9 / 11
新たな国王の誕生の裏で
しおりを挟む
ーー 王城再び大荒れ。
第二王子が魔物のスタンピードを鎮めた頃、王都では第一王子が亡くなった。
その情報を聞いた第二夫人が突然王の前に現れて、
「王よ、第一王子、第二王子とも死んだと言うではありませんか。第三王子が無事戻ってきた暁には、皇太子としてお披露目を行いましょう。」
と言い出した。
「ぬん?第二王子は生きておるぞ、第三王子の増援で東の森に向かわせておる。第二王子が襲われた事を誰から聞いたのだ?」
と王に聞かれ、慌てて立ち去ろうとする第二夫人。
その時伝令が現れた
「申し上げます。東の森に魔物討伐に向かった第二王子からの伝令です。去る2日前スタンピードの第一、第二波の撃破を成功させました。1日前にスタンピードの本体と思われる第三波と森の手前の切り通しにおいて遭遇、ワイバーンを始めとする魔物を殲滅し先行の第三王子が部隊を探すも姿なく、全滅の可能性あり。しばらく現場付近で捜索を実施予定にあります。これは現場付近で見つけた旗にございます。」
と報告した、それを聞いた第二夫人は取り乱し
「我が息子が魔物に殺されたと申すか!きっと第二王子が命を狙われた腹いせに、我が息子を殺めたに違いない。王よ、第二王子を討ち取ってください。」
と言い出した、その言葉を聞いた国王は
「しばらくの間、第二夫人を幽閉しておけ!」
と言うと第二王子に帰還を命じる使者を出した。
これより、後継を目論む第二夫人の暗躍が次第に明白となり、二人の息子を亡くした国王はその後急速に老い、病に倒れることになる。
3ヶ月後、第二王子が国王の代行に就くこととなり、そのまま国王となることになる。
ーー 遠征から帰って。
俺は、東の森を視察してこれ以上の魔物の氾濫がないと判断し、王都に帰還した。
第二王子は、急遽国王に呼び戻されたので兵士を連れての凱旋となった。
王都では、多くの市民が兵士を歓迎して出迎えた。
「第二王子バンザーイ!王国軍バンザーイ!」
祭りの様な人出に、この世界が魔物の脅威に怯えている事を表していた。
帰還後俺はスラム街の教会へ向かった。
スラムの街は見違えるほどに変わり、教会内には40人ほどの子供達が共同生活を明るい顔で、送っていた。
俺はシスターマリアに魔物の食料を渡すと
「これからはここで子供達を守り育てることができるだろう。困ったら連絡せよ。」
と言ってスラムを後にした。
その後王城に向かい、収納していた魔物を取り出し宰相に確認をしてもらった後、城を後にした。
久しぶりに自宅に帰って来た。
執事のセバスが出迎えてくれた。
風呂を頼み、着替えを行う俺にメイドのシルビーが風呂の準備ができたと、伝えに来た。
「ありがとう、すぐに行く。」
と伝え久しぶりの風呂を堪能する。
湯船の中で自分の身体を見ながら
「なんと元気になったことだろう。しかし慢心はするまい、前世の二の舞になってしまう。」
と独り言を言いながら戒めるのであった。
ーー 新国王からの呼び出し。
半年後。
俺は新しく国王になられたチャールストン国王に呼ばれた。
王城に上がると、直ぐに謁見の間に連れて行かれそこで、
「其方に我がセンターターク王国は2度助けられた、その貢献に対し我が王国は子爵位を贈りその栄誉を讃えることとした。是非に受け取ってもらいたい。」
と国王から直接お言葉を言われれば断ることもできず、叙爵したのであった。
ただしこの貴族位は、領地の無い法衣のものであったが特別にスラム街をその領地とされた。
これにより、スラムに住む住人は俺が求めない限り、税はなく登録さえすれば領民となることになった。
その為、さらに領民用の住宅が必要になり、急遽建て増しを行うことになったが、その資源はまだ潤沢に持っていたので、特に問題はなかった。
ーー 新国王の狙い。
新国王となったチャールストン国王は、就任以来あることに悩んでいた。
突然の王位交代と第一第三王子が亡くなったことに、王国内のパワーバランスが崩れたことに悩んでいた。
そこで新国王は、あの男を自分の味方にすることにした。
