不死身の俺と出来損ないのカミサマと。

一花カナウ

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祠を壊したら、美形の怪異に因縁つけられた話。

目覚めて

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 ◆◇◆◇◆


 ハッと目が覚めた。木目と梁が見える天井は、自分がとっていた宿のものとは全く違う。
 ここはどこだ?
 起き上がろうとしたが、体が思うように動かない。気だるい感じで、慣れない運動をした後のような疲労感が全身にある。
 呪いの影響ではなさそうだな。思考ははっきりしているし、足場が悪かった影響だろうか。だとしたら、鍛え直さないといけないな……。
 不死の呪いにかかっていると気づいたのは、たびたび事故に巻き込まれても致命傷を負うことがなかったからだ。ただし、回復はやや早い程度なので違和感はない。
 不老にしてもらえなかったのは惜しかったと言われた気がしたが、冗談じゃない。これ以上人の道を外れてたまるかよ。
 美麗な彼のことを思い出して、俺はここで横になっている理由を薄っすらと察する。玄関に入ったところまでは覚えているが、そこで俺は倒れたということなのだろうか。
 記憶を辿って、自身の口元を押さえる。
 待て、俺はなにをされたんだ?

「――おやおや。お目覚めのようだね。気分はどうだい?」
「……あんた」

 起き上がろうとして、湧いたように現れた彼に横になるように勧められた。抵抗できるほどの力もなかったので、俺は再び布団の中に戻った。
 彼は俺の顔を覗き込む。

「顔色はよくなったな。即死の呪いは解けたのだろう」
「そうみたいだな」

 どれくらい横になっていたのだろう。障子の外は薄っすらと明るい。

「もう少し横になっているといい。じきに動くのも楽になるはずだ」
「あんた、なにが目的だ?」
「興味が湧いた。これも縁だと思って諦めてくれ。なに、悪いようにはしないさ」
「そっちの道理での悪いようにはしない、だろ?」

 警戒はしておいたほうがいい。ここが彼の領域内だとしても、自我は保つべきなのだ。意識を食われたら最期なのだから。
 俺が挑発するように告げれば、彼は困ったように笑った。

「威勢がいいねえ。僕はそういう人間も大変好みだ」

 そう応えて舌舐めずりをする姿はとても妖艶で、ぞくりとするほど美しい。

「好いていますアピールをされても、反応に困るだけなんだが」
「きみはもともと怪異に好かれる性質なのだろう。それで、不死の呪いを祝福として授かった」

 彼は俺をまじまじと見つめてにこりと笑う。

「祝福? まさか」
「カミサマというのは実に気まぐれでね。気に入った相手に肩入れするものなのさ。その相手がどう考えているかなんてお構いなし」
「確かに」
「だから、祝福なのさ」

 そう説明されたが、どこでその祝福とやらを受け取ったのか思い出せない。ただ、生まれたときはなにも問題がなかったはずなのだ。どこかで、なにかと出会ってしまったのだろうと想像する。

「それでやっぱり、この不死の祝福は、あんたには解くことができないのか?」

 出会い頭に、不死の呪いは自分には解けないと告げていたはずだが、念のために尋ねてみる。彼に気に入られたのであれば、気絶していた間に何らかの方策が浮かんでいたかもしれない。
 あまり期待せずに聞いてみれば、彼はふむと唸った。

「やはり僕には難しそうだ。複雑なもののようだからね。口吸い程度では解けないシロモノだよ」
「……そうか」

 俺があからさまに気落ちした声を出すと、彼はあたふたとして俺の隣に腰を下ろした。

「いやいや、がっかりしてくれるな。僕が一緒に、不死の呪いを解く糸口を探してやる」
「そうはいうが、代償が必要なのだろう? 俺にはこの呪われた体くらいしかないから、差し出すものがない。無理しなくていい」
「ああ、そうだ」

 彼は両手をポンっと合わせた。

「少しずつ祝福を吸い出すことならできるかもしれんぞ。体の一部を触れ合わせれば、そこから祝福を僕に移し替えることは、あるいはできるかもしれん」
「すけべなことをしたいだけじゃねえか……」

 その顔なら女の子をいくらでも引っ掛けられるだろうに、俺みたいな呪われた人間しか通らねえ場所にいるんだもんな。かわいそうに。
 あきれと憐れみの感情をのせて呟けば、彼は俺をまっすぐに見つめた。真面目な顔をしている。

「そういうことではない。いや、下心がないとは言えないが、好いた相手に尽くそうとするのは普通ではないのか? 愛だろう?」
「あいにく、俺は愛がわからん。愛というものを押しつけられても困るだけだ。俺はなにも返せない」

 俺がそう返事をすると、彼は困惑したようだった。口をパクパクさせて、何か言おうとしているが言葉にはならない。慎重に告げる言葉を選んでいるのだろう。
 俺は沈黙に耐えられなくて、口を開く。

「休ませてくれた礼をすることもままならない身なんだ。この浴衣も貸してくれたことには感謝する。おかげでこのふかふかの布団や寝具を汚さずにすんだ」
「なあ、きみは」
「うん?」
「自身の幸福を願わないのか? 人間というのは、自分の幸福のために他人を蹴落とすものだろう?」

 混乱した様子で彼が尋ねてきたので、俺は驚いて、それから笑った。

「ああ、そうだろうな。だから、俺はまずはこの不死をどうにかしたい。そのためには格上の呪いを受けて相殺する」
「相殺した結果、死ぬかもしれないのに?」
「不死を解いたら死ぬだろ、そりゃ」
「見たところ、きみは若い。それこそ誰かと番(つが)って、子を残したいと思わないのか?」
「思わないね」

 即答できた。
 彼は目をまるくする。

「なぜ?」
「興味がないからな。いや、興味を持つことに絶望してしまった――いや、喋りすぎたな。俺が言わずとも、あんたは探れるんだろう?」
「それは拒んでいい。拒否されても、僕は怒ったりしないよ」
「プライバシーもクソもないようなこと、平気でしてきたくせに、なにを今更」

 鼻で笑ってやると、彼は今にも泣きそうな顔をした。

「ああ、ああ、傷ついてきたということか。確かに僕は、そういう存在だから、自然と意識に流れ込んでくるのを止めることはできない。できるのは、意識的に忘れることだけ。それでも、不完全な形で残ってしまうが」
「……そうか」

 俺は浅く相槌を打つ。
 自分なりに自分の持つ能力を認識しているのだろうことがわかって、俺は親近感を覚える。不死だと察したときにいろいろと試してきた。彼もそんな調子で自身の持つ特異性と向き合ってきたのかもしれない。
 不意に彼が立ち上がった。

「ああ、そうだ。水と軽食を持ってこよう。きみの持ち物に食料はあまりなかったから、僕が用意したものになるが、食べてくれるかな?」
「黄泉竈食ひなら願ってもないな」
「きみの世界の食べ物さ」

 彼は笑って、部屋を出ていく。安心しろと続かなかったあたり、なにかあるのかもしれない。
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