君は決められた婚約者

一花カナウ

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可愛い僕の婚約者さま

浴室へ

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 温かなお湯の中に身体を沈めると、絡みついていた気持ち悪さがいくらかやわらいだ。テオドラは大きく息を吐き出す。

 なんてことないって思っていましたのに……。

 自分の唇に指先を這わせる。
 ずっと憧れていた口づけを大好きな人と交わすことができた。嬉しいはずなのに、心に靄がかかっている。

「どうして……」

 アルフレッドがすぐに助けにきてくれたから大事には至らなかった。言葉ではそのように認識できていても、その言葉通りには受け入れていないらしかった。

「やっと……やっと気持ちを確認できたのに」

 ドレスを脱がす手伝いをしてくれたメイドは部屋から出ていってもらった。疲れた顔をしていたからかとても心配されたが、言いくるめて追い出したのだ。今はひとりになりたい。
 浴室で一人っきり。とても静かだ。テオドラのため息だけが響く。

「……私はどうしたらいい?」

 このまま触れ合っていいのだろうか。

 アルフレッドさまの求めに応じたいのに、またさっきみたいに拒みたくなったらどうしよう。

 彼にあんな顔をしてほしくない。一緒に喜びたいのに。

「……最低だわ」

 深く深く息を吐き出す。軽率な行動をしてしまった自分を恨む。
 アルフレッドとドロテウスを信じて任せておけばよかった。自分も何かできるのではないかなんて思い上がりだった。

 私はただの小娘だもの。

 でも、彼らの役に立ちたかった。もう守られているだけの子どもではないのだとわからせたかった。
 そんな思いが、彼らの足を引っ張ることになってしまった。怪我はなかったし、取り逃がすこともなかったけれど、心配させたし余計な仕事を増やしてしまった。

「可愛いだけじゃイヤなんだもの。お人形じゃないんだもの。私は、私なんだもの」

 悔しい。悔しい。悔しい。
 からだつきだけ大人に近づいたって意味がないのだ。
 だからって、アルフレッドと対等になれるなんて思っていない。歳だって離れているのだ。すぐに追いつけるわけもない、そんなことはわかりきっている。

 でも、ほんの少しだけでいいから、アルフレッドさまの役に立ちたかったの……。

 苦しい。とても苦しい。
 お風呂から出たらきっとアルフレッドと顔を合わせるだろう。どんな顔をして、何を喋ればいいのだろう。

 気持ちが紛れて落ち着くことができればいいと思ったのに、全然晴れないや……。

 テオドラは水面に顔を沈めた。
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