「宰相よ、救国の英雄に貴族位の褒美を与えようと思う。どのくらいが適当か教えて欲しい。」
と意見を求めると、宰相は
「なれば、国王様の窮地を救った功績と、王国を魔物から救った功績で子爵位が良いかと。」
「二つの功績で子爵位か、それで領地はどうする?」
「領地については、無い方がいいかと思いますが聞くところによると、スラム街を個人で改革していると。それならばこの王国に繋ぎ止める目的でも、スラム街を領地として与えるのはどうでしょう?我が王国にとっても嬉しい限りであると思われますが。」
「なるほど、それならば我が王国に紐付けされる。その案を採用しよう。」
と言うことになったのだ。
ーー スラム街の教会 side
シスターマリアは、スラム街を領地とする新たな領主の存在を耳にした。
「タケヒロ様が、王国からこのスラム街と子爵位を手にされたと聞いたけど本当なのかしら?本当ならとても嬉しいことだけど・・・。」
と呟くとそれを聞いていた子供らが
「シスター、あのお兄ちゃんがここの領主様になったの?」
「そうらしいはね、今度来た時に確認しましょうね。」
と答えて話を終えたが、シスターマリアは大きな期待をしていた。
「あの方ならもっと大きな愛でこの国を包み込むに違いない。」
と。
ーー 忙しい毎日。
俺の1日がものすごく忙しくなって来た。
朝起きると、魔クモの様子を見てから朝食。その後糸巻きと機織りを確認するとスラム街へ向かう。職人を育てる施設の様子を見ながら彼らが出来る商品開発を行う。
その一つに玩具がある、この世界には遊ぶという余裕が少ない為、玩具が少ないのだ。
テーブルゲームを中心に作成販売し後は、子供の〇〇ごっこ用の剣や鎧を販売すると、富裕層の子供を持つ親が多く買ってくれる様になった。
布は以前から高い値段で売れており、最近ではデザインを提案することで多様な服が流行する様になった。
午後は騎士や冒険者を目指す者達の練習にたちあう。
スラム街だが領地として与えられた為にここを守る騎士を採用する必要ができた。
そのため交代制である程度の数を採用する予定にしたら、スラムにいる男や子供達がやる気を出し始めて、毎日訓練をし始めたのだ。
今は自警団的なモノであるが、将来的には騎士に任命してスラムを護る職業軍人にする予定だ。
その他自宅で家庭教師のキャロル嬢から、この国の歴史と貴族としての常識を教えてもらっている。
夜は工房で新たな物作りを試行錯誤している為、本当に忙しいのだ。
ーー 病院を作ろう。
この世界において病院という施設は存在しない。
怪我をすれば、ポーションか教会などでの癒しの魔法、病気になれば回復魔法や薬師の薬を購入する事になる。
よってお金のないスラムの住民は今まで、民間療法と言う疑わしい治療か我慢という最終手段しかなかったわけだ。
俺はそこに税金を取り立てそれで医療費を工面しようと考えている。
俺自体、魔物を狩りに行けば金は直ぐに稼げるのだから、税はなくてもいいのだがそれでは、問題が出てくるだろう。
そこで少ないが税を取り立てて医療費に回すのだ、自分達のお金で治療を受けられるとあれば自覚も芽生えるだろう。
それと冒険者になれば怪我はつきものだ、同じ者が月に何度も怪我を治療するのでは、不公平感が出るだろう。
そこで冒険者については、月に何回以上は実費又は割り増しとすればいいかもしれない。
後は治療にあたる癒し手と薬を作る薬師を育てて、少しでも自分達の力でなんとか出来る体制を作りたいものだ。
箱物は今のうちに作っておこう。
ーー 貴族といえば社交
子爵としての貴族位を受けて、家庭教師のキャロル嬢から貴族の常識を教えられた俺は、貴族としての最低限の常識と持ち物を取り揃えることしなった。
品物はイエズ商会に依頼し、服はこちらで懇意になった商会に仕立てを依頼し、紋章や屋敷の門構えなどをそれらしく作り替えていった。
紋章などは、ドラゴンの姿と剣は最低限入れて欲しいと言われ、かなり工夫した絵柄となった。
その後キャロル嬢の実家である男爵家のパーティーに招かれて、社交デビューをしたりなど面白くも忙しい日々を送っていた。
