オレ様社長はお断りっ!

一花カナウ

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第46話 注文の品はこれですか?

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 脱衣場に置かれていた下着が目に入ったのは、入浴を始めてから一時間ほど経過したときだった。

「一つは気分を盛り上げるために用意したけど、もう一つは普段使い用ね。見えないところにも気をまわす余裕ができれば、さらに魅力に磨きがかかるかと思って」

 悠は自分が着てきた服とは別の服に袖を通していた。史華がこの部屋に運ばれたときに準備していたのだろう。用意周到である。

「気分を盛り上げるためって……」

 セクシーなランジェリーとシンプルなランジェリーの両方が並んでいた。
 セクシーに感じられたほうは、黒いレースのブラジャーとショーツの組み合わせ。レースがふんだんに使われているにしては装飾過多な印象はない。さりげなくラインストーンが添えられているのが可愛く見えた。オトナ可愛いというのはこういうものを指すのではなかろうか。
 シンプルに見えたほうは、淡いピンクの生地だ。よく見ると刺繍とラインストーンで彩られており、派手に見せないところにセンスを感じる。見たところアウターに下着のラインが出ない工夫がされているようだ。

 悠さんのセンスというか、あたしの好みをわかっていてのセレクトよね、これって……。

 部屋を見られる前に買ったもののはずだが、なかなかよくわかっている。どこを見て判断したのだろうか。

「好きなほうを身につけていいよ」
「わかりました。……そういえば、あたしの荷物は?」
「大きいほうは置いてきたよ。ポシェットは君が探すといけないから、わかりやすくベッドのそばに置いておいた」
「じゃあ、服は拾ってこないといけないんですね」

 脱がされてそのまま放ってあるのだろう。シワになるのを気にするような格好ではなかったが、拾いに行くのはどこか情けない。

「俺が取ってきてあげるから、史華ちゃんは試着してて」
「あ、でも」
「いいから」

 もう悠は着替え終わっていた。白シャツにベスト、チノパンのスタイルで、いつもながらきまっている。そんな姿に見惚れている間に、彼の姿は消えていた。

 まあ、とりあえず試着するか……。

 当初の目的であるし、自分に合うオーダーメイドの下着を身につける機会もそうそうないだろう。

 それに、想像していた以上に可愛いし。

 サイズはとにかく、自分に似合うのかは謎だ。イメージがわかない。
 最初に黒い方を手に取ってみた。軽い。ブラジャーの下にショーツが置かれている。

 うわー、絶対にこんなの買わないし。

 ショーツを目の前にかざしてみて、恥ずかしくなる。腰のあたりを結ぶタイプのもので、紐の先にキラキラした大型のビーズがつけられていた。可愛いと思うが、ふだんなら購入の対象外だ。

 ああ、いつまでも素っ裸でいるわけにもいかないし、あまりのんびりしていると悠さんが戻ってきてちょっかいを出してくるよね、このペースだと。

 史華はいろいろ考えながらも、そそくさと着始める。

「ほう……」

 鏡に映る自分の姿に、感嘆の声が出た。下着のパンフレットに載っているモデルになったかのような姿が映っていたからだ。
 全身の贅肉がしっかり収まっているおかげで身体のラインがとても綺麗だ。背筋が自然と伸びて、隠されていないはずのお腹周りまですっきりしている。

 そもそも、空腹だからお腹ポッコリじゃないってのもあるんだろうけれど。

 史華は鏡の前で全身をくまなくチェックした。
 素材が軽いのと締め付けが弱いおかげで身につけている感じがしなかった。可愛いし機能的なのかもしれない。

「良いねえ。その下着で迫られたら、押し倒しちゃうかも」

 悠が戻ってきた。史華は慌てて自分の身体を隠すように手を動かす。

「そ、それは困ります! 今日はもう勘弁してくださいっ」
「ははっ。期待してくれているならって思ったけど、あまりからかって下着汚しちゃうといけないから気をつけなきゃね」

