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第一章 忍び寄る影
プロローグ 入学
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陸上自衛隊陸上総隊特殊作戦群──通称:S。
その存在こそ明らかにされているが、作戦内容、構成員、構成人数等、その全てが謎に包まれた存在。その実、自衛隊員であってもこれらの全てを知るものは殆ど居ない。
今日からは、その特別隊員として所属している吉村忠長三等陸佐に密着したいと思う。
彼は、実家の都合で小学四年から特戦群に所属している、現在十五歳の高校一年生だ。その任として、現在、彼は大阪府の郊外に建てられた私立高校、山川高等学校に潜入しようとしている。
この学校、日本各地から様々な学力の生徒を入学させ、その大多数を難関私立大学や国立大学等へ進学させている実績があるため、とてつもない人気を集めている。
よく言われている〝自称〟進学校とかではなく、入学時では四十近い偏差値だった生徒が偏差値七十台の大学へ入学しているのだ。また、入学時に偏差値が高い生徒でも偏差値八十以上の大学への進学率が高いことから、この学校を選ぶ者も多い。更に言えば、中学校からの推薦制度では、その入学基準を〝私生活や成績に特色のある者、又は個性豊かな者〟としており、比較的基準を満たしやすい。これも、この学校の人気を高める一つの要因となっていた。
「えー、今年の入学生の総数は六八四名と言うことで、えー──」
などという、ありきたりな校長の演説を右から左に流しながら、その作戦内容を思い出す。
その作戦とは、主にこの高校から輩出される自衛隊入隊希望者の素行調査。万が一、必要とあらば、PDW──MP7等の分類的名称ではなく、ただの私的護身用武器、つまりは個人的に所有している拳銃やナイフなどの使用が許可されている。
現在、彼が帯銃しているのは、都内某所にて潜伏していた共産系スパイから鹵獲した92式手槍だ。9×19mmDAP92弾を使用した中国製の拳銃である。
その他にも、飛び出しナイフを制服の袖の中に隠したりしている。
勿論、拳銃に関しては、員数外の装備となっているため、自衛隊に足が付くことはない。
耳に無線機のイヤホン、首には咽頭マイクを付けているのに怪しまれたりしていないのには理由がある。
超極秘裏にであるが、光学迷彩の開発に成功したのだ。
これは、世界にも同盟国にも発表されていない日本だけの技術である。それを特戦群は、いち早く配備されたのだった。
『ねぇ、忠長君。早く終わりたいなんて言っちゃダメだとお姉さんは思うな?』
囁き声ではあるものの、確実に聞き覚えのある少女の声が忠長の耳朶に響く。
無意識の内にそんなことを言っていたのかと、彼は反省をし、喉元を指で押さえながら口を開く。
「誰がお姉さんだ、遥香」
まぁ、忠長の無線機から聞こえたと言うことは、そういうことである。
彼女は、秦遥香。忠長の一年後に入隊し、特別隊員となった幼馴染だ。そして、いつの間にか忠長の階級を抜いていた二等陸佐でもある。……忠長の場合は、面倒ごとにならないように三佐で止めているとも言えるが。
『これも任務なんだから、我慢するの! それに、私と同じ学校に行きたいとか行って態々ここを受けたのは何処の誰だっけ?』
言いたい放題な妹分に反論しようと、再び口を開いた。
「誰も遥香と同じ高校に行きたいなんて言ってない。俺の学力はこの学校のレベルだったと言うことだ」
自衛隊幹部学校を卒業している癖に何を言っているのだね、忠長よ。
「もう一回言うぞ? 俺は、お前と、一緒の学校に、行きたいなんて、言っていない」
と、態々念を押しながら言っているが、真偽の程を確認してみよう。
☆★☆★☆
「さて、秦二佐と吉村三佐が高校へ潜入、もとい、進学すると言うことだが、二人は進学先に希望は?」
「と、言われましても、私の中学での成績はご存じですよね、群団長?」
どうせ中学校のPCをクラッキングして、私達の成績を盗み見ているのだろうと訝しげな目で、自身の上司である結城薫を見る遥香。
