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モテ期到来

征一side本当の所

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尚弥は顔を顰めて言った。

「ベッドに括り付けられてる俺と違って、自由に動ける兄さんの方が有利だね。…彼女が誰なのかぐらいは教えてくれても良いだろう?」

私は、病室の冷蔵庫からミネラルウォーターを2本取り出すと、一本を尚弥へ放り投げて壁際の椅子へ腰掛けた。水をごくごく飲んで気を落ち着けると、尚弥を見つめて言った。


「…彼女は田辺美那。お前が付き合ってる田辺美波の従姉妹だ。よく似てるだろう?お前は知っていたか?田辺美波は彼女とルームシェアしていたんだ。

…お前はミナにこっ酷く振られたせいで、やけ酒を煽って事故にあったんだと私たちは思ってたんだ。お前の意識が朦朧としてる時に、しきりにミナに会いたいって言うものだから、私は彼女の部屋へ押しかけてお前に顔を見せて欲しいと頼みに行った。


当然、私はお前の彼女の顔は知らなかったし、偶然にも二人ともミナと呼ばれていた。私は随分酷いことを彼女に言ったが、誤解だと分かっても、彼女はミナの代わりにお前に会ってくれると言ってくれた。私はお前のことが心配でほとんど八つ当たりに近かったんだ。

実はお前の彼女の美波は男と海外旅行へ行ってしまったらしい。彼女は言ったよ。昔から尻拭いをさせられてきたって。だからか、今回も諦めてお前を元気にするために身代わりになってくれたんだ。

まさか、お前が気づいてたなんて思わなかったが…。考えてみれば意識がはっきりすれば自分の彼女かどうかなんて、当然分かるはずだよな。」


私は自分の愚かさ具合にため息が出たけれど、心のどこかで美那と会いたくて、この状況を見て見ぬふりをしていたのかもしれないと思った。俯いて考え込んでいた私に、尚弥が声を掛けてきた。

「‥兄さんや父さんたちに心配かけたのは申し訳なかったよ。そこまで心配してくれてたなんて、俺知らなかったんだ。ありがとう。」

私はこんな時でもちゃんと冷静に気持ちを伝えてくる尚弥の素直さに、ちょっと羨望すら感じた一方、照れ臭くもなって黙って頷いた。私達はしばらく黙り込んでいたけれど、尚弥が気まずい空気を払って言った。


「俺、ちゃんと美那にお礼を言いたい。実際、彼女が見舞いに来てくれたお陰で早く元気になったのは確かだ。キスしたのは後悔してないけど、彼女にはちゃんと謝りたいし。兄さん、彼女の連絡先教えてくれよ。」
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