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ヴィレスクの地へ
頬へのキス
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僕はさっきエドワードから、頬にキスされた事を消化出来ないでいた。頬のキスは従兄弟同士なら、まぁ無いわけじゃない。兄上には学院に戻る時にしつこくされるし、侯爵にも時々…。
でもエドワードにはされた事が無かったから、ちょっとびっくりしたっていうか。エドワードでもあの手の挨拶するんだなって。あれか。ここは欧風なんだ。頬へのキスは挨拶的な。
でもどの人までそのキスをしたら良いかも分からないし、受けて良いのかも分からない。ま、いいか。僕は子供だから、それこそ深刻な意味にはならないだろう?受けて立とうじゃないか、挨拶のチュッチュくらい。減るもんじゃなし。ハハハ。
「サミュエル、何一人で笑ってるんだ?」
エドワードが僕を訝しげな眼差しで見つめていた。僕は何でもないと首を振ると、エドワードに手を引かれて豪華な食事処へと入って行った。周囲の人達が僕らを、ヒソヒソと噂しながら見ているから、随分注目されているのだと驚いてしまった。
今回の領地への旅は、侯爵とアルバート兄様が仕事や学業で間に合わず、僕らだけ先に出立したんだ。僕たちはすっかりバカンス気分で正直浮かれていた。
護衛騎士が二人と、若い執事、もっとも彼らは男爵や子爵の次男や、三男だから貴族には違いない。僕たちについて店の奥へと案内された。ここは既にヴィレスク領内のそこそこ大きな街らしくて、エドワードは領主の令息なのだからこの丁重な扱いも分かる。
しかし立場があるって結構面倒臭そうだなぁと、僕は本当に他人事として呑気にしていたんだ。実際僕は今、名無しの人間には違いない。公式にサミュエル ケルビーノと名乗れないし。
僕はエドワードの友達S君て所だな。僕はその、友達S君の仮の名前を気に入って一人クスクス笑っていた。呆れたように振り返ったエドワードがため息をついたけれど、僕のクスクスは止まらなかった。
個室に案内されると、部屋の入り口に護衛が一人立って、入室する使用人やらをチェックするらしい。僕はいちいちその手の事に慣れなくて、庶民育ちが丸出しなんだ。
食事が運ばれてくると、もう一人の護衛が味見をしてエドワードと僕に食べる許可をくれる。やっぱりいちいち大変だ。けれども、それが貴族の上位である侯爵家の者としての用心深さなのかもしれない。
そんな事を思いながら食事を楽しんでいた時、何やら扉のところで護衛騎士と誰かが揉め始めた。僕たちは顔を見合わせて何事かと思ったけれど、おもむろにエドワードが執事に命じた。
「ちょっと何がどうなっているか見てきてくれるかい?」
僕は騒がしい事も気になったけれど、一方でエドワードが侯爵家の令息として立派に振る舞っているのを見て、とっても感動したんだ。あの、剣マニアとはとても思えないよ、エドワード!
でもエドワードにはされた事が無かったから、ちょっとびっくりしたっていうか。エドワードでもあの手の挨拶するんだなって。あれか。ここは欧風なんだ。頬へのキスは挨拶的な。
でもどの人までそのキスをしたら良いかも分からないし、受けて良いのかも分からない。ま、いいか。僕は子供だから、それこそ深刻な意味にはならないだろう?受けて立とうじゃないか、挨拶のチュッチュくらい。減るもんじゃなし。ハハハ。
「サミュエル、何一人で笑ってるんだ?」
エドワードが僕を訝しげな眼差しで見つめていた。僕は何でもないと首を振ると、エドワードに手を引かれて豪華な食事処へと入って行った。周囲の人達が僕らを、ヒソヒソと噂しながら見ているから、随分注目されているのだと驚いてしまった。
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護衛騎士が二人と、若い執事、もっとも彼らは男爵や子爵の次男や、三男だから貴族には違いない。僕たちについて店の奥へと案内された。ここは既にヴィレスク領内のそこそこ大きな街らしくて、エドワードは領主の令息なのだからこの丁重な扱いも分かる。
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僕はエドワードの友達S君て所だな。僕はその、友達S君の仮の名前を気に入って一人クスクス笑っていた。呆れたように振り返ったエドワードがため息をついたけれど、僕のクスクスは止まらなかった。
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そんな事を思いながら食事を楽しんでいた時、何やら扉のところで護衛騎士と誰かが揉め始めた。僕たちは顔を見合わせて何事かと思ったけれど、おもむろにエドワードが執事に命じた。
「ちょっと何がどうなっているか見てきてくれるかい?」
僕は騒がしい事も気になったけれど、一方でエドワードが侯爵家の令息として立派に振る舞っているのを見て、とっても感動したんだ。あの、剣マニアとはとても思えないよ、エドワード!
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