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私はチェルシー
顔合わせ
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「マイケルお兄様、お兄様のどちらかが私のエスコート相手だと思っていたのに、どうしてゴードン様になったのかしら。」
談話室でお酒を嗜むマイケルお兄様とボードゲームをしながら、私は批難めいた口調で呟いた。お兄様はチラッと私の顔を見て、それから難しい顔で駒を指先で弄びながら言った。
「ああ、その事か。私にもどうしてなのか分からないんだ。父上にマリッサ様のエスコート相手を打診された時に、チェルシーのエスコート役はケルビン兄上になったのだと思っていたからね。
だからお前の相手がゴードン様だと知って、正直どうなっているのかと驚いたくらいだ。あの父上が私達以外の相手にお前のエスコートをさせるとは思いもしなかったよ。
貴族の政治にチェルシーを利用するには、父上はお前を溺愛し過ぎているだろう?まぁいずれ分かる事かもしれない。ゴードン様はそつの無いお方だから、エスコート相手としては申し分ないだろうから、その点では心配無用だよ。」
マイケルお兄様にも細かな事情はわからない様子だった。今年20歳になるマイケルお兄様は明るい金髪と湖水色の瞳の、令嬢達に人気の青年貴族だった。人好きする性格は少々女たらしとも言えるかもしれない。
今年から王宮騎士として任務が始まるマイケルお兄様に私は尋ねた。
「そう言えば私の親友のレベッカのエスコート相手が従兄弟のロビン様なの。レベッカ曰く粗雑だって文句を言っていたけれど、実際どうなのかしら。」
マイケルはじっと私を見つめて言った。
「何だ、ロビンに興味があるのか?あいつは物凄い腕が立つ。剣の腕は一級品だが、レベッカ嬢の言う事も納得だ。まぁ細やかさは無いな。そこが付き合いやすいと言えばそうだし、年下のご令嬢にはイマイチかもしれないが、その分かりやすさでお姉様方には大人気だ。捨てる神あれば、拾う神ありだ。
おっと、暴露し過ぎたか?」
私はレベッカの顰め面を思い出して、クスクスと笑った。
「じゃあ、私とレベッカはお互い外れくじを引いたってことかしら。」
マイケルお兄様はもうひと口グラスを傾けると、ついでに駒を進めて私と目を合わさずに尋ねた。
「ゴードン様はお前にとっては外れくじなのかい?お前は小さい頃はゴードン様の側を離れなかったくせして。…あの時から何だかお前達はピリピリしてるね。
ゴードン様はお前が階段から落ちたのは自分のせいだと言うし、お前はゴードン様を見ればコソコソする様になった。そうかと思うと…。
まぁ、これ以上はやめておこう。お前を居心地悪くしたい訳じゃ無い。こんな事はなる様にしかならないからね。そうか、それで…。」
一人で勝手に納得したマイケルお兄様は、私に意味深な微笑みを投げかけると、駒を進める様に促した。私はそれ以上ゴードン様の話をするのも躊躇われて、お兄様との団欒を楽しむ事にした。
エスコートの件はとりあえず放っておこう。顔合わせはまだ先なのだから。
けれども時は容赦なく過ぎ去って行った。ドレスの仕上げやら、デビューの作法やら、やる事は沢山あって、直前に行われるエスコート相手との顔合わせの日も直ぐにやって来た。
「わざわざゴードン様と顔合わせが必要かどうかは疑問でしたけど、今日はご足労頂きましてありがとうございます。」
ああ、余計な事を言ってしまったわ。どうもゴードン様を前にすると私の気持ちが波立ってしまう。お茶を淹れてくれている侍女まで、私の言葉にギョッとして妙な緊張感を醸し出している。
ゴードン様は応接室の一人掛けの椅子に深々と座って、傍目にはリラックスしている様だった。けれども椅子の袖を掴んでいる指先に力が入っているみたいだから、私の言葉が気に障ったのかもしれない。
「先ほどブライデン伯爵に挨拶はさせて頂いたよ。チェルシーの社交界デビューを酷く心配している様子だった。何がそこまで心配なのか心当たりはあるかい?」
私はいきなりゴードン様に先制攻撃された気がして、こめかみをピクリと動かした。けれども直ぐにため息と共に力を抜いて、自然に見える様に微笑んだ。
「お父様は私が人見知りするのでは無いかと心配なのですわ。それは昔の話ですのに。お父様にとっては私はいつまでも小さな少女に思えるみたいです。」
ゴードン様は侍女が出ていくのを横目で見ながら、お茶をひと口飲んで呟いた。
「昔の話かな?チェルシーはいつだって胸の内を明らかにしないだろう?少女の頃は隠す事など無かったが…。まったく両極端で困るね。」
私はイライラして来て、お茶をスプーンで必要以上にグルグルとかき混ぜながら呟いた。
「…お相手によるのでは無いかしら。誰にでもそうしているわけでは無いわ。」
私の言葉が聞こえたのかどうか、ゴードン様が身動きしたので私は思わず顔を上げて目の前の青年を見つめた。
長い手足に明るいグレーのジャケットと黒いパンツ、プリーツを寄せた襟高のシャツのVネックから日に焼けた小麦色が覗いている。昔より長めの癖のある黒髪は耳上で軽く撫でつけられていて、妙な色気を醸し出している。
ケルビン兄上と同い年だから今年22歳になるゴードン様は、彫りの深い目元の奥から感情の見えない灰色の瞳を私に向けていた。
