魔法のない異世界に転生した、唯一の魔法使い。

モンド

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この世界は、魔法がないくせに魔法と見間違う様なスキルがある様だ。

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 クールヘクト商会、これがヘクトの持つ商会の名だが、これがどうやらこの街というかこの王国の中でも5本の指に入る豪商のようだ。

「うちの店にない品物は、王都にもないと思って結構です。品揃えだけは負けないつもりですよハハハハ。」
物凄い自信だ。

10日ほど滞在してある程度この世界の常識を知った男は、クールヘクト商会を出て家を借ることにした。

「いつまでも居てもらって構わないのですが・・・それでは、良い物件を紹介しましょう。」
ヘクトさんから貸家を紹介されて、天気の良い日に引っ越しがてら家具を新調。
ただ、この世界のトイレと風呂だけはどうにかしたいと思う男。

職人街をブラブラしながら仕事を見ていた時、魔法のような技術に男は驚いていた。
[錬金術]と言うことだが、材質は木であろうと金属であろうと構わなく、思い通りに伸ばしたり曲げたり出来るようで。
見事なテーブルや椅子にベットや棚など面白いように仕上がって行く姿は、一つのエンターテイメントのようだった。

薬などもポーションと同じく、[錬金術]と[製薬]と言うスキルで正確に作られ、効果も値段方ではあるがそれなりにあるようだ。

当然武器や鎧・服なども同じようにスキル持ちが作っており、スキル自体は教会でお布施をすれば初期スキルを授けてくれるそうだ。
ただ、魔法だけは存在せず。
精々身体強化ができるものがいる程度らしいが、技術にはスキルが派生するようで、高レベルのスキルや特殊な技能のスキルを持つとかなり儲かったり強かったりするようだ。


   生活を豊かにそしてひっそりと。


 賃貸の家を買い取った男は、早速トイレや風呂の改築に取り掛かった。
水回りをしっかりと上下水道に変えてから、臭い防止のU字パイプを設置した後。
魔道具作成を始める。
先ずはきれいな飲み水の確保、水を作り出す魔道具を作成する。
次に下水をきれいにする浄化機能付き魔道具を作成。
大きなバスタブとシャワーヘッドを作成した後、この世界にはないホースを作る。
ホースの原料は、あのスライムだ。
この世界ではゴムの代わりにスライムの体液を煮詰めたものが使われる。
男はこれに魔物のブルースネークの皮を混ぜ合わせて、筒状に引き伸ばすとホースが出来上がるのだ。

前世の知識のある男は、豊かな生活に必要なもの自体を知っている、この世界にあるものに少しの加工を加えるとなぜかそれらしいものが出来上がるのだ。

男は寝具についても考えだした。
基本平民は、藁などにシーツをかけたベットを使っている。
貴族と言われる者たちでもそれに毛皮と毛布を使う程度で、羊毛・羽毛布団やマットレス自体の考えがない。

男は、魔物を狩りながら素材を収集し始める。
羽毛は、水辺にいる羽根のある羊の様な魔物。
羊毛は、毛に覆われた牛の様な魔物。
マットレスの素材となる魔物は、海に居る鯨の様な魔物の口の髭だ。
蜘蛛の魔物から採った丈夫な糸で編み上げた布をマットレスの形に縫い上げて口髭を押し込めると、上等なマットレスが出来上がる。
男は面白い様にマットレスを作り上げて、収納していったが、ふと
「こんなに作って俺はどうするつもりだったんだ?」
とぼやいたりしたが、羊毛・羽毛布団作りで同じことを繰り返していた。

男は、羊毛を作る際に毛足の長い敷物も作り上げていたのだが、今はそれを赤や紺色に染め上げている。
断熱材がない為、冬は底冷えがすると聞き、床に敷物をしようと考えたのだ。
買い取った家は結構広くて、レンガと木造建の3階建て。
1階には広いエントランスとパーティーでも出来そうな居間と地下室を備える台所兼ダイニングが有り。
2階には、男が作り上げた風呂場がドンと構えられている。
寝室や客間は、2階と3階に6部屋ほどあり、それ以外は書斎と納戸部屋である。
天井裏には、家を管理するメイドなど用の部屋が4つあり、それぞれ十分な広さと家具が設置されている。

庭に馬小屋兼道具小屋があるが、簡単な台所と寝台が2つあり庭師などの下働きの部屋の様だった。

男は、各階に新設したトイレを設け、洗面台も準備した。
此処で男は、
「こんなに改築したが誰に見せるんだ?誰を呼ぶんだ?俺は結婚を考えているのか?」
と納得ができない自分の行動に頭を悩ませていた。


