10 / 17
第一章 忍び寄る影
9話 研修会初日 朝 その三
しおりを挟む
「それで、座席はどうするんだい?」
「それなら、いい考えがある」
そう言って、先程まで考えていたことを説明する。
「おお、それはいいね。ぜひそうしよう。問題は、どっちがどっちに座るかだけど」
「私、左側」
「んじゃ、私が右側ね!」
「決まったね。それじゃあ、バスに乗ろうか」
翔馬を先頭にして進む。
バスの中は、わちゃわちゃとしていて、班で座る場所を確保するのさえ難しい。が、忠長は目敏く空席を見つけた。
「4のA~E、座れるぞ」
「おっ、そうだね」
周りの目を気にせず、事前に決めた通りに座る彼らを見たクラスメイト達は、「ああ、そういう座り方があったか」と、納得し、みな同じように座り始める。その最中、少しだけ「私は○○君の隣がいい!」などという言い合いが発生したものの、うまく折衷案を見つけられたようだ。
「はぁ~い、皆さん、座れましたか?」
そう言いながら、望奈美が虹海と連れてバスの中に入ってくる。
「おお、この座り方がありましたか。確かに、私は補助席を使っちゃダメとは一言も言ってませんしね。早川さん、大丈夫ですか?」
「んー」
そう言ってバスの中を見渡す虹海。忠長と目が合う。彼女は微笑みながら軽く手を振って「うん。よし! 但し、皆、ちゃんとシートベルトを着けなさいよ? 忠長君!」と言った。
「はい、何ですか、虹海さん?」
「バス内の監督は一任します。まぁ、私もこのバスに乗るんだけどね♪ それじゃ、私はほかのバスを見てくるから♪」
満面の笑みを咲かせてバスから降りる。何人かの男子から「ぐはっ!」などと聞こえたが、気にしないことにする。
「はぁい、風紀委員長からの許可も下りたので、この座席で行きたいと思います! 皆さん、シートベルトを着用してください! 特に! 補助席に座っている子は気を付けてくださいね?」
望奈美の声に『は~い!』とバスのいたるところから声が上がる。
「元気でよろしい! それじゃ、出発までちょっと待ってくださいね」
望奈美の話が終わると、後ろからちょんちょんとつつかれる。
忠長が振り返ると、池田春夫が後ろから話しかけてきていた。
「おい、吉村。あの美人さんとどういう関係なんだよ?」
「美人?」
「おう。さっきのツーサイドアップの髪型の人だよ」
「あー、虹海さん?」
「そうだ。名前で呼んでるとか羨ましすぎるぞ」
「美人さん、ねぇ……」
忠長は脳裏に木刀を振り回している虹海や、投げナイフでジャグリングをしている虹海、矢を三本同時に射て三つの的のど真ん中に命中させる虹海、現役警察官の門下生を軽く投げ飛ばす虹海などを想像した。
「ははっ」
「おい、今なんで笑った」
「いやぁ、池田も人を見る目がないなと思ってな。まぁ、俺と虹海さんとの関係は姉弟子と弟弟子の関係だなぁ。姉弟みたいなものだな」
「あねでし……?」
頭の中で漢字に変換できなかったのか、首を傾げる春夫。
そんな様子に苦笑いを浮かべながら言葉を足す。
「俺は、虹海さんの親父さんが経営している異種格闘道場の門下生でな。姉弟子は、そこの塾頭だ。つまり、道場で一番強いし、怒らせると怖い」
ゴクリ、と春夫の喉が鳴る。
「まぁ、怒らせなければ優しいし、綺麗なのは否定しないがn──」
突然、バスの前の方から殺気が襲ってきた。
後ろに向けていた首を、ぎこちなく、ブリキ人形のように前へ向かせる。
そこには腕を組んで立っている虹海がいた。
「ア、アネデシ、イツカラ、ソコニ、イタノデ」
「人を見る目がない、のところかな♪ で、誰が道場で一番強くて、怒らせたら怖いって?」
「……」
冷や汗とともに、徐々に目が逸れていく忠長。
「た、だ、な、が、くん♪」
「はいっ、すみません、姉弟子のことです! 夕食奢りで勘弁してください!」
「もう、失礼するわね。一番強いのは、貴方よ、私の可愛い弟弟子君♪ あと、夕食は忠長君の手作りね♪」
仕返しして満足したのか、とんでもない爆弾を投下してから一番前の席へと座るのであった。
☆★☆★☆
どうも、皆さん。シューターこと、狭間長門です。僕は今、観測手兼通信手のFOこと、稲賀雄輔三等陸尉とともに監視及び支援任務中です。
そして、その支援対象は今からバスで京都に行くようです。ええ、つまり、僕たちも京都に行かなくてはなりません。
「FO、CPに移動許可を」
「了解しました。CP、CP、こちらFO」
『FO、こちらCP。送れ』
「現在、マルヒト、マルフタともにバスに搭乗。これよりシューターとともに移動を開始するがよいか?」
『CP了解。八尾に偽装ヘリを手配済み。通常の手順にて防衛省管轄マル山へと向かい、任務を継続せよ。なお、当該地域の管轄はシエラが行う。以上』
それじゃ、武器を片付けて八尾に向かうとしますか!