「いや、まぁ、そうなんだがな。というか、幹部学校を卒業しているのに偏差値の高い高校に行けないとは言わせないぞ」
遥香が行った少々の嫌がらせを正論で返され、彼女はそれ以上、何も言わなかった。
「さて、本題だ。昨今、自衛隊への入隊希望者が全国で急増している。それに伴って、自衛隊内で窃盗や脱柵などの犯罪・内規違反行為が多発するようになった。そこで、両佐には別々の高校へ進学し、当該生徒の素行調査をしてもらいたい。と言うのが、上からの命令だ。但し、別々の高校、というのは出来る限りで良いと聞き及んでいる」
「ふむ。一つ、進言を宜しいですか?」
忠長がそう言うと、薫は頷き、言葉を促す。
「秦二佐を単独潜入任務に就かせることは反対です。そもそも、秦二佐の得意分野は、正面からの銃撃戦や遠隔地から前線を支援する長距離狙撃戦です。それに、群団長もご存じの通り、彼女の潜入訓練の成績はDランク、最下級です」
意外に思われるかもしれないが、幾ら特戦群と言えど、皆が皆全てに於いて優秀であるとは限らないのだ。勿論、忠長のように全てに於いて優秀である隊員も存在する。しかし、それぞれの個性に於いて特出した点を持った者も特戦群となれるのだ。
例えば、群団長である結城薫一等陸佐。
彼は、その情報収集能力や情報解析能力、そして作戦立案能力を以てしてこの地位まで登り詰めた実力者だ。
次に、秦遥香二等陸佐。
彼女は、その射撃能力と視力などで特に優れているため、特戦群に所属している。(勿論、それだけではなく、年齢的な外聞というのもあるため、秘匿しやすい特戦群に入れられている)
因みに、女性初の最年少レンジャー徽章持ちである。(但し、非公式だ)
そして、忠長であるが、彼は先程も述べた通りに、全ての点で優秀である。しかし、欠点はある。
それがこれだ。
「それでは、三佐はどうしたいと?」
「二佐と小官で二人一組を組めば良いかと。態々、我々を別の高校へ進学させる必要は無いとのことですし」
〝出来れば別々の高校にして欲しい〟という辞令を拡大解釈し、〝別々の高校に進学する必要は無い〟という内容に置き換える。あまりにも自然な口調に、命令が置き換わっていることに誰も気が付かない。(気付かなくてもそこまで影響はないが)
「ふむ。その心は?」
薫の質問に、先程までの真面目な顔が消え、子供らしい悪戯っ子のような笑顔を見せる。
「結城さんも知っていると思いますけど、私、潜入するのが得意なんですよ? これを機に、遥香に潜入訓練を付けるというのも一興だと考えますが。……本当は、遥香には手を引いて欲しいのですけど──」
「忠長君が所属している限り止める気は無いわ!」
「──と言って、訊かないので。困った妹分です。それに、身内としても、部下としても、彼女が心配ですし」
幼馴染且つ妹分である遥香に対しては過保護で心配性だ。
一度、遥香に何かがあると「何処から現れるんだ?」やら「あいつ、まじでなんなんだ?」と言われるぐらい直ぐに駆けつけ、彼女のミスをフォローしたり助けたりするのだ。
「と、部下が言っているが、どうだ、二佐?」
「……忠長君。貴方、私の事をなんだと思ってるのよっ! 失礼しちゃうわっ!」
「……群団長、以下、上官への無礼に目を瞑ってくださると助かります。」
「了解した。俺は何も見ていないし聞いていない。お前らもそうだな?」
薫の言葉に、周りで控えていた他の幹部自衛官は、首をぶんぶんと縦に振る。
「ありがとうございます」
忠長は、息を深く吸い込んで、言葉を紡ぎ出す。
「あのだな、遥香。俺はお前の事を心配して言ってるんだぞ? お前が作戦に出て危なくなかった事なんてあったか? その筋肉がぎっしり詰まった頭で考えてみろ? 無かっただろ?──」
忠長の言い分に対して、他の幹部自衛官達──薫も含む──は、激しく首肯している。
「大体な、お前はなんでそう直ぐに拳銃を出そうとするんだ! お陰で、格闘徽章を持ってないのに予定になかった銃剣格闘をする羽目になったんだぞ! よくよく考えればお前、俺にあの時の失敗を謝ってねぇだろ! 今謝れ、今直ぐ謝れ、さあ謝れ! Hurry up!!」
「むっ、そんなこと言ったら忠長君なんて昔──」
「はぁ!? そんな昔の話を持ち出して──」
「「──っ!!」」
少しでもズレればキスをしてしまいそうな程に近付き、互いに睨み合う。
「三佐、二佐、そ、それぐらいにしましょう」
士官の一人である狭間長門が割り込んで二人を引き離す。
「ふぅ……失礼しました。狭間三尉も、申し訳ありません。兎に角、遥香、お前はもうちょっと考えてから行動することを考えろ」
「むぅ……忠長君は怒ってばっか。私の方が上官なのに」
遥香は腰に手を当て、頬を膨らませて忠長を睨む。
「日頃の行いを見直してから言ってくれ。そういう訳で、群団長。小官は、上官、秦遥香二佐と小官でツーマンセルを組むことを具申致します」
「そういう所がお前の欠点だぞ。まぁ、追々改善していけばいいが。秦二佐! 吉村三佐! 群団長、結城薫の名に於いて職権を以て命ずる! 進学先高校にて自衛隊入隊希望者が居た場合、素行調査及び情報捜査をし、市ヶ谷に情報を提供せよ! また、必要に応じてPDWの使用及び自衛隊法九十二条に基づく警察官職務執行法の準用を許可する!」
聞き捨てならない事を耳にし、遥香は顔を顰めながら質問をする。
「……何故に九十二条なのですか? 治安維持出動も防衛出動も出ておりませんし、なにより拡大解釈が過ぎるかと思われますが?」
遥香のもっともな指摘に頷く忠長。だが、その頭の中では、上層組織の意向を推測し始めていた。
「これは非公式な話だが、今回の作戦は、防衛出動前の情報収集活動と位置付けられている。つまり、ギリギリ合法だということだ」
「ほぅ。つまり、政府は他国による大規模軍事干渉を想定していると? 確かに、近頃の〝隣人達〟はスパイの密入国などの過激な行動を起こしていますが……」
忠長は考える素振りを見せ、最近行った作戦の概要を思い出す。
「これまでの作戦を考えると、中国による軍事行動が活発になっていると」
「それだけじゃないが、まぁ、そういうところだ」
他に何か質問はないか? と、目線で問う薫に、首を横に振ることで返答する二人。
「よし、狭間三尉、別命を下す。両佐を支援せよ! 命令は追って文書にて通知する。解散!」
二人は、薫の号令に対して敬礼で答礼し、部屋から出て行くのであった。
その存在こそ明らかにされているが、作戦内容、構成員、構成人数等、その全てが謎に包まれた存在。その実、自衛隊員であってもこれらの全てを知るものは殆ど居ない。
今日からは、その特別隊員として所属している吉村忠長三等陸佐に密着したいと思う。
彼は、実家の都合で小学四年から特戦群に所属している、現在十五歳の高校一年生だ。その任として、現在、彼は大阪府の郊外に建てられた私立高校、山川高等学校に潜入しようとしている。
この学校、日本各地から様々な学力の生徒を入学させ、その大多数を難関私立大学や国立大学等へ進学させている実績があるため、とてつもない人気を集めている。
よく言われている〝自称〟進学校とかではなく、入学時では四十近い偏差値だった生徒が偏差値七十台の大学へ入学しているのだ。また、入学時に偏差値が高い生徒でも偏差値八十以上の大学への進学率が高いことから、この学校を選ぶ者も多い。更に言えば、中学校からの推薦制度では、その入学基準を〝私生活や成績に特色のある者、又は個性豊かな者〟としており、比較的基準を満たしやすい。これも、この学校の人気を高める一つの要因となっていた。
「えー、今年の入学生の総数は六八四名と言うことで、えー──」
などという、ありきたりな校長の演説を右から左に流しながら、その作戦内容を思い出す。
その作戦とは、主にこの高校から輩出される自衛隊入隊希望者の素行調査。万が一、必要とあらば、PDW──MP7等の分類的名称ではなく、ただの私的護身用武器、つまりは個人的に所有している拳銃やナイフなどの使用が許可されている。
現在、彼が帯銃しているのは、都内某所にて潜伏していた共産系スパイから鹵獲した92式手槍だ。9×19mmDAP92弾を使用した中国製の拳銃である。
その他にも、飛び出しナイフを制服の袖の中に隠したりしている。
勿論、拳銃に関しては、員数外の装備となっているため、自衛隊に足が付くことはない。