私はあの眼差しと目を合わせると、落ち着かなくなるのは昔からだ。心臓もうるさく響いて、こんな風に振り回されるのが本当に気に入らなかった。
談話室でお酒を嗜むマイケルお兄様とボードゲームをしながら、私は批難めいた口調で呟いた。お兄様はチラッと私の顔を見て、それから難しい顔で駒を指先で弄びながら言った。
「ああ、その事か。私にもどうしてなのか分からないんだ。父上にマリッサ様のエスコート相手を打診された時に、チェルシーのエスコート役はケルビン兄上になったのだと思っていたからね。
だからお前の相手がゴードン様だと知って、正直どうなっているのかと驚いたくらいだ。あの父上が私達以外の相手にお前のエスコートをさせるとは思いもしなかったよ。
貴族の政治にチェルシーを利用するには、父上はお前を溺愛し過ぎているだろう?まぁいずれ分かる事かもしれない。ゴードン様はそつの無いお方だから、エスコート相手としては申し分ないだろうから、その点では心配無用だよ。」
マイケルお兄様にも細かな事情はわからない様子だった。今年20歳になるマイケルお兄様は明るい金髪と湖水色の瞳の、令嬢達に人気の青年貴族だった。人好きする性格は少々女たらしとも言えるかもしれない。
今年から王宮騎士として任務が始まるマイケルお兄様に私は尋ねた。
「そう言えば私の親友のレベッカのエスコート相手が従兄弟のロビン様なの。レベッカ曰く粗雑だって文句を言っていたけれど、実際どうなのかしら。」
マイケルはじっと私を見つめて言った。
「何だ、ロビンに興味があるのか?あいつは物凄い腕が立つ。剣の腕は一級品だが、レベッカ嬢の言う事も納得だ。まぁ細やかさは無いな。そこが付き合いやすいと言えばそうだし、年下のご令嬢にはイマイチかもしれないが、その分かりやすさでお姉様方には大人気だ。捨てる神あれば、拾う神ありだ。
おっと、暴露し過ぎたか?」
私はレベッカの顰め面を思い出して、クスクスと笑った。
「じゃあ、私とレベッカはお互い外れくじを引いたってことかしら。」
マイケルお兄様はもうひと口グラスを傾けると、ついでに駒を進めて私と目を合わさずに尋ねた。
「ゴードン様はお前にとっては外れくじなのかい?お前は小さい頃はゴードン様の側を離れなかったくせして。…あの時から何だかお前達はピリピリしてるね。
ゴードン様はお前が階段から落ちたのは自分のせいだと言うし、お前はゴードン様を見ればコソコソする様になった。そうかと思うと…。
まぁ、これ以上はやめておこう。お前を居心地悪くしたい訳じゃ無い。こんな事はなる様にしかならないからね。そうか、それで…。」
一人で勝手に納得したマイケルお兄様は、私に意味深な微笑みを投げかけると、駒を進める様に促した。私はそれ以上ゴードン様の話をするのも躊躇われて、お兄様との団欒を楽しむ事にした。
エスコートの件はとりあえず放っておこう。顔合わせはまだ先なのだから。
けれども時は容赦なく過ぎ去って行った。ドレスの仕上げやら、デビューの作法やら、やる事は沢山あって、直前に行われるエスコート相手との顔合わせの日も直ぐにやって来た。
「わざわざゴードン様と顔合わせが必要かどうかは疑問でしたけど、今日はご足労頂きましてありがとうございます。」
ああ、余計な事を言ってしまったわ。どうもゴードン様を前にすると私の気持ちが波立ってしまう。お茶を淹れてくれている侍女まで、私の言葉にギョッとして妙な緊張感を醸し出している。
ゴードン様は応接室の一人掛けの椅子に深々と座って、傍目にはリラックスしている様だった。けれども椅子の袖を掴んでいる指先に力が入っているみたいだから、私の言葉が気に障ったのかもしれない。
「先ほどブライデン伯爵に挨拶はさせて頂いたよ。チェルシーの社交界デビューを酷く心配している様子だった。何がそこまで心配なのか心当たりはあるかい?」
私はいきなりゴードン様に先制攻撃された気がして、こめかみをピクリと動かした。けれども直ぐにため息と共に力を抜いて、自然に見える様に微笑んだ。
「お父様は私が人見知りするのでは無いかと心配なのですわ。それは昔の話ですのに。お父様にとっては私はいつまでも小さな少女に思えるみたいです。」
ゴードン様は侍女が出ていくのを横目で見ながら、お茶をひと口飲んで呟いた。
「昔の話かな?チェルシーはいつだって胸の内を明らかにしないだろう?少女の頃は隠す事など無かったが…。まったく両極端で困るね。」
私はイライラして来て、お茶をスプーンで必要以上にグルグルとかき混ぜながら呟いた。
「…お相手によるのでは無いかしら。誰にでもそうしているわけでは無いわ。」
私の言葉が聞こえたのかどうか、ゴードン様が身動きしたので私は思わず顔を上げて目の前の青年を見つめた。
長い手足に明るいグレーのジャケットと黒いパンツ、プリーツを寄せた襟高のシャツのVネックから日に焼けた小麦色が覗いている。昔より長めの癖のある黒髪は耳上で軽く撫でつけられていて、妙な色気を醸し出している。
ケルビン兄上と同い年だから今年22歳になるゴードン様は、彫りの深い目元の奥から感情の見えない灰色の瞳を私に向けていた。
私はあの眼差しと目を合わせると、落ち着かなくなるのは昔からだ。心臓もうるさく響いて、こんな風に振り回されるのが本当に気に入らなかった。
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