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月夜桜

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第一章 忍び寄る影

9話 研修会初日 朝 その三

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「それで、座席はどうするんだい?」
「それなら、いい考えがある」

 そう言って、先程まで考えていたことを説明する。

「おお、それはいいね。ぜひそうしよう。問題は、どっちがどっちに座るかだけど」
「私、左側」
「んじゃ、私が右側ね!」
「決まったね。それじゃあ、バスに乗ろうか」

 翔馬を先頭にして進む。
 バスの中は、わちゃわちゃとしていて、班で座る場所を確保するのさえ難しい。が、忠長は目敏く空席を見つけた。

「4のA~E、座れるぞ」
「おっ、そうだね」

 周りの目を気にせず、事前に決めた通りに座る彼らを見たクラスメイト達は、「ああ、そういう座り方があったか」と、納得し、みな同じように座り始める。その最中、少しだけ「私は○○君の隣がいい!」などという言い合いが発生したものの、うまく折衷案を見つけられたようだ。

「はぁ~い、皆さん、座れましたか?」

 そう言いながら、望奈美が虹海と連れてバスの中に入ってくる。

「おお、この座り方がありましたか。確かに、私は補助席を使っちゃダメとは一言も言ってませんしね。早川さん、大丈夫ですか?」
「んー」

 そう言ってバスの中を見渡す虹海。忠長と目が合う。彼女は微笑みながら軽く手を振って「うん。よし! 但し、皆、ちゃんとシートベルトを着けなさいよ? 忠長君!」と言った。

「はい、何ですか、虹海さん?」
「バス内の監督は一任します。まぁ、私もこのバスに乗るんだけどね♪ それじゃ、私はほかのバスを見てくるから♪」

 満面の笑みを咲かせてバスから降りる。何人かの男子から「ぐはっ!」などと聞こえたが、気にしないことにする。

「はぁい、風紀委員長からの許可も下りたので、この座席で行きたいと思います! 皆さん、シートベルトを着用してください! 特に! 補助席に座っている子は気を付けてくださいね?」

 望奈美の声に『は~い!』とバスのいたるところから声が上がる。

「元気でよろしい! それじゃ、出発までちょっと待ってくださいね」

 望奈美の話が終わると、後ろからちょんちょんとつつかれる。
 忠長が振り返ると、池田春夫が後ろから話しかけてきていた。

「おい、吉村。あの美人さんとどういう関係なんだよ?」
「美人?」
「おう。さっきのツーサイドアップの髪型の人だよ」
「あー、虹海さん?」
「そうだ。名前で呼んでるとか羨ましすぎるぞ」
「美人さん、ねぇ……」

 忠長は脳裏に木刀を振り回している虹海や、投げナイフでジャグリングをしている虹海、矢を三本同時に射て三つの的のど真ん中に命中させる虹海、現役警察官の門下生を軽く投げ飛ばす虹海などを想像した。

「ははっ」
「おい、今なんで笑った」
「いやぁ、池田も人を見る目がないなと思ってな。まぁ、俺と虹海さんとの関係は姉弟子と弟弟子の関係だなぁ。姉弟みたいなものだな」
「あねでし……?」

 頭の中で漢字に変換できなかったのか、首を傾げる春夫。
 そんな様子に苦笑いを浮かべながら言葉を足す。

「俺は、虹海さんの親父さんが経営している異種格闘道場の門下生でな。姉弟子は、そこの塾頭だ。つまり、道場で一番強いし、怒らせると怖い」

 ゴクリ、と春夫の喉が鳴る。

「まぁ、怒らせなければ優しいし、綺麗なのは否定しないがn──」

 突然、バスの前の方から殺気が襲ってきた。
 後ろに向けていた首を、ぎこちなく、ブリキ人形のように前へ向かせる。
 そこには腕を組んで立っている虹海がいた。

「ア、アネデシ、イツカラ、ソコニ、イタノデ」
「人を見る目がない、のところかな♪ で、誰が道場で一番強くて、怒らせたら怖いって?」
「……」

 冷や汗とともに、徐々に目が逸れていく忠長。

「た、だ、な、が、くん♪」
「はいっ、すみません、姉弟子のことです! 夕食奢りで勘弁してください!」
「もう、失礼するわね。一番強いのは、貴方よ、私の可愛い弟弟子君♪ あと、夕食は忠長君の手作りね♪」

 仕返しして満足したのか、とんでもない爆弾を投下してから一番前の席へと座るのであった。

 ☆★☆★☆

 どうも、皆さん。シューターこと、狭間長門はざまながとです。僕は今、観測手兼通信手のFOこと、稲賀雄輔いながゆうすけ三等陸尉とともに監視及び支援任務中です。
 そして、その支援対象は今からバスで京都に行くようです。ええ、つまり、僕たちも京都に行かなくてはなりません。

「FO、CPに移動許可を」
「了解しました。CP、CP、こちらFO」
『FO、こちらCP。送れ』
「現在、マルヒト、マルフタともにバスに搭乗。これよりシューターとともに移動を開始するがよいか?」
『CP了解。八尾に偽装ヘリを手配済み。通常の手順にて防衛省管轄マル山・・・・・・・・へと向かい、任務を継続せよ。なお、当該地域の管轄はシエラが行う。以上』

 それじゃ、武器を片付けて八尾に向かうとしますか!
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