「タケヒロ子爵様ですね。私はコーリヤス男爵家のメリーナと申します。本日お会いしたのも何かのご縁、今度我が家でもパーティーを開きますの。是非来ていただきたいとお招きに参りました。」
と丁寧な挨拶をされ、断るしべも知らない俺は思わず「わかりました」と答えていた。
その事をキャロル嬢に話すと、
「今回はしょうがありませんが、以後は言葉に注意しておいてくださいね。いつの間にか婚約、という事にもなりかねませんからね。」
とキツく注意された。
「そんなことがあるのか?」
と思わず呟いた俺だった。
その後は話しかけてくる女性に特に気をつけながら、戦々恐々としていた俺だが何事もなく社交は終了した。
その5日後、招待を受けた手前顔を出さないわけには行かなくなった俺は、コーリヤス男爵家のパーティーに出向いた。キャロル嬢からの事前の情報で、コーリヤス男爵家は特に問題のある貴族ではなく、逆に領民思いの貴族との事であった。
パーティーも内輪の立食パーティー的なもので、華美なものはあまり目につかず心地よいものだった。
「我が家のパーティーは少し地味なので、ガッカリされていませんか?」
と誘ってくれたメリーナ嬢が声をかけて来た。
「いいえ、俺は世間知らずの成り上がりですので、このくらいが心地いいくらいです。」
と素直に答えると
「本当に正直な方ですね。今宵お誘いしたのには私なりに目的があるのです。我が男爵領において、以前から病が広がっており困っております。タケヒロ子爵様は癒し手としてもかなりの実力と耳にしております。一度我が男爵領に足をお運びになって、領民をみていただけないでしょうか?」
と真剣な眼差しで頼まれた。
「分かりました、俺でいいなら見に行きましょう。場所を教えていただけますか?明日にでも向かいます。」
と答えると本当に嬉しそうに男爵領の場所や病人の特徴を教えてくれた。
ーー 癒し手として。
メリーナ嬢が伝えた病状に俺は心当たりがあった。
「脚気」である。
そこで、麦を大量に購入してコーリヤス男爵領に向かった。
男爵領に入るとそこに一台の馬車が待っていた、降りて来た人物はメリーナ嬢、俺の答えを聞いてここで待っていた様だ。
「お待ちしておりました。本当にタケヒロ子爵様は有言実行の方なのですね。ありがとう存じます。」
とお礼を口にすると案内を始めた。
既に病人は一箇所に集められている様で、大きな建物の中に案内された。
「ここは普段収穫した穀物や野菜を選別するところなのですよ。」
というメリーナ嬢が奥に部屋のドアを開くと、そこには30人ほどの病人が横になっていた。
俺は直ぐにカッケの診断よろしく膝下を軽く叩いてみる。
「やっぱり脚気のようだ。」
「領民の食事についてお伺いしたいのですが、ここの人々は主に何を食べているのですか?」
と聞くと
「我が男爵領では王国でも珍しい「ベイ」の産地なので、麦よりのこの真っ白いベイを主食にしております。」
と米によく似た穀物を見せてくれた。
「真っ白いということは、精米をされて食べるのですね。」
「よくご存知で!はい、真っ白く甘いベイはこの辺りでは御馳走です。」
と答えるメリーナ嬢に
「実は俺の故郷でも同じような病が流行ったことがあります。真っ白いご飯が悪いわけではなく、時々精米をしない物や麦を食べることをお勧めします。真っ白いと言うことは大切な栄養も一緒に削っていることも多いのです。暫くは麦食に変えて、体調が戻れば定期的に麦を食べる事をおすすめします。本日は少しばかり治療をしますがこれは死に至ることもありますので、必ずお守りください。」
と言うと俺は纏めて、「ヒール」と治療魔法を行使した。
「おお、体が軽くなったぞ。」
次々に立ち上がる領民を見てメリーナ嬢が大きく目を見開き
「皆さん、タケヒロ子爵様のお言葉を忘れないようにしてくださいまし。」
と指示をすると俺を館に招いてくれた。
「本日は誠にありがとう存じます。昔からとても困っていた病で、私の曾祖父母もこの病で亡くしていたのです。」
と悲しそうな声で語った。
