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綺麗なマモル

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「マモルは何て?」

私の執事が届けた贈り物に、マモルは何と言っていたのか知りたかった。最近私はマモルに会わないようにしている。決して二人だけで会ってくれないマモルに腹が立つからだ。

けれども、その我慢も限界が来ているように思う。私を甘く見つめて、弾けるように声を立てて笑うマモルに会いたくて堪らない。マモルの甘い唇を味わえなくなってもう半年だ。あの時、私が間違ってしまったんだろうか。


私の物思いを遮るように、長年仕えてくれている執事が微笑んで言った。

「とても喜んでいましたよ。デービス殿下がお忙しくてお会いできないのは寂しいとも。」

私はマモルにあげた、手彫りの薔薇の花を思い起こした。あれを作るのに一年掛かった。毎年ひとつ、私がマモルにあげている手彫りだけれど、今年は赤く塗った薔薇にした。

私はそこに愛を込めたのだが…。果たしてマモルは私の愛に応えてくれるだろうか。


私がマモルに出会ったのは15年前、当時アスラン皇太子の妃を見つける王子のための舞踏会「夏の夜」だった。私は舞踏会に出席する第三側妃である母上を追いかけて、城の中で迷ってしまった。

あの時の心細い気持ちは今でもありありと思い出せる。私が花びらの散る薔薇の木の下で泣いていた時、優しい白い手がそっと伸びて来て私を抱き上げた。


ふわりと甘い良い匂いがして、歌う様な声で囁かれて、私はホッとしてしまった。背中をさすられて、馬鹿みたいに泣いている私に、その黒くて輝く眼差しを緩めてマモルが言った。

『僕はマモル。僕とデービスはもう友達だね?』

私は幼いながら、こんな可愛い獣人を見たことが無かった。サラサラの黒い艶のある髪も見たことがなかったし、優しい語りかけは僕をうっとりさせた。


それから私はマモルから離れなかったらしい。私の執事が時々揶揄う様に当時の事を話してくれるから、私は今ではありありと自分の記憶を思い出せる。

私は母上が呆れるくらいマモルに執着していた。それは兄たち王子がマモルと仲良くしている気配がすれば尚の事気になると言った具合だった。


ある日マモルが令嬢の様な格好で現れた事があった。その時に私はマモルと結婚すると心に決めた。この可愛らしくて目を引き剥がせない美しい人を、私は愛してしまった。それは幼い愛だったけれど、純粋な忘れられない記憶だった。

私が成長して色々な事が分かって来ると、マモルは獣人ではなくこの世界にただ一人の人間だった。そして猛々しくも賢い竜人の番に定められた相手でもあった。


竜の番になるまで20年、マモルはあの頃と変わらぬ姿のまま私の前に居る。そしてその期限は残り5年になってしまった。私も今や18歳。十分にマモルを娶れる年齢だ。

けれど、マモルは私が精通を迎えた頃から、二人でベッドに転がらなくなった。幼い頃は時々強請れば一緒に抱きしめて眠ってくれたのに、苦笑して言うんだ。


『デービスは、もう僕と二人で眠るのが許されないくらい成長したでしょう?それが大人になるって事だよ。寂しいけど、お祝いしなくちゃ。』

私はその時複雑な感情に襲われて、マモルに八つ当たりした気がする。私は早く大きくなってマモルに相応しくなろうと思っていたのに、成長すればする程マモルと距離を取られるようになったのだから。


そんな私にマモルは困った様に微笑んで言った。

『僕はデービスが大好きなんだ。だからそんな顔しないで?…僕みたいな、この世界では異質な存在にデービスがこだわるのは良くないよ。デービスがもっと世界を見て、それでも思うところがあれば、その時もう一度話をしよう。』

私は十分世界を見て来たんだよ、マモル。それでも私の気持ちは変わらないし、貴方を求める気持ちは増すばかりだ。私は貴方を逃さない。



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