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可愛い僕の婚約者さま
私、政略結婚をしても構わないのです。
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パーティ会場はいつでもきらびやかで、華やかだ。
隣でエスコートしてくれるアルフレッドは、少々疲れた顔をしているものの、そのほかはいつもどおり。着飾った姿は年頃の少女たちにとっての憧れになる。いつでも少女たちの熱っぽい視線を感じ、テオドラは自分が婚約者でよかったのだろうかと疑問に思うこともしばしばあった。
私が事業に融資してもらうために政略結婚するだけじゃなく、アルお兄さまも融資してもらえそうな人と結婚することも可能なのよね……。
ふと、彼の横顔を見て、その可能性に気づく。
この美貌とスタイルであれば、それだけで縁談を望む声はあるかもしれない。また聞いた話では、事業が傾き始めても致命に至らなかったのは彼の活躍があったからだそうだ。なので、事業を継ぐのは実兄のドロテウスではなくアルフレッドになるだろうとも言われている。
お兄さまが結婚して融資を得られるようにするのもいいんでしょうけど……今の忙しさでは縁談どころではないでしょうからね……。
少しでも早く事業が立ち直ってほしい。前のような穏やかな日常が戻ってきてほしい。
「テア、どうかしたかな?」
不安な気持ちが顔に出てしまっていたようだ。アルフレッドが困ったように微笑んで問いかけてきた。
「い、いえ、アルお兄さま。私なら心配いりませんわ。ただ、アルお兄さまの顔色が少々悪いようでしたから、気になってしまって」
無難な言い訳を告げれば、彼は表情を曇らせる。
「アルお兄さま、ね……。こういう場ではアルだけで呼んでほしいものだけどな」
「ご、ごめんなさい……」
前々から注意されてきたが、呼び方は変えられない。婚約者ではあるが恋人ではないからと気がひけて言いにくかったのだ。
しゅんとすると、アルフレッドは苦笑した。
「悪い。少し口調がきつかった」
「ううん。大丈夫です」
どことなく会話がぎこちない。アルフレッドの様子がいつもと違うのだ。落ち着きがないというか、様子をうかがっているというか、そんな感じだ。
そんな態度に、テオドラはいつもと違うことがなんなのかに思い至る。
「あ。ドロテウスお兄さまは欠席だそうですよ。アルお兄さまがいれば充分だろうっておっしゃっていましたわ」
ふだんならばここにはドロテウスの姿もある。三人で行動することが多いことを思うと、今夜は珍しくアルフレッドと二人きりだ。
「そうか」
返事はそっけない。ドロテウスを気にしていたわけではないのかもしれない。
「お兄さまに信頼されているのですね。後継者をお兄さまにするかアルお兄さまにするかで競っているとお聞きしていましたが、アルお兄さまが有力なのですかね」
「どうかな。ここのところは僕が任せられることが多いけれど、それは僕が得意な分野だからってだけだと思うし。そもそも、ドロテウス兄さんだって、そういう意味で言ったわけじゃないと思うが」
そういう意味じゃないとしたら、どういう意味なんだろうか。
こういう社交の場は政治的な意味合いも多く含む。仕事の話もよく話題になるわけで、誰が顔を出しているのか、誰が誰に挨拶をしたかなどものちのち話題にされる。ドロテウスが欠席してアルフレッドが出席することには、事業をどちらが継ぐのかを決めるのに大きく関わるとテオドラは思ったのだが。
首をかしげると、アルフレッドがくすっと笑った。
「彼は君のエスコートは僕ひとりで充分だろうって言ったつもりだったんだと思うよ。テアはもう成人しているわけだし、一応僕が婚約者だ。エスコートするのは僕だけで充分だろう?」
「ああ、そういう……」
彼が《一応》と言ったのが引っかかった。
婚約者だと胸を張って言えないの?
