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中学二年生
地区予選の朝
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慶太と翔ちゃんが僕の事でちょっとした言い争いをしたなんて思いもしない僕は、機嫌良く鏡の前で顔を洗っていた。母さん譲りのこの目つきは、父さん曰く魔女の目らしい。目を合わせると逸せないから俺は魔女の目だと思って見ない様にしていたんだって、お酒を飲むといつも話し始めるお気に入りの話題なんだ。
結局のところ、父さんは母さんの目に魅入られて恋に落ちたらしいけど、それは僕にも当てはまるのかな。だったら僕は翔ちゃんを恋に堕とすまで必死で見つめるのに。
母さん譲りなのは色が白いのもそうだ。僕は男らしい父さんからは鼻の高さと少しクセのある髪質を受け継いでいた。だから母さんよりはキツめの顔は取っ付きにくく見えるのか、この魔女の目を持ってしても友達は多くなかった。
そんな事を考えて苦笑しながら、僕は黒いTシャツと、ダボっとした白い綿パンツに白いサンダルを引っ掛けると玄関を出た。丁度隣の門邸が軋む音に顔を上げると、慶太が僕の頭を指さしていた。
僕は玄関に転がっていた黒いキャップを被ると、ついでに母さんの小さな丸いサングラスを掛けた。男性ものだとずり落ちる僕の顔に、女物のアーティストっぽいサングラスは妙に馴染んだ。
「おー、洒落てんなぁ。絶対俺には似合わない奴じゃん。」
そう言って弾ける様に笑う慶太に僕はニヤリと口元を緩めて言った。
「慶太はいかにもマッチョなアイテムの方がしっくり来るんだよ。僕はほら、魔女だから。」
僕の魔女発言に、慶太は聞き慣れた僕の父さんの例の話を思い出したらしく肩をすくめて言った。
「まぁ、魔女の家系ならそれっぽいアイテムが似合うのも当たり前だな?ハハハ。それより急ごうぜ。せっかく観に行って試合終わってたらアホみたいだからな。」
そう言って駅に向かって歩き出す慶太の後を追いかけながら、僕は慶太が観戦に付き合ってくれる事に感謝していた。慶太がダメだったら一人で観に行く勇気が出たかどうか分からない。
観に行けなければ、僕は変わらない日々を燻った気持ちを抱えたまま過ごしていたはずだ。今日観に行ったからって、何か変わるわけじゃないだろうけど、少なくとも今日僕は自分の気持ちを決めようと思っていたんだ。
翔ちゃんへの気持ちをしまい込むかどうかを。
僕は五十嵐先輩の事をこのままにしておくのは悪い気がして来ていた。少なくとも僕に好意を寄せてくれている先輩の眼差しは僕を揺らした。翔ちゃんを忘れて、先輩を好きになれればどんなに楽しいだろう。
あの真っ直ぐな眼差しの先には何が待っているんだろう。それは僕の中に疼く何かだった。思春期真っ盛りの僕たちはキスをすればその先を望むのは自然だった。
中学生でそれをするかは個人の問題だけど、結局この先僕がその問題に向き合う時に浮かび上がってくるのは翔ちゃんの事だろう。いっそ蓋をして、好意を持てる優しい相手と楽しく付き合うのもアリなのかもしれない。
そう思い始めるほどには、僕の身体が性に支配されつつあったんだ。そんな事を僕が考えているなんて全然思っていないだろう慶太に笑いかけると、僕たちは地区予選の開かれている大きな公立体育館目指してバスに乗った。
「ラッキー、空いてて良かったな。」
そう慶太が言いながら、僕を奥の座席へと座らせた。僕はクスッと笑って慶太に言った。
「なんか慶太って僕の保護者?恋人みたいだね。だってサッカー仲間に奥の席に座らせるとかしないでしょ。」
すると唖然とした顔で僕を見つめた慶太は、急に顔を赤くして言った。
「…そう言われてみるとそうかもしれないけど。魔女の力なのか?はぁ。だって侑は何か脆そうって言うか、俺とは違う生き物っぽいんだよな。そっか。俺も侑を無意識に特別扱いしてんのかな。」