第二王子が魔物のスタンピードを鎮めた頃、王都では第一王子が亡くなった。
その情報を聞いた第二夫人が突然王の前に現れて、
「王よ、第一王子、第二王子とも死んだと言うではありませんか。第三王子が無事戻ってきた暁には、皇太子としてお披露目を行いましょう。」
と言い出した。
「ぬん?第二王子は生きておるぞ、第三王子の増援で東の森に向かわせておる。第二王子が襲われた事を誰から聞いたのだ?」
と王に聞かれ、慌てて立ち去ろうとする第二夫人。
その時伝令が現れた
「申し上げます。東の森に魔物討伐に向かった第二王子からの伝令です。去る2日前スタンピードの第一、第二波の撃破を成功させました。1日前にスタンピードの本体と思われる第三波と森の手前の切り通しにおいて遭遇、ワイバーンを始めとする魔物を殲滅し先行の第三王子が部隊を探すも姿なく、全滅の可能性あり。しばらく現場付近で捜索を実施予定にあります。これは現場付近で見つけた旗にございます。」
と報告した、それを聞いた第二夫人は取り乱し
「我が息子が魔物に殺されたと申すか!きっと第二王子が命を狙われた腹いせに、我が息子を殺めたに違いない。王よ、第二王子を討ち取ってください。」
と言い出した、その言葉を聞いた国王は
「しばらくの間、第二夫人を幽閉しておけ!」
と言うと第二王子に帰還を命じる使者を出した。
これより、後継を目論む第二夫人の暗躍が次第に明白となり、二人の息子を亡くした国王はその後急速に老い、病に倒れることになる。
3ヶ月後、第二王子が国王の代行に就くこととなり、そのまま国王となることになる。
ーー 遠征から帰って。
俺は、東の森を視察してこれ以上の魔物の氾濫がないと判断し、王都に帰還した。
第二王子は、急遽国王に呼び戻されたので兵士を連れての凱旋となった。
王都では、多くの市民が兵士を歓迎して出迎えた。
「第二王子バンザーイ!王国軍バンザーイ!」
祭りの様な人出に、この世界が魔物の脅威に怯えている事を表していた。
帰還後俺はスラム街の教会へ向かった。
スラムの街は見違えるほどに変わり、教会内には40人ほどの子供達が共同生活を明るい顔で、送っていた。
俺はシスターマリアに魔物の食料を渡すと
「これからはここで子供達を守り育てることができるだろう。困ったら連絡せよ。」
と言ってスラムを後にした。
その後王城に向かい、収納していた魔物を取り出し宰相に確認をしてもらった後、城を後にした。
久しぶりに自宅に帰って来た。
執事のセバスが出迎えてくれた。
風呂を頼み、着替えを行う俺にメイドのシルビーが風呂の準備ができたと、伝えに来た。
「ありがとう、すぐに行く。」
と伝え久しぶりの風呂を堪能する。
湯船の中で自分の身体を見ながら
「なんと元気になったことだろう。しかし慢心はするまい、前世の二の舞になってしまう。」
と独り言を言いながら戒めるのであった。
ーー 新国王からの呼び出し。
半年後。
俺は新しく国王になられたチャールストン国王に呼ばれた。
王城に上がると、直ぐに謁見の間に連れて行かれそこで、
「其方に我がセンターターク王国は2度助けられた、その貢献に対し我が王国は子爵位を贈りその栄誉を讃えることとした。是非に受け取ってもらいたい。」
と国王から直接お言葉を言われれば断ることもできず、叙爵したのであった。
ただしこの貴族位は、領地の無い法衣のものであったが特別にスラム街をその領地とされた。
これにより、スラムに住む住人は俺が求めない限り、税はなく登録さえすれば領民となることになった。
その為、さらに領民用の住宅が必要になり、急遽建て増しを行うことになったが、その資源はまだ潤沢に持っていたので、特に問題はなかった。
ーー 新国王の狙い。
新国王となったチャールストン国王は、就任以来あることに悩んでいた。
突然の王位交代と第一第三王子が亡くなったことに、王国内のパワーバランスが崩れたことに悩んでいた。
そこで新国王は、あの男を自分の味方にすることにした。
「宰相よ、救国の英雄に貴族位の褒美を与えようと思う。どのくらいが適当か教えて欲しい。」
と意見を求めると、宰相は
