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第一章 忍び寄る影
10話 研修会初日 朝 その四
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(防衛省管轄、山の手山荘、コードネーム【聖杯】、か)
忠長は心の中で呟く。
(確かに、防衛省として、この施設の保有の事実はない。どこの資料にも残っていないから、民間向けに開放しているのだろうが……。民間人が宿泊しているときに、陸上総隊がSを使って作戦展開地域を指定しただと? いくら俺達の支援がし易いからって、これは過剰戦力過ぎる……)
彼はふと、先日、群団長の結城薫と交わした言葉を思い出す。
『三佐、報告にあった宮古雫だが……気を付けろよ。素性の整合性が出身地を除いて一切、取れなかった。目下、調査中だが、出身地を考えると米国関係者だ』
(仮に雫が米国関係者であるとして──)
窓の外を見ながら考え事をしていた彼の右腕がちょんちょんと突かれる。
「ん? なんだ?」
「お話、いい?」
横を向くと唯華が顔を覗き込むようにして話しかけてきた。
因みに、花奏は翔馬と楽しく話している。
「いいぞ」
「じゃ、じゃあ、んーと、誕生日! 誕生日っていつ?」
「誕生日は六月十三日だな」
「うそ……。私と一緒。じゃあ、地元は?」
「小松だな」
「小松かぁ……いいところ?」
「ああ、ここより空気が綺麗で過ごしやすいぞ。まぁ、雪は難点だが……慣れたらそうでもない」
「ふぅん。そうなんだ。じゃあさ、じゃあさ!──」
こうして二人は他愛もない会話を……些か、忠長が押され気味であったが、楽しく過ごしたのだった。
☆★☆★☆
「さぁ~、みなさん、着きましたよ~!」
望奈美が楽しそうに言っている傍で、無線越しに話しかけられる。
『CPからマルヒト、マルフタ。当通信への回信はホットキーを以て代用する。現在、【聖杯】は自衛隊指揮通信システム隊以下、Sの掌握下にある。FO及びシューターは引き続き任務を継続中だが、情報はC4SCで一元管理するので留意せよ。また、システム通信団が対通信諜報作戦を展開中。なお、其方から通信可能な局はFO及びCPとなる。以上、回信を取る。マルフタから送れ』
すると、無線が送信状態の時に発生する微弱なノイズが耳を擽った。
『マルフタ了解。続いてマルヒト、送れ』
忠長は誰にも見つからないように慎重にPTTボタンを押し込む。
『マルヒト了解。CPアウト』
前の方から下車し始め、忠長達も座席を立つ。
そのままバスを降りて荷物を回収する。
「はぁ~い! とりあえず、十時までホテ──宿内で自由行動です! 部屋は男子が北棟五階、女子が南棟の三階です! 部屋はバス内で渡したしおりを参照してください! 吉村君は荷物を置いたら四階の四二三号室まで来てください。それじゃあ、解散!」
望奈美の掛け声で三組の面々は荷物を持って移動を開始した。
☆★☆★☆
ここは統合作戦指揮所。
様々なディスプレイに階級章を表した図や青色で表記された護衛艦や潜水艦、戦闘機などが表示されていた。
「中須一佐、配置につきました。本当に武装集団が来た場合、どうするんですか?」
「マルヒト達に対処させる。特戦はその支援だが……基本は現場判断だ。火器の使用も許可しているしな」
中須一佐と呼ばれた彼は陸上自衛隊に所属している幹部自衛官だ。
「CPからマルヒト、マルフタ。当通信への回信はホットキーを以て代用する。現在、【聖杯】はC4SC以下、Sの掌握下にある。FO及びシューターは引き続き任務を継続中だが、情報はC4SCで一元管理するので留意せよ。また、システム通信団が対SIGINT OPERATIONを展開中。なお、其方から通信可能な局はFO及びCPとなる。以上、回信を取る。マルフタから送れ」
女性航空自衛官である宮島一尉が無線機を繰り、作戦活動中の忠長達へと情報を提供する。
通常、見通しのいい地上から発射された極超短波、超短波帯の無線電波は約百七十海里で殆ど聞こえなくなるため、東京の地上から発射された無線が京都の地上で聞こえることはない。そのため、C4SCが指示を伝えるためにはこのような施設に設置されている中継アンテナを複数個経由する必要があるのだ。
また、現在忠長達がいる山の手荘は防衛省が秘密裏に管理しており、有事の際は奪還作戦の橋頭堡に変貌したり、平時には現役自衛官の宿泊施設、療養施設として機能している。