「それなら、いい考えがある」
そう言って、先程まで考えていたことを説明する。
「おお、それはいいね。ぜひそうしよう。問題は、どっちがどっちに座るかだけど」
「私、左側」
「んじゃ、私が右側ね!」
「決まったね。それじゃあ、バスに乗ろうか」
翔馬を先頭にして進む。
バスの中は、わちゃわちゃとしていて、班で座る場所を確保するのさえ難しい。が、忠長は目敏く空席を見つけた。
「4のA~E、座れるぞ」
「おっ、そうだね」
周りの目を気にせず、事前に決めた通りに座る彼らを見たクラスメイト達は、「ああ、そういう座り方があったか」と、納得し、みな同じように座り始める。その最中、少しだけ「私は○○君の隣がいい!」などという言い合いが発生したものの、うまく折衷案を見つけられたようだ。
「はぁ~い、皆さん、座れましたか?」
そう言いながら、望奈美が虹海と連れてバスの中に入ってくる。
「おお、この座り方がありましたか。確かに、私は補助席を使っちゃダメとは一言も言ってませんしね。早川さん、大丈夫ですか?」
「んー」
そう言ってバスの中を見渡す虹海。忠長と目が合う。彼女は微笑みながら軽く手を振って「うん。よし! 但し、皆、ちゃんとシートベルトを着けなさいよ? 忠長君!」と言った。
「はい、何ですか、虹海さん?」
「バス内の監督は一任します。まぁ、私もこのバスに乗るんだけどね♪ それじゃ、私はほかのバスを見てくるから♪」
満面の笑みを咲かせてバスから降りる。何人かの男子から「ぐはっ!」などと聞こえたが、気にしないことにする。
「はぁい、風紀委員長からの許可も下りたので、この座席で行きたいと思います! 皆さん、シートベルトを着用してください! 特に! 補助席に座っている子は気を付けてくださいね?」
望奈美の声に『は~い!』とバスのいたるところから声が上がる。
「元気でよろしい! それじゃ、出発までちょっと待ってくださいね」
望奈美の話が終わると、後ろからちょんちょんとつつかれる。
忠長が振り返ると、池田春夫が後ろから話しかけてきていた。
「おい、吉村。あの美人さんとどういう関係なんだよ?」
「美人?」
「おう。さっきのツーサイドアップの髪型の人だよ」
「あー、虹海さん?」
「そうだ。名前で呼んでるとか羨ましすぎるぞ」
「美人さん、ねぇ……」
忠長は脳裏に木刀を振り回している虹海や、投げナイフでジャグリングをしている虹海、矢を三本同時に射て三つの的のど真ん中に命中させる虹海、現役警察官の門下生を軽く投げ飛ばす虹海などを想像した。
「ははっ」
「おい、今なんで笑った」
「いやぁ、池田も人を見る目がないなと思ってな。まぁ、俺と虹海さんとの関係は姉弟子と弟弟子の関係だなぁ。姉弟みたいなものだな」
「あねでし……?」
頭の中で漢字に変換できなかったのか、首を傾げる春夫。
そんな様子に苦笑いを浮かべながら言葉を足す。
「俺は、虹海さんの親父さんが経営している異種格闘道場の門下生でな。姉弟子は、そこの塾頭だ。つまり、道場で一番強いし、怒らせると怖い」
ゴクリ、と春夫の喉が鳴る。
「まぁ、怒らせなければ優しいし、綺麗なのは否定しないがn──」
突然、バスの前の方から殺気が襲ってきた。
後ろに向けていた首を、ぎこちなく、ブリキ人形のように前へ向かせる。
そこには腕を組んで立っている虹海がいた。
「ア、アネデシ、イツカラ、ソコニ、イタノデ」
「人を見る目がない、のところかな♪ で、誰が道場で一番強くて、怒らせたら怖いって?」
「……」
冷や汗とともに、徐々に目が逸れていく忠長。
「た、だ、な、が、くん♪」
「はいっ、すみません、姉弟子のことです! 夕食奢りで勘弁してください!」
「もう、失礼するわね。一番強いのは、貴方よ、私の可愛い弟弟子君♪ あと、夕食は忠長君の手作りね♪」
仕返しして満足したのか、とんでもない爆弾を投下してから一番前の席へと座るのであった。
☆★☆★☆
どうも、皆さん。シューターこと、狭間長門です。僕は今、観測手兼通信手のFOこと、稲賀雄輔三等陸尉とともに監視及び支援任務中です。
そして、その支援対象は今からバスで京都に行くようです。ええ、つまり、僕たちも京都に行かなくてはなりません。
「FO、CPに移動許可を」
「了解しました。CP、CP、こちらFO」
『FO、こちらCP。送れ』
「現在、マルヒト、マルフタともにバスに搭乗。これよりシューターとともに移動を開始するがよいか?」
『CP了解。八尾に偽装ヘリを手配済み。通常の手順にて防衛省管轄マル山へと向かい、任務を継続せよ。なお、当該地域の管轄はシエラが行う。以上』
それじゃ、武器を片付けて八尾に向かうとしますか!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる