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血玉髄は太陽を追って
*4* 10月11日金曜日、放課後
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交流棟の二階と三階はホールである。演劇部が公演で使用したり、外部講師を招いて講演会を開いたりするときくらいにしか使用されていない場所で、普段は鍵が掛けられている。紅が入学してからも数回しか利用の機会はなく、すっかり存在を忘れていたくらいだ。
階段を上り、立ち入り禁止のロープを跨ぐと、ホールの入口までやってきた。
「鍵掛かっているんじゃないの?」
紅が問うと、蒼衣がすかさず答える。
「壊しましょう。私が許可します」
「んじゃ、僕がやる!」
どこからともなく道具を取り出すと、遊輝は目の前に立ちはだかる扉に掛かる。
――さすがは怪盗……。ってか、なんでこの人、ピッキングツールを持ち歩いているわけ?
行動がやたら手慣れている。怪盗オパールとして、様々な宝石を盗み出してきた実績はこんなところにも現れるのだろう。
「あれ?」
遊輝は鍵穴をちらっと見た後、扉を押す。あっさりと開いた。
「鍵、開いていたんだけど」
「え? 今日は誰も利用申請を出していないはず――」
蒼衣がスマートフォンで校内の施設利用状況一覧を見ている。紅が覗き込むと確かに何の印もない。
抜折羅が動いた。
「まずい、先を越されたっ!!」
観音開きの扉の、遊輝が立っていない側の扉を押して抜折羅がホール内に突入する。あとに遊輝、蒼衣、紅が続く。
「遅かったじゃねぇか」
「将人……」
明かりのないホール。その左手にある舞台の中央が懐中電灯で照らされている。そこにいたのは将人だった。彼の足元には拳よりも大きい程度の穴が穿たれている。
「〝氷雪の精霊〟はここだぜ」
言って、将人は紅たちに手の中のものを翳す。
白い輝きを返すそれは、十数メートル離れた紅のいる場所からは水晶っぽいと思えるだけで、他の特徴はわからない。スマートフォンくらいの高さで、六角柱の形状、その片端が尖っているように見える。
「将人、それをあたしに渡して。その石をあたしは浄化しないといけないの」
「だろうな。魔性の力を吸い過ぎて、曇ってきているし」
懐中電灯のライトを石に当てて様子を確認しながら、将人が言う。
「浄化の期日が迫っているのよ。おとなしく渡してくれないかしら?」
「おれに何のメリットもないのに、応じると思うのか?」
迂闊に近付くことができない。これだけの距離を取っていれば、向こうの攻撃は届かないだろう。だが、遠隔でも作用する《鎮静の光》は防がれてしまうし、抜折羅の能力もこれまでの体験からすれば近接戦闘が中心らしい。ここから攻撃が届くとすれば、紅が持つ〝フレイムブラッド〟の能力《浄化の炎》くらいしかない。
「渡してくれないなら、あたし、あなたごと《浄化の炎》で焼き払ってあげても良いのよ?」
「やってみろよ。――できるものならな」
将人は〝氷雪の精霊〟をズボンのポケットにしまうと、替わりに黒い石のペンジュラムを取り出した。
――防がれる前に、攻撃をしないとっ!!
紅は素早く前に出ると、右手を将人に突き出す。
「炎と戦いの神マルスよ、我が前に立ちふさがる邪なる心を燃やし滅せよ!」
右手から放たれる《浄化の炎》がホール内を煌々と照らす。プロミネンスのような紅蓮の腕が将人に伸びた。
「眼前にある困難を乗り越える力を我が手に与えよ!」
将人も動く。彼の力強い声に応じて、黒い石に変化が生じた。《浄化の炎》で明るくなったはずのホールが一瞬で真っ暗になる。
「紅っ!!」
叫んだのは抜折羅で。
気付けば押し倒された状態で。
戸惑う間もなく、紅たちの真上を、紅蓮の炎が通過した。
――返された!?