「中須一佐、マルヒト、マルフタ両名から了解をもらいました」
「了解した。では、金ヶ崎作戦を開始する」
こうして、事前に防衛省施設への襲撃情報を掴んだ自衛隊の作戦が開始された。
忠長は心の中で呟く。
(確かに、防衛省として、この施設の保有の事実はない。どこの資料にも残っていないから、民間向けに開放しているのだろうが……。民間人が宿泊しているときに、陸上総隊がSを使って作戦展開地域を指定しただと? いくら俺達の支援がし易いからって、これは過剰戦力過ぎる……)
彼はふと、先日、群団長の結城薫と交わした言葉を思い出す。
『三佐、報告にあった宮古雫だが……気を付けろよ。素性の整合性が出身地を除いて一切、取れなかった。目下、調査中だが、出身地を考えると米国関係者だ』
(仮に雫が米国関係者であるとして──)
窓の外を見ながら考え事をしていた彼の右腕がちょんちょんと突かれる。
「ん? なんだ?」
「お話、いい?」
横を向くと唯華が顔を覗き込むようにして話しかけてきた。
因みに、花奏は翔馬と楽しく話している。
「いいぞ」
「じゃ、じゃあ、んーと、誕生日! 誕生日っていつ?」
「誕生日は六月十三日だな」
「うそ……。私と一緒。じゃあ、地元は?」
「小松だな」
「小松かぁ……いいところ?」
「ああ、ここより空気が綺麗で過ごしやすいぞ。まぁ、雪は難点だが……慣れたらそうでもない」
「ふぅん。そうなんだ。じゃあさ、じゃあさ!──」
こうして二人は他愛もない会話を……些か、忠長が押され気味であったが、楽しく過ごしたのだった。
☆★☆★☆
「さぁ~、みなさん、着きましたよ~!」
望奈美が楽しそうに言っている傍で、無線越しに話しかけられる。
『CPからマルヒト、マルフタ。当通信への回信はホットキーを以て代用する。現在、【聖杯】は自衛隊指揮通信システム隊以下、Sの掌握下にある。FO及びシューターは引き続き任務を継続中だが、情報はC4SCで一元管理するので留意せよ。また、システム通信団が対通信諜報作戦を展開中。なお、其方から通信可能な局はFO及びCPとなる。以上、回信を取る。マルフタから送れ』
すると、無線が送信状態の時に発生する微弱なノイズが耳を擽った。
『マルフタ了解。続いてマルヒト、送れ』
忠長は誰にも見つからないように慎重にPTTボタンを押し込む。
『マルヒト了解。CPアウト』
前の方から下車し始め、忠長達も座席を立つ。
そのままバスを降りて荷物を回収する。
「はぁ~い! とりあえず、十時までホテ──宿内で自由行動です! 部屋は男子が北棟五階、女子が南棟の三階です! 部屋はバス内で渡したしおりを参照してください! 吉村君は荷物を置いたら四階の四二三号室まで来てください。それじゃあ、解散!」
望奈美の掛け声で三組の面々は荷物を持って移動を開始した。
☆★☆★☆
ここは統合作戦指揮所。
様々なディスプレイに階級章を表した図や青色で表記された護衛艦や潜水艦、戦闘機などが表示されていた。
「中須一佐、配置につきました。本当に武装集団が来た場合、どうするんですか?」
「マルヒト達に対処させる。特戦はその支援だが……基本は現場判断だ。火器の使用も許可しているしな」
中須一佐と呼ばれた彼は陸上自衛隊に所属している幹部自衛官だ。
「CPからマルヒト、マルフタ。当通信への回信はホットキーを以て代用する。現在、【聖杯】はC4SC以下、Sの掌握下にある。FO及びシューターは引き続き任務を継続中だが、情報はC4SCで一元管理するので留意せよ。また、システム通信団が対SIGINT OPERATIONを展開中。なお、其方から通信可能な局はFO及びCPとなる。以上、回信を取る。マルフタから送れ」
女性航空自衛官である宮島一尉が無線機を繰り、作戦活動中の忠長達へと情報を提供する。
通常、見通しのいい地上から発射された極超短波、超短波帯の無線電波は約百七十海里で殆ど聞こえなくなるため、東京の地上から発射された無線が京都の地上で聞こえることはない。そのため、C4SCが指示を伝えるためにはこのような施設に設置されている中継アンテナを複数個経由する必要があるのだ。
また、現在忠長達がいる山の手荘は防衛省が秘密裏に管理しており、有事の際は奪還作戦の橋頭堡に変貌したり、平時には現役自衛官の宿泊施設、療養施設として機能している。
「中須一佐、マルヒト、マルフタ両名から了解をもらいました」
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