「なれば、国王様の窮地を救った功績と、王国を魔物から救った功績で子爵位が良いかと。」
「二つの功績で子爵位か、それで領地はどうする?」
「領地については、無い方がいいかと思いますが聞くところによると、スラム街を個人で改革していると。それならばこの王国に繋ぎ止める目的でも、スラム街を領地として与えるのはどうでしょう?我が王国にとっても嬉しい限りであると思われますが。」
「なるほど、それならば我が王国に紐付けされる。その案を採用しよう。」
と言うことになったのだ。
ーー スラム街の教会 side
シスターマリアは、スラム街を領地とする新たな領主の存在を耳にした。
「タケヒロ様が、王国からこのスラム街と子爵位を手にされたと聞いたけど本当なのかしら?本当ならとても嬉しいことだけど・・・。」
と呟くとそれを聞いていた子供らが
「シスター、あのお兄ちゃんがここの領主様になったの?」
「そうらしいはね、今度来た時に確認しましょうね。」
と答えて話を終えたが、シスターマリアは大きな期待をしていた。
「あの方ならもっと大きな愛でこの国を包み込むに違いない。」
と。
ーー 忙しい毎日。
俺の1日がものすごく忙しくなって来た。
朝起きると、魔クモの様子を見てから朝食。その後糸巻きと機織りを確認するとスラム街へ向かう。職人を育てる施設の様子を見ながら彼らが出来る商品開発を行う。
その一つに玩具がある、この世界には遊ぶという余裕が少ない為、玩具が少ないのだ。
テーブルゲームを中心に作成販売し後は、子供の〇〇ごっこ用の剣や鎧を販売すると、富裕層の子供を持つ親が多く買ってくれる様になった。
布は以前から高い値段で売れており、最近ではデザインを提案することで多様な服が流行する様になった。
午後は騎士や冒険者を目指す者達の練習にたちあう。
スラム街だが領地として与えられた為にここを守る騎士を採用する必要ができた。
そのため交代制である程度の数を採用する予定にしたら、スラムにいる男や子供達がやる気を出し始めて、毎日訓練をし始めたのだ。
今は自警団的なモノであるが、将来的には騎士に任命してスラムを護る職業軍人にする予定だ。
その他自宅で家庭教師のキャロル嬢から、この国の歴史と貴族としての常識を教えてもらっている。
夜は工房で新たな物作りを試行錯誤している為、本当に忙しいのだ。
ーー 病院を作ろう。
この世界において病院という施設は存在しない。
怪我をすれば、ポーションか教会などでの癒しの魔法、病気になれば回復魔法や薬師の薬を購入する事になる。
よってお金のないスラムの住民は今まで、民間療法と言う疑わしい治療か我慢という最終手段しかなかったわけだ。
俺はそこに税金を取り立てそれで医療費を工面しようと考えている。
俺自体、魔物を狩りに行けば金は直ぐに稼げるのだから、税はなくてもいいのだがそれでは、問題が出てくるだろう。
そこで少ないが税を取り立てて医療費に回すのだ、自分達のお金で治療を受けられるとあれば自覚も芽生えるだろう。
それと冒険者になれば怪我はつきものだ、同じ者が月に何度も怪我を治療するのでは、不公平感が出るだろう。
そこで冒険者については、月に何回以上は実費又は割り増しとすればいいかもしれない。
後は治療にあたる癒し手と薬を作る薬師を育てて、少しでも自分達の力でなんとか出来る体制を作りたいものだ。
箱物は今のうちに作っておこう。
ーー 貴族といえば社交
子爵としての貴族位を受けて、家庭教師のキャロル嬢から貴族の常識を教えられた俺は、貴族としての最低限の常識と持ち物を取り揃えることしなった。
品物はイエズ商会に依頼し、服はこちらで懇意になった商会に仕立てを依頼し、紋章や屋敷の門構えなどをそれらしく作り替えていった。
紋章などは、ドラゴンの姿と剣は最低限入れて欲しいと言われ、かなり工夫した絵柄となった。
その後キャロル嬢の実家である男爵家のパーティーに招かれて、社交デビューをしたりなど面白くも忙しい日々を送っていた。