耳に無線機のイヤホン、首には咽頭マイクを付けているのに怪しまれたりしていないのには理由がある。
超極秘裏にであるが、光学迷彩の開発に成功したのだ。
これは、世界にも同盟国にも発表されていない日本だけの技術である。それを特戦群は、いち早く配備されたのだった。
『ねぇ、忠長君。早く終わりたいなんて言っちゃダメだとお姉さんは思うな?』
囁き声ではあるものの、確実に聞き覚えのある少女の声が忠長の耳朶に響く。
無意識の内にそんなことを言っていたのかと、彼は反省をし、喉元を指で押さえながら口を開く。
「誰がお姉さんだ、遥香」
まぁ、忠長の無線機から聞こえたと言うことは、そういうことである。
彼女は、秦遥香。忠長の一年後に入隊し、特別隊員となった幼馴染だ。そして、いつの間にか忠長の階級を抜いていた二等陸佐でもある。……忠長の場合は、面倒ごとにならないように三佐で止めているとも言えるが。
『これも任務なんだから、我慢するの! それに、私と同じ学校に行きたいとか行って態々ここを受けたのは何処の誰だっけ?』
言いたい放題な妹分に反論しようと、再び口を開いた。
「誰も遥香と同じ高校に行きたいなんて言ってない。俺の学力はこの学校のレベルだったと言うことだ」
自衛隊幹部学校を卒業している癖に何を言っているのだね、忠長よ。
「もう一回言うぞ? 俺は、お前と、一緒の学校に、行きたいなんて、言っていない」
と、態々念を押しながら言っているが、真偽の程を確認してみよう。
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「さて、秦二佐と吉村三佐が高校へ潜入、もとい、進学すると言うことだが、二人は進学先に希望は?」
「と、言われましても、私の中学での成績はご存じですよね、群団長?」
どうせ中学校のPCをクラッキングして、私達の成績を盗み見ているのだろうと訝しげな目で、自身の上司である結城薫を見る遥香。
「いや、まぁ、そうなんだがな。というか、幹部学校を卒業しているのに偏差値の高い高校に行けないとは言わせないぞ」
遥香が行った少々の嫌がらせを正論で返され、彼女はそれ以上、何も言わなかった。
「さて、本題だ。昨今、自衛隊への入隊希望者が全国で急増している。それに伴って、自衛隊内で窃盗や脱柵などの犯罪・内規違反行為が多発するようになった。そこで、両佐には別々の高校へ進学し、当該生徒の素行調査をしてもらいたい。と言うのが、上からの命令だ。但し、別々の高校、というのは出来る限りで良いと聞き及んでいる」
「ふむ。一つ、進言を宜しいですか?」
忠長がそう言うと、薫は頷き、言葉を促す。
「秦二佐を単独潜入任務に就かせることは反対です。そもそも、秦二佐の得意分野は、正面からの銃撃戦や遠隔地から前線を支援する長距離狙撃戦です。それに、群団長もご存じの通り、彼女の潜入訓練の成績はDランク、最下級です」
意外に思われるかもしれないが、幾ら特戦群と言えど、皆が皆全てに於いて優秀であるとは限らないのだ。勿論、忠長のように全てに於いて優秀である隊員も存在する。しかし、それぞれの個性に於いて特出した点を持った者も特戦群となれるのだ。
例えば、群団長である結城薫一等陸佐。
彼は、その情報収集能力や情報解析能力、そして作戦立案能力を以てしてこの地位まで登り詰めた実力者だ。
次に、秦遥香二等陸佐。
彼女は、その射撃能力と視力などで特に優れているため、特戦群に所属している。(勿論、それだけではなく、年齢的な外聞というのもあるため、秘匿しやすい特戦群に入れられている)
因みに、女性初の最年少レンジャー徽章持ちである。(但し、非公式だ)
そして、忠長であるが、彼は先程も述べた通りに、全ての点で優秀である。しかし、欠点はある。
それがこれだ。
「それでは、三佐はどうしたいと?」
「二佐と小官で二人一組を組めば良いかと。態々、我々を別の高校へ進学させる必要は無いとのことですし」
〝出来れば別々の高校にして欲しい〟という辞令を拡大解釈し、〝別々の高校に進学する必要は無い〟という内容に置き換える。あまりにも自然な口調に、命令が置き換わっていることに誰も気が付かない。(気付かなくてもそこまで影響はないが)
