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第30話 助けて
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クラクションが通りに鳴り響く。因幡の足が止まった。
「――君、彼女が嫌がっているの、わからないの?」
その声を聞いて、史華は一気に力が抜けてへたり込んだ。因幡の手がやっと離れる。掴まれていた場所はジンジンと痛んでいた。
「は? オレらのビジネスを他人に口出しされたくないんだけど?」
因幡はつっかかる。こういう時に強気に出るのも彼の癖だ。嘘も方便。因幡はそうやって史華を押さえつけて意のままに操り、手柄を自分の物にしてきた。社会人になって半年は経っているが、彼のそういう部分が矯正されることはなかったようだ。
「へぇ。オリーブリーフコーポレーションさんにはこんな乱暴な人間もいたんだね。覚えておくよ」
闖入者は因幡の台詞に冷ややかに返すと、史華に手を差し出した。
「大丈夫かい?」
「緒方社長……」
助けてくれた闖入者は、緒方悠だった。今日はブランド物だと一目でわかるスーツを着こなしている。社内で見掛けるよりもキチンとした格好で、外部の人間と会うところか会った後なのだろうと想像できる。
「業務外なんだから、名前で良いのに」
微笑みを苦笑に変えて、悠は史華だけに聞こえるように告げた。
悠の手を借りてなんとか立ち上がり、因幡をちらりと見やった。彼は分が悪いと判断したらしく、憮然としつつも様子を伺っている。
「本当に仕事中だったのかな?」
悠の優しい口調での問いに、史華は懸命に首を横に振った。
「違います。知り合いではあるのですけど……言いがかりをつけられて」
言いがかりではないのだが、そういうことにしておいた。迷惑であることには違いがなかったのだから。
史華の返事に、因幡は良い顔をしなかった。
「オレはただ、一緒に食事をしながら業務上のアドバイスをしようと思っただけで――」
確かに因幡の言い分はそう間違っていないだろう。その実はほとんど恐喝に違いないのだけど。
さて、悠はどう判断するだろう。
史華は助けを求めて悠の一挙手一投足に意識を向ける。
「そう。でも、日を改めた方がいい。彼女はとても疲れているみたいだからね」
悠の提案に、因幡は小さく舌打ちをすると史華をギロリと睨んだ。
「わかった。また別の日にしよう。オレは一人で食事するわ」
逃げるように、因幡はこの場を立ち去った。潔い。彼の姿が完全に見えなくなるまで、悠は傍に立っていてくれた。
「ありがとうございます。助かりました……」
心臓がバクバクと鳴っている。気分が悪い。彼のスーツに縋りそうになって、そっと手を引っ込めた。
「顔色が優れないようだね。送ろうか?」
「い、いえ。悠さんこそ、お仕事中でしょう? 申し訳ないです」
ありがたい申し出だが、甘える訳にはいかない。こういう時こそけじめをつけねばと、気を引き締める。彼が知人であっても、今までそうしてきたように自分で立ち上がらないと。
断るつもりで言えば、悠は優しく微笑む。
「いや、客先で一日会議の予定だったんだけど、思いのほか早く終わってね。帰社するところだし、業務的には昼休みだから気にしないで。そんなことよりも、史華ちゃんが調子悪そうにしているのを放っておけない」
彼の言い分がどこまで事実なのかはわからない。でも、その言葉はとても史華を安心させた。
「じゃあ……少しだけ甘えてもいいですか?」
普段なら絶対にこんな言動はしない。そうわかっているけど、今は誰かと一緒にいたいと、否、彼と一緒にいたいと強く感じていた。
「喜んで」
彼の笑顔に救われる。誰かを頼ったり、誰かに甘えたりしたことはほとんどなかった史華にとって、今の気持ちは初めて感じたものだった。
「――君、彼女が嫌がっているの、わからないの?」
その声を聞いて、史華は一気に力が抜けてへたり込んだ。因幡の手がやっと離れる。掴まれていた場所はジンジンと痛んでいた。
「は? オレらのビジネスを他人に口出しされたくないんだけど?」
因幡はつっかかる。こういう時に強気に出るのも彼の癖だ。嘘も方便。因幡はそうやって史華を押さえつけて意のままに操り、手柄を自分の物にしてきた。社会人になって半年は経っているが、彼のそういう部分が矯正されることはなかったようだ。
「へぇ。オリーブリーフコーポレーションさんにはこんな乱暴な人間もいたんだね。覚えておくよ」
闖入者は因幡の台詞に冷ややかに返すと、史華に手を差し出した。
「大丈夫かい?」
「緒方社長……」
助けてくれた闖入者は、緒方悠だった。今日はブランド物だと一目でわかるスーツを着こなしている。社内で見掛けるよりもキチンとした格好で、外部の人間と会うところか会った後なのだろうと想像できる。
「業務外なんだから、名前で良いのに」
微笑みを苦笑に変えて、悠は史華だけに聞こえるように告げた。
悠の手を借りてなんとか立ち上がり、因幡をちらりと見やった。彼は分が悪いと判断したらしく、憮然としつつも様子を伺っている。
「本当に仕事中だったのかな?」
悠の優しい口調での問いに、史華は懸命に首を横に振った。
「違います。知り合いではあるのですけど……言いがかりをつけられて」
言いがかりではないのだが、そういうことにしておいた。迷惑であることには違いがなかったのだから。
史華の返事に、因幡は良い顔をしなかった。
「オレはただ、一緒に食事をしながら業務上のアドバイスをしようと思っただけで――」
確かに因幡の言い分はそう間違っていないだろう。その実はほとんど恐喝に違いないのだけど。
さて、悠はどう判断するだろう。
史華は助けを求めて悠の一挙手一投足に意識を向ける。
「そう。でも、日を改めた方がいい。彼女はとても疲れているみたいだからね」
悠の提案に、因幡は小さく舌打ちをすると史華をギロリと睨んだ。
「わかった。また別の日にしよう。オレは一人で食事するわ」
逃げるように、因幡はこの場を立ち去った。潔い。彼の姿が完全に見えなくなるまで、悠は傍に立っていてくれた。
「ありがとうございます。助かりました……」
心臓がバクバクと鳴っている。気分が悪い。彼のスーツに縋りそうになって、そっと手を引っ込めた。
「顔色が優れないようだね。送ろうか?」
「い、いえ。悠さんこそ、お仕事中でしょう? 申し訳ないです」
ありがたい申し出だが、甘える訳にはいかない。こういう時こそけじめをつけねばと、気を引き締める。彼が知人であっても、今までそうしてきたように自分で立ち上がらないと。
断るつもりで言えば、悠は優しく微笑む。
「いや、客先で一日会議の予定だったんだけど、思いのほか早く終わってね。帰社するところだし、業務的には昼休みだから気にしないで。そんなことよりも、史華ちゃんが調子悪そうにしているのを放っておけない」
彼の言い分がどこまで事実なのかはわからない。でも、その言葉はとても史華を安心させた。
「じゃあ……少しだけ甘えてもいいですか?」
普段なら絶対にこんな言動はしない。そうわかっているけど、今は誰かと一緒にいたいと、否、彼と一緒にいたいと強く感じていた。
「喜んで」
彼の笑顔に救われる。誰かを頼ったり、誰かに甘えたりしたことはほとんどなかった史華にとって、今の気持ちは初めて感じたものだった。
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