召喚聖女は早くお家に帰りたい!

一花カナウ

文字の大きさ
4 / 13
召喚聖女は早くお家に帰りたい!

真夜中の侵入者 2

しおりを挟む

『モエ、そういうときはオレを頼れよ』

 低い声がした。
 聞こえたと思ったのと同時に目が開いて、私の足は神官長の顎を蹴り飛ばしていた。

「やった! 魔法が解けた‼︎」
「せ、聖女よ、どうして……⁉︎」

 私は身体の自由が戻ると飛び起きて、乱れた服をすぐに整えた。

「愛し合っているのが事実なんだったら、恋人に金縛りの魔法なんてかけないでちょうだい! 自分に自信がないから、そういう卑怯な真似をするんでしょっ!」
「なっ」
「それに、聖女聖女って、私の名前は萌絵よ! 私を愛しているっていうなら、名前で呼んだらどうなの⁉︎」

 ――そういえば、魔王は私を名前で呼んでくれたわね……

 神官長よりも魔王のほうがまともなように感じられた。
 世界の危機だから魔王を封じてくれと願われて、それが終わらないと家に返さないというから温順(おとな)しく従ってきたけれど、実は魔王の力を封じないほうがこの世界のためになるんじゃないかしら……ね?

「そんなことを言わないでください、聖女よ。貴女は唯一無二の高貴な存在。名を呼ぶだなんて恐れ多い」
「では、神官長。私の仕事はこの世界を救うために魔王の力を奪って封じることだと仰いましたよね? その仕事が終われば家に帰れると。なので、私はそれ以上のことは望まれてもしません。契約どおり、私は家に帰ります」

 はっきりと宣言してやった。神官長はションボリした顔をしたが、諦めた様子はない。

「そうですか……しかし、貴女が帰る家はもうないのですよ?」
「……はい?」

 なに言ってんだコイツとばかりに冷たい視線を向けてやると、神官長は右手を一振りして宙空に鏡を生み出す。最初は私の像を写していたが、表面が曇り始めると別の像を描き出した。

 ――えっと……これ、私の住んでいたアパート……?

 映し出された景色には見覚えがある。大学進学に合わせて引っ越した先のボロいアパートがある場所のはずだ。しかし、そこに建っているはずのアパートがない。

「貴女がこちらに召喚された翌日、火災で焼失したのです。遺体がないので貴女は行方不明の扱いになっていますが、両親には死んだと思われていることでしょう」

 神官長の説明が終わると、遠見ができる鏡は消滅した。

「いやいやいや。まさか、そんな」
「黙っていたことについては申し訳ないと思ったのですけれど、こちらの事情も急務であったので精神状況に影響があってはならないからと」

 そう補足されて、私はあることを思い出す。
 召喚された当日には向こうの世界につながる扉はまだ存在していた。翌日はどういうわけか消えていて、そこで神官長に「仕事が終われば再び扉は現れますから」と言われたのだ。

 ――騙されたっ‼︎

「とにかく私、向こうで死んでることになっていても帰りますから! 向こうへの扉を再建してください」
「そうですか……ですが、こちらとあちらをつなぐものが焼失してしまった以上、簡単にはいかないんです。そもそも前回は貴女の魂を媒介として世界をつなぎましたが、今はあちらにはこちらのものが存在しません。ほぼ無理ですね」
「なっ」

 ひどい言い草である。
 戻れないからといって、こっちで神官長と一緒に生活することはできない。ましてや、子どもを産んで一緒に育てようだなんてありえない。
 よくしてもらったとは思えど、それは所詮目的のため。私は裏切られた被害者だ。彼を信用できるわけがない。
 アレコレと考えて、私は結論を出した。

「――わかりました。では、私はここを出て行きます。お世話になりました」

 ベッドを下りて、私は自分がここに呼ばれたときに持っていた荷物を掴む。こんな場所にはいられない。神殿の敷地の外がどんなに危険だろうと、帰る場所を奪われたんだから、迷う必要はなかった。

「さようなら」

 慌てて縋ってきた神官長の綺麗な顔を、持ってるバッグを使ってぶっ飛ばし、私はついに神殿を出たのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...