「ふむ。その心は?」
薫の質問に、先程までの真面目な顔が消え、子供らしい悪戯っ子のような笑顔を見せる。
「結城さんも知っていると思いますけど、私、潜入するのが得意なんですよ? これを機に、遥香に潜入訓練を付けるというのも一興だと考えますが。……本当は、遥香には手を引いて欲しいのですけど──」
「忠長君が所属している限り止める気は無いわ!」
「──と言って、訊かないので。困った妹分です。それに、身内としても、部下としても、彼女が心配ですし」
幼馴染且つ妹分である遥香に対しては過保護で心配性だ。
一度、遥香に何かがあると「何処から現れるんだ?」やら「あいつ、まじでなんなんだ?」と言われるぐらい直ぐに駆けつけ、彼女のミスをフォローしたり助けたりするのだ。
「と、部下が言っているが、どうだ、二佐?」
「……忠長君。貴方、私の事をなんだと思ってるのよっ! 失礼しちゃうわっ!」
「……群団長、以下、上官への無礼に目を瞑ってくださると助かります。」
「了解した。俺は何も見ていないし聞いていない。お前らもそうだな?」
薫の言葉に、周りで控えていた他の幹部自衛官は、首をぶんぶんと縦に振る。
「ありがとうございます」
忠長は、息を深く吸い込んで、言葉を紡ぎ出す。
「あのだな、遥香。俺はお前の事を心配して言ってるんだぞ? お前が作戦に出て危なくなかった事なんてあったか? その筋肉がぎっしり詰まった頭で考えてみろ? 無かっただろ?──」
忠長の言い分に対して、他の幹部自衛官達──薫も含む──は、激しく首肯している。
「大体な、お前はなんでそう直ぐに拳銃を出そうとするんだ! お陰で、格闘徽章を持ってないのに予定になかった銃剣格闘をする羽目になったんだぞ! よくよく考えればお前、俺にあの時の失敗を謝ってねぇだろ! 今謝れ、今直ぐ謝れ、さあ謝れ! Hurry up!!」
「むっ、そんなこと言ったら忠長君なんて昔──」
「はぁ!? そんな昔の話を持ち出して──」
「「──っ!!」」
少しでもズレればキスをしてしまいそうな程に近付き、互いに睨み合う。
「三佐、二佐、そ、それぐらいにしましょう」
士官の一人である狭間長門が割り込んで二人を引き離す。
「ふぅ……失礼しました。狭間三尉も、申し訳ありません。兎に角、遥香、お前はもうちょっと考えてから行動することを考えろ」
「むぅ……忠長君は怒ってばっか。私の方が上官なのに」
遥香は腰に手を当て、頬を膨らませて忠長を睨む。
「日頃の行いを見直してから言ってくれ。そういう訳で、群団長。小官は、上官、秦遥香二佐と小官でツーマンセルを組むことを具申致します」
「そういう所がお前の欠点だぞ。まぁ、追々改善していけばいいが。秦二佐! 吉村三佐! 群団長、結城薫の名に於いて職権を以て命ずる! 進学先高校にて自衛隊入隊希望者が居た場合、素行調査及び情報捜査をし、市ヶ谷に情報を提供せよ! また、必要に応じてPDWの使用及び自衛隊法九十二条に基づく警察官職務執行法の準用を許可する!」
聞き捨てならない事を耳にし、遥香は顔を顰めながら質問をする。
「……何故に九十二条なのですか? 治安維持出動も防衛出動も出ておりませんし、なにより拡大解釈が過ぎるかと思われますが?」
遥香のもっともな指摘に頷く忠長。だが、その頭の中では、上層組織の意向を推測し始めていた。
「これは非公式な話だが、今回の作戦は、防衛出動前の情報収集活動と位置付けられている。つまり、ギリギリ合法だということだ」
「ほぅ。つまり、政府は他国による大規模軍事干渉を想定していると? 確かに、近頃の〝隣人達〟はスパイの密入国などの過激な行動を起こしていますが……」
忠長は考える素振りを見せ、最近行った作戦の概要を思い出す。
「これまでの作戦を考えると、中国による軍事行動が活発になっていると」
「それだけじゃないが、まぁ、そういうところだ」
他に何か質問はないか? と、目線で問う薫に、首を横に振ることで返答する二人。
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