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Chapter.9 衝動と静観と
7 自分たちなりの最善
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「それで、結局佐々木先輩と大野先輩はどうしてあんなことになってしまったんだ?」
気持ちを切り替えるために、僕は話題を違う方向へと向けた。美周もこの質問には答える気になったらしい。
「最初、あの二人は和やかな雰囲気であの場所にやってきたんだ。だが、途中で口論が始まり、止めようと僕も間に入ったんだが、突き飛ばされてしまった。そこにお前がやってきて、あとはお前も見たとおりだ」
「先輩たちはなんて言ってた?」
美周が話したのは、こんな感じだった。
――律穂ちゃんとは結局どうなったんだ?
と大野先輩。佐々木先輩はちょっと困ったような表情でそれにこう答えた。
――トラブったけど、まあ、どうにか修復できそうだ。
それを聞いた大野先輩は、明らかに落胆した様子だったらしい。それを見た佐々木先輩が不審に思ったのか、大野先輩を問いつめ始めた。すると、大野先輩はこう言ったそうだ。
――目障りなお前らが喧嘩別れでもしてくれたら清々したのに!
「……それで、『ふざけるな!』か」
佐々木先輩が大野先輩に殴りかかった場面が、今の話で繋がった。あの温厚なはずの佐々木先輩がかっとなってしまったのも、なんとなく頷ける。しかし、剣道部内でそんな愛憎や嫉妬といった感情が渦巻いていたことに、僕は驚きを隠せなかった。そして、あの仲が良かったはずの二人の関係が、そんなことでくずれてしまうのが、本当に残念でならなかった。
大野先輩が嫉妬していたのは、佐々木先輩が神谷先輩とつきあっているということばかりではなかったのかもしれない。大野先輩は、試合でも最近はなかなか勝てないことが続いていた。一方の佐々木先輩は、実力を買われて主将になり、試合でもその実力を存分に発揮していた。そんなもろもろのことが重なって、今回の事件を引き起こしたのかもしれない。
「これで沙耶くんの夢の問題は、どうにか解決したことになるのだろうか」
美周は、自問自答するように、そう言った。
「どういう意味だ? まだなにかがあるとでも言うのか?」
「夢の内容を僕たちが変えてしまったことに、なにか問題はなかったのだろうか。それともあれとは別のなにかが……」
「美周」
僕は思わず美周の言葉を遮った。それ以上は、考えても仕方のないことだ。
「お前は最善を尽くした。これ以上はないくらいに。だから、そのことはもう考えなくてもいいんじゃないか?」
僕がそう言うと、美周はようやくふっと力を抜いて笑った。
「そう……だな」
その言葉を聞いて、僕はほっとした。美周ならまだ納得ができないからといって、いくらでも無理をしてしまいそうだったからだ。
「そういえば、秋庭はあのときお前になにか言っていたな。なにを話していたんだ?」
美周が思い出したように、そう訊ねてきた。
そうだ。秋庭はあのとき、僕にこう言ったんだ。
――母さんは元気か?
そのときはなぜそんなことを言われたのか理解できなかったが、今ならわかる。
「たいしたことじゃないよ。気にするほどのことじゃない」
口ではそう言ったが、胸の奥のほうがちくりと痛んだ。幸い美周も、それ以上追求はしてこなかった。
「そういえば、美周。もう体調は大丈夫なんだろうな。お前って自分のこととなると、結構いい加減になるようだから……」
と言っているそばから、美周はずるずるとベンチからずり落ちていった。
「おい! ちょっ、美周!」
僕が慌てて美周の体を抱き起こすと、案の定、その体は熱を持っていた。
「なんなんだよ。だから無理すんなって言ったのに!」
「悪い、篠宮……。また部屋まで連れていってくれないか」
「ああ、もう。しょうがねえなあっ」
僕はまたしても、美周を支えて歩くはめになった。ある意味、予想していた展開ではあるのだが。
気持ちを切り替えるために、僕は話題を違う方向へと向けた。美周もこの質問には答える気になったらしい。
「最初、あの二人は和やかな雰囲気であの場所にやってきたんだ。だが、途中で口論が始まり、止めようと僕も間に入ったんだが、突き飛ばされてしまった。そこにお前がやってきて、あとはお前も見たとおりだ」
「先輩たちはなんて言ってた?」
美周が話したのは、こんな感じだった。
――律穂ちゃんとは結局どうなったんだ?
と大野先輩。佐々木先輩はちょっと困ったような表情でそれにこう答えた。
――トラブったけど、まあ、どうにか修復できそうだ。
それを聞いた大野先輩は、明らかに落胆した様子だったらしい。それを見た佐々木先輩が不審に思ったのか、大野先輩を問いつめ始めた。すると、大野先輩はこう言ったそうだ。
――目障りなお前らが喧嘩別れでもしてくれたら清々したのに!
「……それで、『ふざけるな!』か」
佐々木先輩が大野先輩に殴りかかった場面が、今の話で繋がった。あの温厚なはずの佐々木先輩がかっとなってしまったのも、なんとなく頷ける。しかし、剣道部内でそんな愛憎や嫉妬といった感情が渦巻いていたことに、僕は驚きを隠せなかった。そして、あの仲が良かったはずの二人の関係が、そんなことでくずれてしまうのが、本当に残念でならなかった。
大野先輩が嫉妬していたのは、佐々木先輩が神谷先輩とつきあっているということばかりではなかったのかもしれない。大野先輩は、試合でも最近はなかなか勝てないことが続いていた。一方の佐々木先輩は、実力を買われて主将になり、試合でもその実力を存分に発揮していた。そんなもろもろのことが重なって、今回の事件を引き起こしたのかもしれない。
「これで沙耶くんの夢の問題は、どうにか解決したことになるのだろうか」
美周は、自問自答するように、そう言った。
「どういう意味だ? まだなにかがあるとでも言うのか?」
「夢の内容を僕たちが変えてしまったことに、なにか問題はなかったのだろうか。それともあれとは別のなにかが……」
「美周」
僕は思わず美周の言葉を遮った。それ以上は、考えても仕方のないことだ。
「お前は最善を尽くした。これ以上はないくらいに。だから、そのことはもう考えなくてもいいんじゃないか?」
僕がそう言うと、美周はようやくふっと力を抜いて笑った。
「そう……だな」
その言葉を聞いて、僕はほっとした。美周ならまだ納得ができないからといって、いくらでも無理をしてしまいそうだったからだ。
「そういえば、秋庭はあのときお前になにか言っていたな。なにを話していたんだ?」
美周が思い出したように、そう訊ねてきた。
そうだ。秋庭はあのとき、僕にこう言ったんだ。
――母さんは元気か?
そのときはなぜそんなことを言われたのか理解できなかったが、今ならわかる。
「たいしたことじゃないよ。気にするほどのことじゃない」
口ではそう言ったが、胸の奥のほうがちくりと痛んだ。幸い美周も、それ以上追求はしてこなかった。
「そういえば、美周。もう体調は大丈夫なんだろうな。お前って自分のこととなると、結構いい加減になるようだから……」
と言っているそばから、美周はずるずるとベンチからずり落ちていった。
「おい! ちょっ、美周!」
僕が慌てて美周の体を抱き起こすと、案の定、その体は熱を持っていた。
「なんなんだよ。だから無理すんなって言ったのに!」
「悪い、篠宮……。また部屋まで連れていってくれないか」
「ああ、もう。しょうがねえなあっ」
僕はまたしても、美周を支えて歩くはめになった。ある意味、予想していた展開ではあるのだが。
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