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宝剣の精霊と添い寝皇女
夢に出てくる銀髪の美青年
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夢の中、見知らぬ青年が現れることがあった。刀身のような銀髪で、柄にはめられた宝石と同じ緋色の瞳を持つ美しい青年だ。
彼はエイレーネーに会うと恭しく手の甲に口づけを落とす。優しく微笑み「俺のサヤになってくれ」と求婚するがごとくささやく。
でも、エイレーネーは返事ができない。《俺のサヤ》が何を指しているのかわからなかったからだ。困惑しているうちに夜が明けてしまうので、その先に進展はない。
そう。今日だって変わらないはずなのに。
だって、これは夢なのですから。
誰も入れないはずのエイレーネーの寝室。不意に天蓋の薄い布がさわさわと揺れた。
「――エイレーネー」
「ど……どちら様でしょう?」
宝剣とともに自らの身体を薄布で隠し、エイレーネーは声の主を見上げる。
サラサラの銀髪、血の色にも似た緋色の瞳。彼はいつもの穏やかな表情ではなく、緊迫した表情を浮かべていた。
「あなたさまは――」
「エイレーネー。いったい何があった? どうして泣いている?」
彼の手がエイレーネーの頬を撫でる。異性に手以外の場所に触れられたのは初めてだ。
「それが……政略結婚が決まりまして。宝剣に神力を注ぐ務めも今夜限りとなりそうで、それが悲しいのです」
「本当にそれだけか?」
「本当に、とは?」
青年の言葉の意味が掴めず、エイレーネーは首を傾げた。
「別れを悲しむにしては、ずいぶんと熱心に男女の交わりの真似ごとをして楽しんでいたな、と」
「男女の交わり……? これはペトロスさまに神力を送る儀式ですのよ?」
「ああ……確かに君からは心地よい精気を送ってもらっていたが……そこまでする必要はないはずだが……」
「どういうことでしょう? それに、あなたさまは……?」
頭の中がぼんやりしている。神力を宝剣に注ぎすぎたのだろうか。
エイレーネーは彼の返事を待つ。鞘をぎゅっと抱き寄せて――そこでやっとそれが軽くなっていることに気づいた。
「え?」
薄布を自らはいで、宝剣を確認する。鞘だけで、剣はなかった。
スッと血の気が引く。
「ペトロスさま⁉︎」
エイレーネーは慌てて敷布の上を探すが、長剣の姿はない。あんなに長くて重たいものが忽然と消えるなんてことが起こりうるのだろうか。
「どうした?」
「ペトロスさまがいらっしゃらないの! どうしましょう⁉︎」
「俺ならここにいるが」
「ペトロスさまを一緒に探してくださらないでしょうか?」
なりふり構ってはいられない。これまで夢の中でとはいえ、彼からは脅威を感じない。きっと協力してくれるはずだ。
エイレーネーは青年の手を両手でしっかりと包み込む。国家の一大事。これで秘密を共有した仲だ。
必死に訴えて見上げると、青年は微苦笑を浮かべた。
「だから、俺ならここだと――俺がペトロスだと言っているんだが」
――俺がペトロス……とは?
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