 下着を汚すと言われて、かあっと身体が熱くなった。史華は慌てて首をブンブンと横に振る。

「――それはそうと、黒いほうがお気に召したってことかな?」

 悠の問いに、史華は色っぽい妄想を思考から追い出して口を開く。

「あ、いえ。姿を確認したら、ピンクの方を着て、服を着るつもりでした」
「そんな予感はしてたよ。良かった、脱ぐ前で。黒のランジェリーのままで、これに着替えてくれるかな?」

 言って、にっこりと笑う。近づいてくる彼の手には見覚えのない黒いワンピースがあった。

「え、あの、その服は?」

 さっきまで着ていたニットを取りに行っているものだと思っていたのに、そうではなかったらしい。戸惑っている間に目の前に立つと、悠は持ってきた服を広げて史華の身体に当てた。

「今日の衣装さ。うん。これでいいな」

 ふむと頷く悠の手をさっと払い、史華はにらむ。

「いいな、じゃないです! あたし、ちゃんと着替えも持ってきていますから、それ着るんで大丈夫です」
「怒らないでほしいな、史華ちゃん。俺の仕事のイメージのために、協力してほしいと思って用意したのが本音なんだ。今日と明日は俺にコーディネートさせてくれないかな?」
「はあ……」

 休日には仕事をしない主義って言ってたくせに……。

 ある意味、真面目な史華をのせるための方便なのだろう。

 気ののらない返事をすると、悠は続けた。

「これを着ないなら、その格好のままでいてくれて構わないよ。さっき言ったけど、君の持ってきていた大きな荷物のほうは部屋に持ってきていないし、当然ながら俺は取りに行くつもりがないからね。下着姿の史華ちゃんを見続けられるなんて目の保養になるからとっても嬉しいけど」

 少々わざとらしく言われて、史華は悠をじっと見つめ、そしてため息をついた。

「はあ……わかりました。着ますよ」

 部屋は暖房もついているが、さすがに下着だけでは体調を崩しかねない。史華は悠から黒いワンピース――ロングドレスを受け取った。

 なんでこんな格好を?

 仕事のイメージのためにと言われたが、本当に役に立つのだろうか。背中のファスナーを悠に上げてもらうと、改めて鏡の前に立った。

 身体のラインが綺麗に出るドレスだ。ぴったりしているのに、ひきつったり苦しかったりする部分はない。ノンスリーブなので肩が冷えるなと思ったら、悠が黄金色の上品なストールをかけてくれた。

「ディナーまでは時間があるから、軽食を部屋でとろうか。メイクは軽食のあとに皆藤を呼んでいるから、お任せしちゃって」

 テキパキと今後の予定を告げる悠に、史華は鏡越しに怪訝な顔を向ける。

「ドレスコードがあるお店にでも行くつもりなんですか?」

 予約半年待ちとも言われているメイクアップアーティストの皆藤を呼び出すなんて、それなりの理由があるのだろう――そう考えたところで皆藤にメイクをしてもらったときのことを思い出し、ハッとする。

「あ、まさか、またお見合い会場に連れて行くつもりじゃないでしょうね?」

 問うと、悠は苦笑した。

「もうそれはしない。史華ちゃんが俺の隣にいて恥ずかしくないと思えるような格好にしてあげたいだけだから、あまり勘繰らないでよ。あとは仕事の打ち合わせも兼ねてる」
「だったらいいんですけど」
「機嫌を直してくれないかな?」
「嫌な予感がするから、こういう態度になるんですよ」

 誰のせいだと思っているんだとなじるつもりで告げると、悠がにっこりと笑った。

「まあ、俺にはふくれっ面の史華ちゃんも可愛く映ってるけどね」

 どうしてそんな言葉がどんどん出てくるのだろう。振り回されてしまうけれど、それがちょっと楽しく思えてきている自分も見えてきていた。
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