不安が胸を覆う。
「今日は仕事の話は抜きにして、パーティを楽しもうじゃないか。リフレッシュしたいと思っていたんだよね。挨拶を済ませたら、一緒に踊ろうか」
ダンスは好きだ。婚約者の特権で、パートナーはアルフレッドが務めていたが、相性もよいらしくてとても気持ちよく踊れる。付き合いでほかの男性と踊ることもあったが、やはりアルフレッドが一番だと感じられた。息がぴったりで自然に動けるのは、彼と過ごした時間が長いからというのもあるのだろう。
しかし、今日は笑顔でうなずけなかった。
「あの……」
「ん?」
会場を進むのをやめて立ち止まると、アルフレッドが振り向いた。
テオドラは意を決して唇を動かす。
「本当に仕事は大丈夫なんですか? 事業が傾いていることは知っています。もし、融資をいただくことでどうにかできるのでしたら、私、政略結婚をしても構わないのです」
「な、なんだい、急に」
目を丸くするアルフレッドに、テオドラは続ける。
「先日、私と結婚できるなら融資をしてもいいという申し出を受けました。アルお兄さまが婚約者なのでこれまで考えもしなかったのですが、そういう方法でお父さまの事業を助けることができるということを知ったのです。だから、私――」
「お取り込み中のところ、申し訳ない。君がテオドラ・マクダニエルズさんですね」
アルフレッドの気持ちの確認をしようとしたところで会話を遮られた。
隣でエスコートしてくれるアルフレッドは、少々疲れた顔をしているものの、そのほかはいつもどおり。着飾った姿は年頃の少女たちにとっての憧れになる。いつでも少女たちの熱っぽい視線を感じ、テオドラは自分が婚約者でよかったのだろうかと疑問に思うこともしばしばあった。
私が事業に融資してもらうために政略結婚するだけじゃなく、アルお兄さまも融資してもらえそうな人と結婚することも可能なのよね……。
ふと、彼の横顔を見て、その可能性に気づく。
この美貌とスタイルであれば、それだけで縁談を望む声はあるかもしれない。また聞いた話では、事業が傾き始めても致命に至らなかったのは彼の活躍があったからだそうだ。なので、事業を継ぐのは実兄のドロテウスではなくアルフレッドになるだろうとも言われている。
お兄さまが結婚して融資を得られるようにするのもいいんでしょうけど……今の忙しさでは縁談どころではないでしょうからね……。
少しでも早く事業が立ち直ってほしい。前のような穏やかな日常が戻ってきてほしい。
「テア、どうかしたかな?」
不安な気持ちが顔に出てしまっていたようだ。アルフレッドが困ったように微笑んで問いかけてきた。
「い、いえ、アルお兄さま。私なら心配いりませんわ。ただ、アルお兄さまの顔色が少々悪いようでしたから、気になってしまって」
無難な言い訳を告げれば、彼は表情を曇らせる。
「アルお兄さま、ね……。こういう場ではアルだけで呼んでほしいものだけどな」
「ご、ごめんなさい……」
前々から注意されてきたが、呼び方は変えられない。婚約者ではあるが恋人ではないからと気がひけて言いにくかったのだ。
しゅんとすると、アルフレッドは苦笑した。
「悪い。少し口調がきつかった」
「ううん。大丈夫です」
どことなく会話がぎこちない。アルフレッドの様子がいつもと違うのだ。落ち着きがないというか、様子をうかがっているというか、そんな感じだ。
そんな態度に、テオドラはいつもと違うことがなんなのかに思い至る。
「あ。ドロテウスお兄さまは欠席だそうですよ。アルお兄さまがいれば充分だろうっておっしゃっていましたわ」
ふだんならばここにはドロテウスの姿もある。三人で行動することが多いことを思うと、今夜は珍しくアルフレッドと二人きりだ。
「そうか」
返事はそっけない。ドロテウスを気にしていたわけではないのかもしれない。
「お兄さまに信頼されているのですね。後継者をお兄さまにするかアルお兄さまにするかで競っているとお聞きしていましたが、アルお兄さまが有力なのですかね」
「どうかな。ここのところは僕が任せられることが多いけれど、それは僕が得意な分野だからってだけだと思うし。そもそも、ドロテウス兄さんだって、そういう意味で言ったわけじゃないと思うが」
そういう意味じゃないとしたら、どういう意味なんだろうか。
こういう社交の場は政治的な意味合いも多く含む。仕事の話もよく話題になるわけで、誰が顔を出しているのか、誰が誰に挨拶をしたかなどものちのち話題にされる。ドロテウスが欠席してアルフレッドが出席することには、事業をどちらが継ぐのかを決めるのに大きく関わるとテオドラは思ったのだが。
首をかしげると、アルフレッドがくすっと笑った。
「彼は君のエスコートは僕ひとりで充分だろうって言ったつもりだったんだと思うよ。テアはもう成人しているわけだし、一応僕が婚約者だ。エスコートするのは僕だけで充分だろう?」
「ああ、そういう……」
彼が《一応》と言ったのが引っかかった。
婚約者だと胸を張って言えないの?
不安が胸を覆う。
「今日は仕事の話は抜きにして、パーティを楽しもうじゃないか。リフレッシュしたいと思っていたんだよね。挨拶を済ませたら、一緒に踊ろうか」
ダンスは好きだ。婚約者の特権で、パートナーはアルフレッドが務めていたが、相性もよいらしくてとても気持ちよく踊れる。付き合いでほかの男性と踊ることもあったが、やはりアルフレッドが一番だと感じられた。息がぴったりで自然に動けるのは、彼と過ごした時間が長いからというのもあるのだろう。
しかし、今日は笑顔でうなずけなかった。
「あの……」
「ん?」
会場を進むのをやめて立ち止まると、アルフレッドが振り向いた。
テオドラは意を決して唇を動かす。
「本当に仕事は大丈夫なんですか? 事業が傾いていることは知っています。もし、融資をいただくことでどうにかできるのでしたら、私、政略結婚をしても構わないのです」
「な、なんだい、急に」
目を丸くするアルフレッドに、テオドラは続ける。
「先日、私と結婚できるなら融資をしてもいいという申し出を受けました。アルお兄さまが婚約者なのでこれまで考えもしなかったのですが、そういう方法でお父さまの事業を助けることができるということを知ったのです。だから、私――」
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