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まずは勉強から
何か思案する顔をして、セオフィラスはベッドからも出ていってしまう。
待って!
痛みを我慢するから続けてほしいと願うつもりでレティーシャは手を伸ばしたが、セオフィラスには届かなかった。
薄暗い部屋の奥に彼は消えてしまった。
初夜の儀式が終わっちゃう……。
夫婦として大事な儀式であることは姉たちから説明されている。旦那に任せるようにと言われていたのに拒んでしまったのは、この状況からして間違いであったことは明確だ。
どうしようどうしよう……。
彼の後ろを追いかけて抱き締めれば、行為を続けてもらえるだろうか。でも、そこで断られてしまったら。
不安な気持ちで涙が溢れてくる。ベッドに一人だけ残されるなんて思わなかった。
これまでだって同じベッドで眠っていたが、セオフィラスがいなくなるのはレティーシャが眠ったあとだ。こんなふうに目の前でいなくなって置き去りにされるのは初めてである。だから余計に怖かった。
セオさまごめんなさい。私が不勉強なばかりに、不愉快な気持ちにさせてしまってごめんなさい。
なんと言って詫びればいいのだろう。優しいセオフィラスのことだから、何を言ったところで「無理はしなくていいのです」と答えて、レティーシャの肌に触れるのを拒むような気がする。
そして、この行為が子をなすためだとセオフィラスに説明されたことをレティーシャは思い出して血の気が引いた。
子どもが生まれないのは困るわ。セオさまはご嫡男ではないから、必ず子がいなければならないということもないでしょうけれど……。
目を引くような美貌もなく、政治面の情報に疎い引き籠もりだったレティーシャとしては、跡継ぎに困らない程度に元気な子どもをたくさん産むことが、結婚相手となった人に対して唯一貢献できることではないかと考えていた。自分が知りたいと思っていた子どものつくりかたを学ぶ絶好の機会がきたというのに、しかも最愛の相手から手ほどきを受けている最中であったのに、痛みにびっくりしただけで拒んでしまったのを思うと、どうしてその程度のことを我慢できなかったのかと悔やんだ。
このままではよいことは一つもない。しくしく泣いている場合ではないと気持ちをなんとか奮って涙を拭う。
顔を上げると、セオフィラスが目の前に立っていた。
それだけではない。白く美しい女性の裸体が見える。柔らかな曲線は、痩せすぎず太りすぎずの健康的な肉体が生み出すものだ。丸い胸の膨らみの頂上がツンととがっていた。赤毛のシニョンは崩れ始めており、それが艶めかしく感じられる。涙で濡れたムーンストーンの瞳が困惑ぎみにこちらを困惑ぎみに見つめ返してきた。
「え?」
鏡だと理解するのに時間がかかった。
「私……?」
状況がやっと頭に入ってきて、大きな姿見を持つセオフィラスに視線を向けた。
「綺麗でしょう? ご自分の身体をじっくり見る機会もないのだろうと思いまして、お持ちしました」
セオフィラスがにこやかに説明してくれる。
あ。
レティーシャは慌てて足元の毛布を引っ張りあげて身体を包んだ。
「せ、セオさま、身体を見ないって言ったじゃないですか!」
自分でもあれだけしっかり観察していたのだ。彼だって同じようにレティーシャの身体を観察する時間があったはずである。
恥ずかしい!
身体から火が噴き出てきそうだ。彼の顔を見られなくて、頭からすっぽりと毛布をかぶり、身体を縮こませる。
「レティ、隠れないで。顔を見せてください」
壁に姿見を立てかける音がすると、ベッドがたわんだ。セオフィラスが近づいてきているのだ。
「は、恥ずかしいので」
「それは仕方がないですが、一緒に勉強するためには慣れてください」
毛布にセオフィラスの手が掛かった。あっという間に毛布は引き剥がされる。
「レティ。あなたはきっと自分の身体の変化もわかっていないのでしょう。鏡を見ながら説明しますので、覚えてください」
「……はい?」
彼は何を言いだしたのだろう。何を意図してそんなことを告げたのかと表情を見れば、とてもさわやかでにこやかで――有無を言わせない顔をしていた。
「大丈夫、痛いことはしません。さっきは性急すぎました」
手を差し出されるが、レティーシャは握れなかった。黙って見つめていると、セオフィラスは言葉を続ける。
「女性の身体に触れるのは久し振りで興奮していた……と言い訳したところで、あなたには伝わらないですよね……」
苦笑する彼を見て、申し訳なく思っていることはとても伝わってきた。もう一度やり直したいと考えていることもわかる。
ちょっと怖いけど、セオさまとなら……。
レティーシャはおそるおそるセオフィラスの手を取った。
「あの……ゆっくりでお願いします。ちゃんと勉強をしたいので」
一緒に勉強すると言っていた。セオフィラスの言葉を信じて委ねよう。
「レティ」
手を引かれると彼の胸に飛び込んでしまった。そのままぎゅっと抱き締められる。
温かい……。
少しの間とはいえ離れていたから余計に温もりに安堵した。
待って!
