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祠を壊したら、美形の怪異に因縁つけられた話。
藪の中の屋敷※
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彼が言うように、案内された場所はそう遠くなかった。
獣道のようなおよそ人が通るような道じゃない場所を通って辿り着いたのは藪の中に建つ古い日本家屋。農家の、おそらく地主であっただろう一族の住んでいたような大きなお屋敷だ。木造の立派な門があって、その先に平屋の広そうな家屋が見える。
こんな場所があるなんて。
狐に化かされているような気分だ。俺が誘われるままに門をくぐると、ぽつりぽつりと大粒の雨が降り出した。
「ああ、降り出してしまったね。急ごう」
腕を掴まれていたので引っ張られるようにして屋敷の中に入る。服も荷物も少し濡れてしまったが、大した問題にはならないだろう。
彼は外を見やって、腕を組んだ。ざあざあと大きな音を立てて雨が降り注ぐ。
「いやはや、僕が屋敷に入るまで天気がもたなかったか」
「あんたが雨を降らせたんじゃないのか?」
俺がもっともらしく指摘してやると、彼はわざとらしく肩をすくめた。
「面白いことをいうね」
「ここに連れ込んでなにをするつもりだ?」
さすがにいくつも祠を壊していれば、本気でやばいようなものにも遭遇する。この屋敷にはそういう類の空気を感じた。
「ありゃ、外でするほうが好みだったかな。てっきり入浴をして身を清めてからのほうが好きなタイプかと」
じっとりとした視線を向けられて、俺はようやく察した。
彼の言っていた「身を委ねて天にも昇る心地になってみないか?」とは、体の繋がりを持つことなのだと。
「あんた……俺の体が目的なのか?」
「あまり明け透けにゆうてくれるな。ふむ、きみは婉曲的な表現よりも直裁的な表現のほうが唆られる性質ということか」
「別にそういう話じゃない」
俺は大きく息を吐いた。頭を掻いて、もう一度大きく息を吐き出す。魔除けの煙草を吸っておくべきだったのかもしれない。
「美女に誘われる怪異の話はよく見聞きしたが、あんたのような妖艶な男性に迫られる話は俺の耳には入らなかった」
「おや。文献をあされば意外と記録は残っていると思うがねえ」
そういう文献をあさる趣味はなかったので、俺はもう一度ため息をついた。頭がまわらないのは呪いを受けている影響だろうか。
「……悪い。もうこの天候があんたのせいでもそうじゃなくてもどうでもいい。少しだけ、横になることはできないか?」
「少しといわず、ゆっくり休めばいい。僕は構わないよ」
「雨が止むまでの約束だったろう?」
「雨が止まなかったら、ずっといてくれるということでいいかな?」
しれっと厄介なことを言ってくるので、俺は片手をあげた。
「このまま雨がやまないなら、俺は俺の力でこの屋敷自体を破壊する。俺は祠を壊すことにだけ特化しているわけじゃない」
はったりである。どこまで目の前の怪異に通用するのかをはかるためにも嘘をついてみた。
さあ、どう出る?
彼は長い睫毛のついた目をぱちぱちと瞬かせて、にたりと笑った。
「ああきみは面白いね。できないはずだけど、きみならできるかもしれない」
そう返して、彼の長い人差し指で俺の顎は持ち上げられる。瞬時に距離を詰められていた。
「ひとまずは回復が先だ。きみは寝ていればいい」
美麗な顔が近い。
逃げ遅れたのは見惚れていたからだとは思いたくないが、視線を釘づけにする程度には魅了されてしまったのは事実だ。
唇が重なったのだと理解してからの記憶がないのは、おそらく術に堕とされただけではないのだろう。
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