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寄せては返す波のように
手探りの日々の始まり
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侍女長のベルに遅めの朝を起こされた私は、気まずい思いでベッドから起き上がった。するとにこやかに微笑みながら、ベルは湯浴みの用意をしながら言った。
「旦那様がまだゆっくり寝かせておく様にと仰ったのですが、テオ様もいらっしゃいますのでご用意もありますし、流石に時間がありません。おかげんは如何ですか?こちらにご用意出来てますので湯浴みをしてはいかがでしょう。…お手伝いした方がよろしいですか?」
私は昨日の閨の痕跡があると恥ずかしいと思ったので、ベルの気遣いをありがたく思って一人で浴びると伝えた。ベルが部屋から出ていくのを見送ると、私はベッドからふらつきながら立ち上がった。
身体が気怠い。私は気怠さの原因である昨日の激しい睦み合いを思い出した。それは幸福感で胸をいっぱいにする一方、寝入りばなに感じたあの寂しさも思い出してしまった。
スッキリするオレンジの香りの湯に浸かりながら、私はテオに会える事に気持ちが浮き立った。昨日の結婚式以来顔を見ていない。こんなに顔を合わせないのは初めてかもしれない。
身体を拭きながら、ふと鏡に映った自分の身体にびっくりしてしまった。あちこちに散らばる赤い印はヴィンセントの付けたものに間違いなかった。胸の上に残されたその印を指でなぞりながら、それが私への執着なら良いのにと思ってしまう自分に苦笑する。
ローブを着て部屋に戻ると、ベルたちがドレスを着せかけようと準備して待っていた。私は結局この閨の名残は隠しておく事が出来ないのだと少し気まずい思いでローブを脱いだ。
テキパキと下着やコルセットを私に装着しながら、ベルは鏡の中の私に微笑んで言った。
「奥様、私どもはこんな日が来るなんて本当に信じられない思いですの。王弟閣下は元々王様にせっつかれても身を落ち着ける気配はありませんでしたし、まして思いもしない戦乱に巻き込まれて生死も危うい捕虜生活を生き延びたんです。
生きてお戻りになられただけでも喜ばしい事でしたのに、エリザベス様の様なお美しい奥様とテオお坊ちゃまを一度にこの城に迎える事が出来て、どんなに私どもが喜んでいる事か。
お二人の運命の恋物語には侍女達も気がそぞろになってしまう程のロマンスですもの。王弟閣下が奥様を寵愛なさるのも仕方がありませんわ。お任せくださいね。これが見えない様な装いにしますから。」
そう楽しげに侍女達とクスクス微笑み合うと、ああでも無いこうでも無いと美しいサーモンピンクのドレスを着付けてくれた。それはあの仮面祭りでヴィンセントが用意してくれたドレスを思い出した。
私たちは今度こそあの時の約束を果たそうとしているのかもしれない。そこにはヴィンセントの燃える様な愛はなくても私の恋心を隠せばきっと上手くいくはずだわ。そう思いながら私は侍女長に導かれるまま、美しい応接室へと足を踏み入れた。
目の前に、少しはにかんだ表情でヴィンセントに抱かれているテオが、楽しげに窓の外を見回していた。隣に立っていた弟のアンソニーが私に気がついてテオに何か囁くと、パッとこちらを振り返ってヴィンセントの腕から仰け反って降りたがった。
床に降ろされるとトコトコと私に走り寄って来たテオを抱き上げて、首元にしがみつくテオを抱きしめた。
「テオ、いい子でしたね。」
テオに掛ける声が掠れてしまったのに気づいて、首元に顔をうずめるテオのこめかみに優しく口づけた。するとテオが顔を上げて嬉しそうにヴィンセントの方を指差して言った。
「おかぁちゃま、おとぉちゃまよ?」
途端にその場が和らいで、ヴィンセントが私たちの所へゆっくり近づいて来た。私は何故だかドキドキして、どうして良いか分からなくなってしまった。
「エリザベス、今日も美しいね…。さっきテオと遊んで居たんだ。テオはすっかりアンソニー叔父さんと仲良しだね。」
そう言って私に手を差し出した。私はテオをそっと下ろすと、ヴィンセントの手のひらの上に自分の手を重ねた。ヴィンセントは私の目を見つめながら手の甲に唇を押し当てた。
テオは私とヴィンセントを下からキョロキョロと見上げながら、楽しげに言った。
「おかぁちゃま、おとぉちゃまと、なかよち?ね?テオもなかよち!」
そう言って腕を伸ばして抱っこを強請った。するとヴィンセントが優しく微笑んでテオをサッと勢いよく抱き上げた。喜んだテオが楽しげに声を立てて笑うと、アンソニーが私の側に近づいて来て囁いた。
「姉様、王弟閣下はもうすっかりテオと仲良しになりましたよ。テオも自分の父親だと分かるんでしょうね。姉様が幸せそうで私も嬉しいです。」
そう言って、アンソニーは懐かしい子供の頃の面影を滲ませて微笑んだ。私はテオとヴィンセントが楽しげに何か二人で話しているのを見て、喉の奥がつまって込み上げる涙をこらえた。
