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黒き石に降り積もる雪
*8* 2007年8月某日、夕方【♭♯】
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「これでよしっと」
シャツから手を離すと、真雪はずるっと壁を滑るようにして崩れた。彼のポケットから紅が所持しているはずの赤い携帯電話が顔を覗かせていたので、将人は回収して電源を入れる。すぐに着信があった。
「――もしもし? あぁ、蒼衣にいか。悪いな、救急車を手配してくれ。紅が怪我をしている。……あぁ、うん。説教は直接会ってからにしてくれ。急いだ方がいい。今、紅を連れて外に出るから」
最低限の情報を伝えて、ハーフパンツのポケットに携帯電話を押し込む。そして、倒れたままの紅に駆け寄って、顔を覗き込んだ。
「紅、おれがわかるか?」
頭を打っているときは無闇に身体を動かすべきではないと、将人は理解できているらしかった。
「……うん。気分悪くて、くらくらするけど」
紅の声は薄い。荒い呼吸の合間に台詞が挟み込まれているかのようだ。
「今、外に運んでやる。蒼衣にいも近くまで来ているみたいだから、もう大丈夫だぞ」
怪我の状態を目視で確認し、将人はそっと紅を背負った。殴られたり蹴られたりした場所にできるだけ触れないように注意が払われている。
「……ごめんね、将人」
「謝る必要などない」
「あたし、足手まといにしかなれなくて……」
「……それは気にするな」
背中で泣き出した紅を、将人はどうすることもできなくて、ただ彼女に負担が掛からないようにゆっくりと運ぶ。
「――階段だ。しっかり掴まっていろよ?」
「わかった」
回された腕にほんの少し力がこもった。将人は慎重に階段を下りる。
階段は薄暗く、真っ直ぐ下りた先の一階部分は何も見えない。紅を背負った状態の将人からは足下も見えにくいはずで、重心を取りにくいのもあってより慎重さが必要になる。一歩一歩、確実に進む。
数段進んだところで、二階で物音がした。気付くと同時に、何かが階段を転がり落ちてくる。
「なっ!?」
それが、明かりを消した四つのランタンだと理解できたときには、将人は落下物に足を取られてバランスを崩していた。
「紅っ!!」
二人して階段を転がり落ちる。将人は咄嗟に紅を庇い、捕まえると抱き締めるようにして一階まで落ちた。
「くははっ。将人は詰めが甘いよ。動けないように縛るくらいのことはしなくちゃ。気が回らない程度にはその子が大事なんだな」
二階から懐中電灯の明かりを向けて愉快そうに笑っているのは真雪だった。
「今の音は何ですか!?」
ガラスの欠片を踏みながら駆け付ける足音が近付く。音は複数。
「……どうしよう、蒼衣にい」
階段近くにやってきた蒼衣に、将人は自分の濡れた手を見ながら呟く。将人にしては珍しく、声が震えていた。
「どうしよう、こんなに、血が……」
将人は真っ赤に染まったままの手で顔を覆った。
「え……?」
ようやく事態を把握したらしい。蒼衣は将人の前で仰向けに横たわる紅に近付く。ゆっくりとした足取りなのは、目の前で起きていることを認めたくなかったからに違いない。
紅の周りにはバラバラになったランタンとガラスの破片、そして赤い血が散らばっていた。
「紅……?」
「……蒼衣兄様……来てくれた……」
限りなく薄くしか感じられない視界。でも、紅には誰がそばにいるのかすぐにわかった。
名を呼ばれて、蒼衣は紅の手を握る。
「もう大丈夫ですよ。病院に連れて行って差し上げます。あと少しだけの辛抱ですから」
紅を励ますと、蒼衣は屋敷内に連れて入った使用人たちに指示を出す。
救急車やパトカーなどが駆けつけたのは、それから間もなくのことだった。
シャツから手を離すと、真雪はずるっと壁を滑るようにして崩れた。彼のポケットから紅が所持しているはずの赤い携帯電話が顔を覗かせていたので、将人は回収して電源を入れる。すぐに着信があった。
「――もしもし? あぁ、蒼衣にいか。悪いな、救急車を手配してくれ。紅が怪我をしている。……あぁ、うん。説教は直接会ってからにしてくれ。急いだ方がいい。今、紅を連れて外に出るから」
最低限の情報を伝えて、ハーフパンツのポケットに携帯電話を押し込む。そして、倒れたままの紅に駆け寄って、顔を覗き込んだ。
「紅、おれがわかるか?」
頭を打っているときは無闇に身体を動かすべきではないと、将人は理解できているらしかった。
「……うん。気分悪くて、くらくらするけど」
紅の声は薄い。荒い呼吸の合間に台詞が挟み込まれているかのようだ。
「今、外に運んでやる。蒼衣にいも近くまで来ているみたいだから、もう大丈夫だぞ」
怪我の状態を目視で確認し、将人はそっと紅を背負った。殴られたり蹴られたりした場所にできるだけ触れないように注意が払われている。
「……ごめんね、将人」
「謝る必要などない」
「あたし、足手まといにしかなれなくて……」
「……それは気にするな」
背中で泣き出した紅を、将人はどうすることもできなくて、ただ彼女に負担が掛からないようにゆっくりと運ぶ。
「――階段だ。しっかり掴まっていろよ?」
「わかった」
回された腕にほんの少し力がこもった。将人は慎重に階段を下りる。
階段は薄暗く、真っ直ぐ下りた先の一階部分は何も見えない。紅を背負った状態の将人からは足下も見えにくいはずで、重心を取りにくいのもあってより慎重さが必要になる。一歩一歩、確実に進む。
数段進んだところで、二階で物音がした。気付くと同時に、何かが階段を転がり落ちてくる。
「なっ!?」
それが、明かりを消した四つのランタンだと理解できたときには、将人は落下物に足を取られてバランスを崩していた。
「紅っ!!」
二人して階段を転がり落ちる。将人は咄嗟に紅を庇い、捕まえると抱き締めるようにして一階まで落ちた。
「くははっ。将人は詰めが甘いよ。動けないように縛るくらいのことはしなくちゃ。気が回らない程度にはその子が大事なんだな」
二階から懐中電灯の明かりを向けて愉快そうに笑っているのは真雪だった。
「今の音は何ですか!?」
ガラスの欠片を踏みながら駆け付ける足音が近付く。音は複数。
「……どうしよう、蒼衣にい」
階段近くにやってきた蒼衣に、将人は自分の濡れた手を見ながら呟く。将人にしては珍しく、声が震えていた。
「どうしよう、こんなに、血が……」
将人は真っ赤に染まったままの手で顔を覆った。
「え……?」
ようやく事態を把握したらしい。蒼衣は将人の前で仰向けに横たわる紅に近付く。ゆっくりとした足取りなのは、目の前で起きていることを認めたくなかったからに違いない。
紅の周りにはバラバラになったランタンとガラスの破片、そして赤い血が散らばっていた。
「紅……?」
「……蒼衣兄様……来てくれた……」
限りなく薄くしか感じられない視界。でも、紅には誰がそばにいるのかすぐにわかった。
名を呼ばれて、蒼衣は紅の手を握る。
「もう大丈夫ですよ。病院に連れて行って差し上げます。あと少しだけの辛抱ですから」
紅を励ますと、蒼衣は屋敷内に連れて入った使用人たちに指示を出す。
救急車やパトカーなどが駆けつけたのは、それから間もなくのことだった。
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