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水鏡の深淵
お披露目パーティー 1
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翌年の夏、昇太と瞳子はささやかなお披露目会を行った。結婚式は瞳子の家庭の都合でできないけれど、友人知人たちには祝福されたいとのことで私と龍司が中心になって企画をしたのだった。
「……可愛い男の子だったなあ」
結婚式の二次会のようなイメージで企画したパーティ。ホテルのレストランを貸切にして五十人ほどの人が集まった。そこには去年の秋に産まれた昇太の子どももいたのだ。王子様のような容姿の昇太とクールビューティーな瞳子の子どもはいうまでもなく愛らしい外見をしていた。
「一目惚れか?」
「赤子にやきもち焼かないでよ」
パーティドレスを脱ぎながら、私は龍司に返す。
パーティを仕切ってくれたお礼にと、昇太がホテルの部屋を予約してくれた。せっかくだしスイートでも泊まってよと昇太に提案されたが、そのお金は子どもに使うべきものだからと辞退した結果、大きなベッドが置いてある手頃な部屋を手配されて今に至る。
「好きな男の子どもだろう? きっと兄貴よりもいい男になる」
「なんでそういう言い方するの。いい男にはなりそうだけど、それはそれで心配かな」
「…………」
「自分で振っておいて、拗ねないでくれる? 私の恋人は龍ちゃんだけなんだよ?」
ドレスをハンガーにかけて、私は下着姿のまま着替えをしている龍司の背中に抱きついた。
「だが」
「私は龍ちゃんを選んだんだよ。妬かないでほしい」
胸を押し当てる。顔を肩につけたいところだけれど、まだ化粧を落としていないからやめておいた。彼の真っ白なシャツに化粧の痕を残したくない。
「幸菜」
「……シよ?」
「子どもが欲しくなったのか?」
「そうじゃないけど」
「そうなのか」
落胆気味に返事をしないで欲しい。
「うーん? ゴムなしがいいの?」
「いや……それは結婚してからがいい」
「私もそのほうがいいと思ってる」
私の腕を緩めさせると、龍司は私と向き合った。私を見る優しく笑った顔は昇太にそっくりだと思う。
「安心した」
「でも、失敗することはあるからね。気をつけないと」
「それは俺に任せておけ。幸菜の体は守るから」
龍司はさっと屈んで私に口づけをした。離れた彼の唇が少し光っている。
「龍ちゃん」
「ん?」
「私たちはちゃんと結婚式、しようね。祝福されたいよ」
「それはプロポーズだろうか」
さらりと返されて、私は目を瞬かせた。
自分の発言を思い返して、はっと口元を抑える。
「ごめん、失言。結婚する気がないわけじゃないけど、気が早かった。ごめん」
慌てて前言撤回をすれば、龍司は困ったような顔をしたあとに声を立てて笑った。
「ははっ、幸菜にその気があって安心した」
「ど、どういう意味よ」
「昇太が落ち着くまでのボディガード役かなって、時々思っていたから」
そう返して、龍司は着ていたスーツを潔く脱ぎ捨てて下着姿になった。
「恋人でしょ?」
「体を欲しがらないじゃないか」
私と向き合って龍司は裸体を晒す。ほどほどに鍛えられた体は健康的で美しいと私は思う。
「べ、別に恋人だからって、顔を合わせるたびに突っ込んでるわけじゃないと思うよ。それに、キスは毎日してるじゃん……」
「俺はもっと幸菜に触れたいと願っているぞ」
「う、うん」
「だから、したいならそう教えてほしい。俺は俺の欲だけで幸菜を抱きたくはないんだ」
龍司の手が耳に触れる。びっくりして体が震える。離れた手の中にはイヤリングがあった。
「――入浴が先だな。身を清めてから、ゆっくりしよう」
私の手の中にイヤリングを載せると、龍司は浴室へと姿を消す。
今夜はできるのだろうか。
私はイヤリングをしまうと、龍司を追いかけるのだった。
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