痛みを我慢するから続けてほしいと願うつもりでレティーシャは手を伸ばしたが、セオフィラスには届かなかった。
薄暗い部屋の奥に彼は消えてしまった。
初夜の儀式が終わっちゃう……。
夫婦として大事な儀式であることは姉たちから説明されている。旦那に任せるようにと言われていたのに拒んでしまったのは、この状況からして間違いであったことは明確だ。
どうしようどうしよう……。
彼の後ろを追いかけて抱き締めれば、行為を続けてもらえるだろうか。でも、そこで断られてしまったら。
不安な気持ちで涙が溢れてくる。ベッドに一人だけ残されるなんて思わなかった。
これまでだって同じベッドで眠っていたが、セオフィラスがいなくなるのはレティーシャが眠ったあとだ。こんなふうに目の前でいなくなって置き去りにされるのは初めてである。だから余計に怖かった。
セオさまごめんなさい。私が不勉強なばかりに、不愉快な気持ちにさせてしまってごめんなさい。
なんと言って詫びればいいのだろう。優しいセオフィラスのことだから、何を言ったところで「無理はしなくていいのです」と答えて、レティーシャの肌に触れるのを拒むような気がする。
そして、この行為が子をなすためだとセオフィラスに説明されたことをレティーシャは思い出して血の気が引いた。
子どもが生まれないのは困るわ。セオさまはご嫡男ではないから、必ず子がいなければならないということもないでしょうけれど……。
目を引くような美貌もなく、政治面の情報に疎い引き籠もりだったレティーシャとしては、跡継ぎに困らない程度に元気な子どもをたくさん産むことが、結婚相手となった人に対して唯一貢献できることではないかと考えていた。自分が知りたいと思っていた子どものつくりかたを学ぶ絶好の機会がきたというのに、しかも最愛の相手から手ほどきを受けている最中であったのに、痛みにびっくりしただけで拒んでしまったのを思うと、どうしてその程度のことを我慢できなかったのかと悔やんだ。
このままではよいことは一つもない。しくしく泣いている場合ではないと気持ちをなんとか奮って涙を拭う。
顔を上げると、セオフィラスが目の前に立っていた。
それだけではない。白く美しい女性の裸体が見える。柔らかな曲線は、痩せすぎず太りすぎずの健康的な肉体が生み出すものだ。丸い胸の膨らみの頂上がツンととがっていた。赤毛のシニョンは崩れ始めており、それが艶めかしく感じられる。涙で濡れたムーンストーンの瞳が困惑ぎみにこちらを困惑ぎみに見つめ返してきた。
「え?」
鏡だと理解するのに時間がかかった。
「私……?」
状況がやっと頭に入ってきて、大きな姿見を持つセオフィラスに視線を向けた。
「綺麗でしょう? ご自分の身体をじっくり見る機会もないのだろうと思いまして、お持ちしました」
セオフィラスがにこやかに説明してくれる。
あ。
レティーシャは慌てて足元の毛布を引っ張りあげて身体を包んだ。
「せ、セオさま、身体を見ないって言ったじゃないですか!」
自分でもあれだけしっかり観察していたのだ。彼だって同じようにレティーシャの身体を観察する時間があったはずである。
恥ずかしい!
身体から火が噴き出てきそうだ。彼の顔を見られなくて、頭からすっぽりと毛布をかぶり、身体を縮こませる。
「レティ、隠れないで。顔を見せてください」
壁に姿見を立てかける音がすると、ベッドがたわんだ。セオフィラスが近づいてきているのだ。
「は、恥ずかしいので」
「それは仕方がないですが、一緒に勉強するためには慣れてください」
毛布にセオフィラスの手が掛かった。あっという間に毛布は引き剥がされる。
「レティ。あなたはきっと自分の身体の変化もわかっていないのでしょう。鏡を見ながら説明しますので、覚えてください」
「……はい?」
彼は何を言いだしたのだろう。何を意図してそんなことを告げたのかと表情を見れば、とてもさわやかでにこやかで――有無を言わせない顔をしていた。
「大丈夫、痛いことはしません。さっきは性急すぎました」
手を差し出されるが、レティーシャは握れなかった。黙って見つめていると、セオフィラスは言葉を続ける。
「女性の身体に触れるのは久し振りで興奮していた……と言い訳したところで、あなたには伝わらないですよね……」
苦笑する彼を見て、申し訳なく思っていることはとても伝わってきた。もう一度やり直したいと考えていることもわかる。
ちょっと怖いけど、セオさまとなら……。
レティーシャはおそるおそるセオフィラスの手を取った。
「あの……ゆっくりでお願いします。ちゃんと勉強をしたいので」
一緒に勉強すると言っていた。セオフィラスの言葉を信じて委ねよう。
「レティ」
手を引かれると彼の胸に飛び込んでしまった。そのままぎゅっと抱き締められる。
温かい……。
少しの間とはいえ離れていたから余計に温もりに安堵した。
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