「タケヒロ子爵様ですね。私はコーリヤス男爵家のメリーナと申します。本日お会いしたのも何かのご縁、今度我が家でもパーティーを開きますの。是非来ていただきたいとお招きに参りました。」
と丁寧な挨拶をされ、断るしべも知らない俺は思わず「わかりました」と答えていた。
その事をキャロル嬢に話すと、
「今回はしょうがありませんが、以後は言葉に注意しておいてくださいね。いつの間にか婚約、という事にもなりかねませんからね。」
とキツく注意された。
「そんなことがあるのか?」
と思わず呟いた俺だった。
その後は話しかけてくる女性に特に気をつけながら、戦々恐々としていた俺だが何事もなく社交は終了した。
その5日後、招待を受けた手前顔を出さないわけには行かなくなった俺は、コーリヤス男爵家のパーティーに出向いた。キャロル嬢からの事前の情報で、コーリヤス男爵家は特に問題のある貴族ではなく、逆に領民思いの貴族との事であった。
パーティーも内輪の立食パーティー的なもので、華美なものはあまり目につかず心地よいものだった。
「我が家のパーティーは少し地味なので、ガッカリされていませんか?」
と誘ってくれたメリーナ嬢が声をかけて来た。
「いいえ、俺は世間知らずの成り上がりですので、このくらいが心地いいくらいです。」
と素直に答えると
「本当に正直な方ですね。今宵お誘いしたのには私なりに目的があるのです。我が男爵領において、以前から病が広がっており困っております。タケヒロ子爵様は癒し手としてもかなりの実力と耳にしております。一度我が男爵領に足をお運びになって、領民をみていただけないでしょうか?」
と真剣な眼差しで頼まれた。
「分かりました、俺でいいなら見に行きましょう。場所を教えていただけますか?明日にでも向かいます。」
と答えると本当に嬉しそうに男爵領の場所や病人の特徴を教えてくれた。
ーー 癒し手として。
メリーナ嬢が伝えた病状に俺は心当たりがあった。
「脚気」である。
そこで、麦を大量に購入してコーリヤス男爵領に向かった。
男爵領に入るとそこに一台の馬車が待っていた、降りて来た人物はメリーナ嬢、俺の答えを聞いてここで待っていた様だ。
「お待ちしておりました。本当にタケヒロ子爵様は有言実行の方なのですね。ありがとう存じます。」
とお礼を口にすると案内を始めた。
既に病人は一箇所に集められている様で、大きな建物の中に案内された。
「ここは普段収穫した穀物や野菜を選別するところなのですよ。」
というメリーナ嬢が奥に部屋のドアを開くと、そこには30人ほどの病人が横になっていた。
俺は直ぐにカッケの診断よろしく膝下を軽く叩いてみる。
「やっぱり脚気のようだ。」
「領民の食事についてお伺いしたいのですが、ここの人々は主に何を食べているのですか?」
と聞くと
「我が男爵領では王国でも珍しい「ベイ」の産地なので、麦よりのこの真っ白いベイを主食にしております。」
と米によく似た穀物を見せてくれた。
「真っ白いということは、精米をされて食べるのですね。」
「よくご存知で!はい、真っ白く甘いベイはこの辺りでは御馳走です。」
と答えるメリーナ嬢に
「実は俺の故郷でも同じような病が流行ったことがあります。真っ白いご飯が悪いわけではなく、時々精米をしない物や麦を食べることをお勧めします。真っ白いと言うことは大切な栄養も一緒に削っていることも多いのです。暫くは麦食に変えて、体調が戻れば定期的に麦を食べる事をおすすめします。本日は少しばかり治療をしますがこれは死に至ることもありますので、必ずお守りください。」
と言うと俺は纏めて、「ヒール」と治療魔法を行使した。
「おお、体が軽くなったぞ。」
次々に立ち上がる領民を見てメリーナ嬢が大きく目を見開き
「皆さん、タケヒロ子爵様のお言葉を忘れないようにしてくださいまし。」
と指示をすると俺を館に招いてくれた。
「本日は誠にありがとう存じます。昔からとても困っていた病で、私の曾祖父母もこの病で亡くしていたのです。」
と悲しそうな声で語った。
1
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる