人形の輪舞曲(ロンド)

美汐

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第七章 真犯人

真犯人5

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 母校は蝉の鳴き声に包まれていた。例の事件があったためだろう。校庭には部活をする生徒の姿はなく、グランド内はがらんとしていた。校舎は以前と変わりなく、静かに佇んでいた。
 北校舎の一角には、花束などがいくつも置かれてあった。池沢くんは校舎の四階から転落したという。上を見上げると、そこは美術室のある位置だった。
 僕たちはそこで手を合わせると、校舎内に入っていった。
 向かった先は職員室。扉を開けると、中には数人の教師の姿があった。
「あら、あなたたちはこの前の」
 この間の女性教師が、僕たちに気付いて話しかけてきた。
「あの、青山先生はいらっしゃいますか?」
「青山先生? たぶん美術室じゃないかしら。案内しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。場所は知ってますから」
 ミナミは丁寧にお辞儀をすると、職員室の扉を閉めた。
「よかった。来てるみたいね」
「急に押しかけて大丈夫ですかね」
「どうしてそういうところで変な気を遣うかな。いいから行くわよ」
 ミナミは冷めた目で僕を見つめると、くるりと身を翻して歩き出した。
 美術室は先程外からも見たように、北校舎四階の突き当たりにあった。ミナミが躊躇なくその扉を開く。開いた瞬間、美術室特有の絵の具の匂いが鼻孔を刺激した。
 教室内は、壁や床のところどころが絵の具や油の染みで汚れていた。イーゼルが数脚立てられていて、そこには生徒の作品であろう油絵が置かれてあった。いずれもまだ製作途中のようである。
 教室内に視線をめぐらせると、奥に立てられてあったイーゼルの向こうに人が座っているのが見えた。キャンバスに隠れていて顔は見えないが、青山先生に間違いないだろう。
「青山先生」
 ミナミがそちらへ近づき、キャンバス越しに呼びかけると、その人物がキャンバスの横から顔をのぞかせた。見覚えのある黒縁の眼鏡。やはりその人は青山先生本人だった。
「ああ、きみたちか。今日はどうしたんだい?」
 心なしか、青山先生の表情には元気がない。あんなことがあったあとだ。無理もないだろう。
「あの、池沢くんのことで少しお訊ねしたいことがあって」
 池沢くんという言葉が出た途端、青山先生の顔はみるみる曇っていった。
「ああ、うん。きみたちも知っているよね。ニュースでもやっていたし。そっちの窓のほう、立ち入り禁止になっているだろう? たぶんそこの窓からだったっていうのが警察の見解だ。しかし、彼が亡くなってしまったことは、本当に残念でならない」
 やはり、池沢くんはここから落ちたのだ。好きな絵を前にして、最後になにを思ったのだろう。
「いろいろ、大変でしたね。先生も担任されてたわけだからつらい立場でしょう」
「ええ、まあ。本当は僕も家でおとなしくしているべきなんだろうがね。なにかしていないと気が塞がってしまって。でも、どうしてきみたちが池沢くんのことを調べているのかな? 特に関わりがあるようには思えないんだけど」
 青山先生は少し怪訝そうな顔になった。
「私、個人的にオカルト研究同好会っていうのやってましてね。それで美鈴ちゃんに面白いこと聞きまして」
「へえ、意外な趣味だね。それで、面白いことっていうのは?」
「呪いの噂です」
 青山先生の顔が、一瞬引きつったように見えた。
「呪い……? なんだか物騒だね」
「先生ご存じありません? 先生のクラスでそういう噂が流行ってるの」
「さあ、僕はあまり聞いたことがないけどなぁ」
 台詞が空回りしている。青山先生の目は落ち着きなく宙を泳いでいた。
 明らかな動揺。先生はなにかを隠している。
「池沢くんがその呪いの話をよく話してたみたいなんですけど。先生本当に知りませんか?」
 ミナミは教師相手でも、微塵も臆する様子はない。可愛い顔の裏で、猛獣の牙が見え隠れしている。ミナミも青山先生がなにかを隠しているのを察しているのだ。
「いや、まあ、噂くらいは聞いたこともあるかな」
 青山先生はミナミと視線を合わせようとしない。言葉とは裏腹に、態度が如実に真実を物語っていた。
 絶対にこの人は、なにかを知っている。
「先生。池沢くんはどうして死んでしまったんだと思います?」
「僕にもどうしてだかわからないよ。警察の人がいろいろ調べていたけど、たぶん事故ということで落ち着くんじゃないかな」
「池沢くん、夏休み前くらいからちょっと休みがちだったそうですね。理由は訊かれなかったんですか?」
「家の人に電話で訊いてみたんだけど、体調不良としか……」
「呪いが原因だったんじゃないですか? 先生のクラス、呪いのせいで怪我をした子がいたり、事件がいろいろあったそうじゃないですか。前田さんも自殺未遂したんでしょう? 先生いろいろと立場的につらい状況だったんじゃないですか?」
 ミナミは挑発するかのように、青山先生に言った。
「そ、それはでも、呪いとは関係ないよ。人形の呪いなんて生徒たちが勝手に言っているだけで。だいたい呪いなんて子供じみたこと、大人の僕が信じるわけないじゃないか」
「そのわりには先生、やけにくわしいじゃないですか。私、呪いとしか言わなかったのに、先生は今、『人形の呪い』って言いましたよね」
 青山先生は自分の口が滑ったことに気が付いて、しまったという顔をした。
「さあ、たまたまそうやって聞いたからそう覚えていただけだよ」
 青山先生は、あくまでもとぼけるつもりのようだった。僕は先程から緊張で息が詰まりそうになっていた。手がじっとりと汗ばんでいる。
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