きっと私たちの結婚は上手くいくわ。私の恋心さえ知られなければ、絶対に上手くいくわ。
「旦那様がまだゆっくり寝かせておく様にと仰ったのですが、テオ様もいらっしゃいますのでご用意もありますし、流石に時間がありません。おかげんは如何ですか?こちらにご用意出来てますので湯浴みをしてはいかがでしょう。…お手伝いした方がよろしいですか?」
私は昨日の閨の痕跡があると恥ずかしいと思ったので、ベルの気遣いをありがたく思って一人で浴びると伝えた。ベルが部屋から出ていくのを見送ると、私はベッドからふらつきながら立ち上がった。
身体が気怠い。私は気怠さの原因である昨日の激しい睦み合いを思い出した。それは幸福感で胸をいっぱいにする一方、寝入りばなに感じたあの寂しさも思い出してしまった。
スッキリするオレンジの香りの湯に浸かりながら、私はテオに会える事に気持ちが浮き立った。昨日の結婚式以来顔を見ていない。こんなに顔を合わせないのは初めてかもしれない。
身体を拭きながら、ふと鏡に映った自分の身体にびっくりしてしまった。あちこちに散らばる赤い印はヴィンセントの付けたものに間違いなかった。胸の上に残されたその印を指でなぞりながら、それが私への執着なら良いのにと思ってしまう自分に苦笑する。
ローブを着て部屋に戻ると、ベルたちがドレスを着せかけようと準備して待っていた。私は結局この閨の名残は隠しておく事が出来ないのだと少し気まずい思いでローブを脱いだ。
テキパキと下着やコルセットを私に装着しながら、ベルは鏡の中の私に微笑んで言った。
「奥様、私どもはこんな日が来るなんて本当に信じられない思いですの。王弟閣下は元々王様にせっつかれても身を落ち着ける気配はありませんでしたし、まして思いもしない戦乱に巻き込まれて生死も危うい捕虜生活を生き延びたんです。
生きてお戻りになられただけでも喜ばしい事でしたのに、エリザベス様の様なお美しい奥様とテオお坊ちゃまを一度にこの城に迎える事が出来て、どんなに私どもが喜んでいる事か。
お二人の運命の恋物語には侍女達も気がそぞろになってしまう程のロマンスですもの。王弟閣下が奥様を寵愛なさるのも仕方がありませんわ。お任せくださいね。これが見えない様な装いにしますから。」
そう楽しげに侍女達とクスクス微笑み合うと、ああでも無いこうでも無いと美しいサーモンピンクのドレスを着付けてくれた。それはあの仮面祭りでヴィンセントが用意してくれたドレスを思い出した。
私たちは今度こそあの時の約束を果たそうとしているのかもしれない。そこにはヴィンセントの燃える様な愛はなくても私の恋心を隠せばきっと上手くいくはずだわ。そう思いながら私は侍女長に導かれるまま、美しい応接室へと足を踏み入れた。
目の前に、少しはにかんだ表情でヴィンセントに抱かれているテオが、楽しげに窓の外を見回していた。隣に立っていた弟のアンソニーが私に気がついてテオに何か囁くと、パッとこちらを振り返ってヴィンセントの腕から仰け反って降りたがった。
床に降ろされるとトコトコと私に走り寄って来たテオを抱き上げて、首元にしがみつくテオを抱きしめた。
「テオ、いい子でしたね。」
テオに掛ける声が掠れてしまったのに気づいて、首元に顔をうずめるテオのこめかみに優しく口づけた。するとテオが顔を上げて嬉しそうにヴィンセントの方を指差して言った。
「おかぁちゃま、おとぉちゃまよ?」
途端にその場が和らいで、ヴィンセントが私たちの所へゆっくり近づいて来た。私は何故だかドキドキして、どうして良いか分からなくなってしまった。
「エリザベス、今日も美しいね…。さっきテオと遊んで居たんだ。テオはすっかりアンソニー叔父さんと仲良しだね。」
そう言って私に手を差し出した。私はテオをそっと下ろすと、ヴィンセントの手のひらの上に自分の手を重ねた。ヴィンセントは私の目を見つめながら手の甲に唇を押し当てた。
テオは私とヴィンセントを下からキョロキョロと見上げながら、楽しげに言った。
「おかぁちゃま、おとぉちゃまと、なかよち?ね?テオもなかよち!」
そう言って腕を伸ばして抱っこを強請った。するとヴィンセントが優しく微笑んでテオをサッと勢いよく抱き上げた。喜んだテオが楽しげに声を立てて笑うと、アンソニーが私の側に近づいて来て囁いた。
「姉様、王弟閣下はもうすっかりテオと仲良しになりましたよ。テオも自分の父親だと分かるんでしょうね。姉様が幸せそうで私も嬉しいです。」
そう言って、アンソニーは懐かしい子供の頃の面影を滲ませて微笑んだ。私はテオとヴィンセントが楽しげに何か二人で話しているのを見て、喉の奥がつまって込み上げる涙をこらえた。
きっと私たちの結婚は上手くいくわ。私の恋心さえ知られなければ、絶対に上手くいくわ。
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