   家には、住む人(家族)が必要でしょう。


 男が住み始めて暫くして、ヘクトさんが様子を見に家を訪れた。
「どうぞ、独り者で何もない家ですが、お座りください。」
と言いながらヘクトを案内しながらお茶の準備を始める男。
ヘクトは、家に入って直ぐに気づいた。
「此処は変な匂いがしませんな」
下水の臭いは、どこでも頭痛の種なのだ。
「ええ、排水管にちょっとした工夫をすると、嫌な匂いが上がってこないんですよ。」
と答えながら原理を説明する男。
金の匂いを嗅ぎつけたヘクトさんが、現物を見せてくれと頼むのを承知して男は。

「此処が2階のトイレや洗面所及び浴槽のある部屋ですよ。」
と言いながら水回りが集中している部屋を案内しながら、パイプの原理を説明する。
「凄いですな、たったこれだけの工夫で・・・ん!これは何でしょうか?」
冷水や熱湯を作り出す魔道具と下水を浄化する魔道具に興味を引くヘクトさん。

「これは、飲み水や風呂のお湯を作る魔道具でこっちのは下水を浄化する魔道具ですよ。これでいつでも美味くて熱い水や汚い水をきれいにして排水しているんですよ。」
と自慢げに説明すると
「これは何処で購入した物ですか?」
「いや、俺が作ったんですよ。こう言う物作りは好きなもんで。」
と答えると何かに気付いたのかヘクトさんは、
「他の部屋も見せてもらっていいですか?」
と言うので寝室や客間それと台所さらにはトイレを案内した。
するとヘクトさんは、
「ケージ様お願いがあります。今見せてもらった品々は、とても生活を豊かにできる品物ばかりです。どうかそのレシピを私にお売りください。この王国中に広めて見せます。」
と言い出した。
「そんなに気に入りましたか。いいでしょう、ただ私の名前はできる限り出さないでください。」
と念押しをして幾つか在庫のある品物をレシピとともに売り渡すことにした。


その後、数日してからヘクトさんが、家に来て
「ケージ様、この家にお一人は何かと不便でしょう。調理人やメイド・下働き等の男衆を世話しますが如何ですか?」
と言ってきた、確かに掃除や家の管理は大変であるが・・・。
「そうですね、ヘクトさんが紹介してくれる人物であれば雇い入れてもいいですよ。」
と答えると、その日の夕方には5人の者が家に来た。

「俺がこの家の主人ケージだ。俺はあまり常識を知らないので、間違っている事や足りないことがあったら教えてくれ。」
と男は、挨拶しながらそれぞれの要望を聞き取り明日からの仕事をお願いしたのだった。
住み込みで働くのは、御者兼庭師のアーノルド(30)、執事のサイノス(50)、メイドのサリー(15)。
通いが調理人のゼウス(40)、メイド長のシュナ(40)である。

その後、3ヶ月ほどすると。
「これがあの品々のレシピ代と現在販売しているものの利益です。」
と言いながらヘクトさんが大量の金貨を持ってきた。

商業ギルドに制作を依頼して、販売はヘクトさんが一手に担っている様だ。

「話は変わりますがケージ様、この街の領主様と良い関係を築かれては如何ですか?その方がケージ様の言われる静かな生活が保たれると思いますが。」
と提案をしてきた。
男は考えていたのだ。
この世界で静かに好き勝手に生きるためには、後ろ盾が必要なことを。
それが豪商のヘクトさんだけではなく、貴族側にも必要なことを。
「そうですね、顔つなぎよろしく頼むよ。但し俺は常識を知らなすぎる、事前に対応を教えてもらいたい。」
と男は素直に答えた。
「宜しでしょう。このヘクトできる限りのことは致しましょう。その為にケージ様の他にはない特技や品物を教えて欲しいのですが。」
と言う要望に答えて、ここ3ヶ月で作り上げた品々を紹介し始めた。

「これは、ポーションですが向かって右から中ポーション、上ポーション、特上ポーション。
さらにその隣から特上解毒ポーション、耐麻痺ポーション、耐石化ポーション。」
さらにその横に置いている品々を指差し
「食材を冷やして保存する冷蔵庫、氷を作り出す製氷器、一瞬にして食べ物を加熱するレンジ。
部屋を明るく照らす照明、これらはこの小さな魔石一個で約1月稼動します。」
と説明しながら弱い魔物が体内に持つ魔石を見せた。

「これは素晴らしい!魔石の動力を使うことで他にも便利な物が作れそうですね。」
と感心しながらヘクトさんは、クールザン辺境伯への贈り物を吟味していた。


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