僕は慶太の顔をあげて他に誰が特別扱いしてるのかと尋ねた。すると何でそんな事が分からないのかとでも言う様に、慶太は僕を見つめて言った。
「え?兄貴もそうだろ?今日観に行くって言ったら、侑の事ガードしろって言われたよ?まったく皆で過保護になっちゃって。ね、侑様?」
結局のところ、父さんは母さんの目に魅入られて恋に落ちたらしいけど、それは僕にも当てはまるのかな。だったら僕は翔ちゃんを恋に堕とすまで必死で見つめるのに。
母さん譲りなのは色が白いのもそうだ。僕は男らしい父さんからは鼻の高さと少しクセのある髪質を受け継いでいた。だから母さんよりはキツめの顔は取っ付きにくく見えるのか、この魔女の目を持ってしても友達は多くなかった。
そんな事を考えて苦笑しながら、僕は黒いTシャツと、ダボっとした白い綿パンツに白いサンダルを引っ掛けると玄関を出た。丁度隣の門邸が軋む音に顔を上げると、慶太が僕の頭を指さしていた。
僕は玄関に転がっていた黒いキャップを被ると、ついでに母さんの小さな丸いサングラスを掛けた。男性ものだとずり落ちる僕の顔に、女物のアーティストっぽいサングラスは妙に馴染んだ。
「おー、洒落てんなぁ。絶対俺には似合わない奴じゃん。」
そう言って弾ける様に笑う慶太に僕はニヤリと口元を緩めて言った。
「慶太はいかにもマッチョなアイテムの方がしっくり来るんだよ。僕はほら、魔女だから。」
僕の魔女発言に、慶太は聞き慣れた僕の父さんの例の話を思い出したらしく肩をすくめて言った。
「まぁ、魔女の家系ならそれっぽいアイテムが似合うのも当たり前だな?ハハハ。それより急ごうぜ。せっかく観に行って試合終わってたらアホみたいだからな。」
そう言って駅に向かって歩き出す慶太の後を追いかけながら、僕は慶太が観戦に付き合ってくれる事に感謝していた。慶太がダメだったら一人で観に行く勇気が出たかどうか分からない。
観に行けなければ、僕は変わらない日々を燻った気持ちを抱えたまま過ごしていたはずだ。今日観に行ったからって、何か変わるわけじゃないだろうけど、少なくとも今日僕は自分の気持ちを決めようと思っていたんだ。
翔ちゃんへの気持ちをしまい込むかどうかを。
僕は五十嵐先輩の事をこのままにしておくのは悪い気がして来ていた。少なくとも僕に好意を寄せてくれている先輩の眼差しは僕を揺らした。翔ちゃんを忘れて、先輩を好きになれればどんなに楽しいだろう。
あの真っ直ぐな眼差しの先には何が待っているんだろう。それは僕の中に疼く何かだった。思春期真っ盛りの僕たちはキスをすればその先を望むのは自然だった。
中学生でそれをするかは個人の問題だけど、結局この先僕がその問題に向き合う時に浮かび上がってくるのは翔ちゃんの事だろう。いっそ蓋をして、好意を持てる優しい相手と楽しく付き合うのもアリなのかもしれない。
そう思い始めるほどには、僕の身体が性に支配されつつあったんだ。そんな事を僕が考えているなんて全然思っていないだろう慶太に笑いかけると、僕たちは地区予選の開かれている大きな公立体育館目指してバスに乗った。
「ラッキー、空いてて良かったな。」
そう慶太が言いながら、僕を奥の座席へと座らせた。僕はクスッと笑って慶太に言った。
「なんか慶太って僕の保護者?恋人みたいだね。だってサッカー仲間に奥の席に座らせるとかしないでしょ。」
すると唖然とした顔で僕を見つめた慶太は、急に顔を赤くして言った。
「…そう言われてみるとそうかもしれないけど。魔女の力なのか?はぁ。だって侑は何か脆そうって言うか、俺とは違う生き物っぽいんだよな。そっか。俺も侑を無意識に特別扱いしてんのかな。」
僕は慶太の顔をあげて他に誰が特別扱いしてるのかと尋ねた。すると何でそんな事が分からないのかとでも言う様に、慶太は僕を見つめて言った。
「え?兄貴もそうだろ?今日観に行くって言ったら、侑の事ガードしろって言われたよ?まったく皆で過保護になっちゃって。ね、侑様?」
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