戦線の処女(おとめ)は気高き紅玉を番(つがい)に決める

一花カナウ

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戦場の処女は誘惑する

戦場の処女は誘惑する・8

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「私に欲情したからじゃないってことは、分かってますよ。戦闘で興奮するとこういう状態になる者もいるって聞いていますから」
「だったら、もう離してくれ。俺は君を抱く気はないし、必要以上に触れ合う気もない。間違いが起こる前に離れてくれ」

 最小限の抵抗でやり過ごそうとするルビに、マーティナは熱のこもった視線を向ける。

「名前、呼んでください」
「……マーティナ」
「はい」

 名前を呼ばれると嬉しくなってしまう。就職してから、名前を呼ばれることがほとんどなかったから、特別のように感じられてしまうのだ。
 マーティナが手を離した。それでルビはほっとしたような顔をする。

「なあ、マーティナ。落ち着いてほしい。正気を取り戻したら、君は後悔する。あと、俺はオパールを敵に回したくない。マーティナはオパールと一緒にいるべきだ。相性も悪くないのだろう? 俺のことは忘れて、元の部署で任務に励むべきだ。あっちはこの部署よりは安全だからな。俺からも上に報告しておくから、な? 考え直せ」

 ――そんなに嫌なことなの?

 胸が痛い。

「ルビさん」
「なんだ?」
「私、この部署から向こうに戻りますよ」

 ――戻れるように検討するって、言われていたものね……

 今日の任務を終えたら一度戻れるという話は来ていた。身体を休める意図もあったのだろう。激務が続いていたこともあって、マーティナ自身もそのつもりで任務にあたっていた。少し休んで、次は自分から特殊強襲部隊に志願しようと考えていたのだ。
 マーティナの発言に、ルビは驚いたような顔を一瞬見せて、ふっと安堵したような、少し寂しそうな、そんな表情を作った。

「……ああ、そうしてくれ」
「だから、その前にあなたに抱いてほしいのです」
「まだ言うか……」

 ルビは自身の頭を乱暴に掻く。どう説得するか思案しているのだろう。
 マーティナは彼が言葉を見つける前に畳み掛けることにした。

「絶対に後悔しないし、あなたにこれ以上の迷惑はかけない。だから、私のわがままを叶えてほしいのです」
「叶えるのは俺じゃない。オパールに頼めよ。あいつだって、君に優しく触れるはずだ」
「それは……悪くはしないって思ってますよ。オパールさんだって、優しいもの」

 わかる。ルビがマーティナのパートナーであるオパールと関係を進めるように促すのは理解できるのだ。元の部署に戻れば、緊急で魔力供給をする相手はオパールである。ならば慣れるべき相手はオパールだ。
 オパールの態度や性格を考えても、望まぬひどいことをするとは考えにくい。慣らしてほしいと頼めば、優しく応じてくれると期待できる。

 ――そんなこと、私が一番わかってる!
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