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波乱の予感

訓練生のご帰還

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狡いアイテムを使ってさっさと中継地点をクリアした僕らは、さっさと寮へ向かって出立した。昼をゆっくり食べるよりは、寮に戻ってゆっくりしたかった。

勿論あのクッキーバーは食べたけどね。歩きながらでも食べられるから想像以上に便利だ、あれ。ヨードル印でもっと大々的に売り出した方がいいな。


長い郊外演習を終えて、さすがにバテバテの僕たちは口数も少なく寮へと戻った。一期上の先輩たちのお疲れという掛け声や、同情的な眼差しが毎年恒例を実感した。

成果報告は明日なので、僕たちはまた明日と声を掛け合いながら自室へと別れていった。三日ぶりの自室はリラックス出来る香りに包まれていて、懐かしい気がした。


僕はリュックを入り口に放り出すと、服を脱ぎながらシャワールームへ向かった。ここの寮室の良いところは、小さいながらバスタブ付きな所だ。僕には十分だけど、ケルビンやミッキーには狭いだろう。

手早く身体をお気に入りの甘いオレンジの香りの石鹸で洗うと、その間に溜めていたバスタブにザブンと浸かった。泡の元を入れるのを忘れた僕は、手を伸ばして瓶を手に取った。


手の中のレモンの花の香料は、以前バートに貰ったものだった。あの時バートはなんて言ってたっけ。僕は瓶からオイルをいつもより多めに垂らすと、足をバタつかせて泡立たせた。

直ぐに沢山の泡がバスタブいっぱいに溜まって、僕は弾ける香りに包まれて思わず笑みを浮かべた。それと同時にバートが言った言葉を思い出した。


『これ嗅いだときパトリックの事思い出したから、似合うと思って買ってきたんだ。やるよ。』

そう言ってにっこり笑ったんだった。多分あの頃から、バートは僕の事が好きだったのかもしれない。僕は泡の中に沈みながらバートが僕に求めるものを考えていた。

僕とどうしたいって?あんなキス?それ以上?ケルビンとした様なこと?ああ、僕には分からない。ただ、バートとしたキスは驚いたけど、嫌じゃ無かった…と思う。


そう言えばケルビンともキスしたな…。ああ、もう何がなんだか。考えるのはやめだ。僕は強制発情は来たけど、自発的な発情はまだだ。その時に僕が誰を求めるか、神のみぞ知る、だ。

僕は問題をひとつ棚上げして、バスタブからザブリと立ち上がった。鏡に映る僕は、自分で見ても演習前の自分とは何処か違って見えた。でも尻尾は下がっちゃってるな。ほんと、尻尾は嘘つけないな…。





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