体を修復し、操ることができる。
きっとシドは勇者パーティーに破れたオレの死体を回収して、死霊魔法を施したに違いない。
でなければオレというスズイロの意識はここにあるのに、体が別行動している説明がつかなかった。
「……シド卿は確か母親がヴァンパイア族だったな。ヴァンパイア族の中には、死体を自由に動かせる者もいるという。彼が父親であるスズイロ卿の死体を動かしていることも考えられるのではないか?」
「我々が確認している死霊使いの能力は、見るからに死体と分かるほど体が崩れた死体を操るものです。目撃されたスズイロ卿は、傷一つなく生前の美しさを保っていたとか。勇者パーティーに倒された彼の死体が、無傷であるはずがありません」
……あれ? 死霊使いの修復能力について人間側は知らないのか?
考えてみれば戦場で死体を動かすときは、ゾンビ兵やスケルトン兵として戦線に出して、修復する手間はかけない。
人間側が死霊魔法を目の当たりにするのは戦場でだけだ。修復能力について知らなくても無理はないか。
「ううむ…………」
「どうか今一度、交渉の席についていただけないでしょうか」
「交渉は相手あっての話だろう。シド卿にその気がないのなら、私が出向いたところで無意味だ」
「それがそのシド卿のほうから、グレイクニル様のお名前が出たのです。グレイクニル様となら話し合いの席についてもいいと……どうか、お願いいたします!」
シドがねぇ……? オレが言うのもなんだが、ファザコンのアイツが、オレを殺した王国の人間と大人しく話をすることはないと思うぞ。
第一、グレイクニルが生きていたことは、オレすら知らなかったことだ。
シドも死んでいると思って名前を口にした可能性が大きい。
十中八九、レイが赴いたところで会談はなされないだろう。
しかしアッサムの懇願を見る限り、カストラーナ王国の国王は、その一縷の望みに縋りたいようだった。
それほどまでに情勢がひっ迫しているのか……?
シドが管理している魔族領はカストラーナ王国と隣接しているため、魔族対人間の激戦区でもある。
反旗を翻した勇者に退路を断たれ、その後ろをシドに突かれるなんてことはカストラーナ王も避けたいだろうが。
「……スズイロ卿が生きている可能性があるなら……その可能性に賭けるか」
いや、だから死んでるって。
思わず突っ込むが、オレの言葉がレイに届くことはなかった。
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