「無事か?」
顔が近くてドキドキする。抜折羅の問いに、紅はこくっと頷いた。
――いや、ドキドキしているのは、本気で放った《浄化の炎》を返されたからだって。
上から退いた抜折羅の手を取って上体を起こす。座席の間から将人のいる舞台を見れば、大きな黒い鏡を消し去るところが見えた。
「先輩方は?」
抜折羅が後方の遊輝と蒼衣に問う。
「間一髪ってところかな」
「同じく」
二人の声には驚きと焦りが滲んでいる。本当にギリギリだったのだろう。
「おいおい。まさかこれでおしまいか? もっと遊ぼうぜ」
将人のペンジュラムは黒い槍に変形していた。紅たちを見ながら、退屈そうにくるくると槍を回転させている。身体の一部であるかのように使いこなせているのが、そんな様子から窺い知れるだろう。
「――あんたがその石を求める理由はなんだ?」
紅を下がらせて問い掛けたのは抜折羅だ。
「星章家への宣戦布告だ。紅を嫁にもらうのはこのおれだ! だのに、勝手に婚約など――」
――って、やっぱり完全に私怨じゃない……。
紅が呆れていると、遊輝も苦笑して呟く。
「あらら、またしてもライバル出現?」
紅は立ち上がって、将人に向かって叫ぶ。
「あのね、あんまり本気にしないでくれる? あたしはまだ、承知していないの。親同士の勝手な取り決めなんだからね? それに、あの傷も残ってないんだから、無理に責任を取ってくれなくて良いのよ?」
「無理とか責任とかそういう問題じゃねぇっ! おれはあの事件と関係なく昔っから――と、とにかく、おれは〝氷雪の精霊〟でこの学院に不幸を呼び込んでやるっ! すべては星章家を潰してからだっ!」
何か言いよどんだように聞き取れたが、将人に宣言される。
「おれの邪魔をしようって言うなら、そんなことを考えられねえように再起不能にしてやるだけだがなっ!」
将人が槍を構えた――そのときだった。
階段を上り、立ち入り禁止のロープを跨ぐと、ホールの入口までやってきた。
「鍵掛かっているんじゃないの?」
紅が問うと、蒼衣がすかさず答える。
「壊しましょう。私が許可します」
「んじゃ、僕がやる!」
どこからともなく道具を取り出すと、遊輝は目の前に立ちはだかる扉に掛かる。
――さすがは怪盗……。ってか、なんでこの人、ピッキングツールを持ち歩いているわけ?
行動がやたら手慣れている。怪盗オパールとして、様々な宝石を盗み出してきた実績はこんなところにも現れるのだろう。
「あれ?」
遊輝は鍵穴をちらっと見た後、扉を押す。あっさりと開いた。
「鍵、開いていたんだけど」
「え? 今日は誰も利用申請を出していないはず――」
蒼衣がスマートフォンで校内の施設利用状況一覧を見ている。紅が覗き込むと確かに何の印もない。
抜折羅が動いた。
「まずい、先を越されたっ!!」
観音開きの扉の、遊輝が立っていない側の扉を押して抜折羅がホール内に突入する。あとに遊輝、蒼衣、紅が続く。
「遅かったじゃねぇか」
「将人……」
明かりのないホール。その左手にある舞台の中央が懐中電灯で照らされている。そこにいたのは将人だった。彼の足元には拳よりも大きい程度の穴が穿たれている。
「〝氷雪の精霊〟はここだぜ」
言って、将人は紅たちに手の中のものを翳す。
白い輝きを返すそれは、十数メートル離れた紅のいる場所からは水晶っぽいと思えるだけで、他の特徴はわからない。スマートフォンくらいの高さで、六角柱の形状、その片端が尖っているように見える。
「将人、それをあたしに渡して。その石をあたしは浄化しないといけないの」
「だろうな。魔性の力を吸い過ぎて、曇ってきているし」
懐中電灯のライトを石に当てて様子を確認しながら、将人が言う。
「浄化の期日が迫っているのよ。おとなしく渡してくれないかしら?」
「おれに何のメリットもないのに、応じると思うのか?」
迂闊に近付くことができない。これだけの距離を取っていれば、向こうの攻撃は届かないだろう。だが、遠隔でも作用する《鎮静の光》は防がれてしまうし、抜折羅の能力もこれまでの体験からすれば近接戦闘が中心らしい。ここから攻撃が届くとすれば、紅が持つ〝フレイムブラッド〟の能力《浄化の炎》くらいしかない。
「渡してくれないなら、あたし、あなたごと《浄化の炎》で焼き払ってあげても良いのよ?」
「やってみろよ。――できるものならな」
将人は〝氷雪の精霊〟をズボンのポケットにしまうと、替わりに黒い石のペンジュラムを取り出した。
――防がれる前に、攻撃をしないとっ!!
紅は素早く前に出ると、右手を将人に突き出す。
「炎と戦いの神マルスよ、我が前に立ちふさがる邪なる心を燃やし滅せよ!」
右手から放たれる《浄化の炎》がホール内を煌々と照らす。プロミネンスのような紅蓮の腕が将人に伸びた。
「眼前にある困難を乗り越える力を我が手に与えよ!」
将人も動く。彼の力強い声に応じて、黒い石に変化が生じた。《浄化の炎》で明るくなったはずのホールが一瞬で真っ暗になる。
「紅っ!!」
叫んだのは抜折羅で。
気付けば押し倒された状態で。
戸惑う間もなく、紅たちの真上を、紅蓮の炎が通過した。
――返された!?
「無事か?」
顔が近くてドキドキする。抜折羅の問いに、紅はこくっと頷いた。
――いや、ドキドキしているのは、本気で放った《浄化の炎》を返されたからだって。
上から退いた抜折羅の手を取って上体を起こす。座席の間から将人のいる舞台を見れば、大きな黒い鏡を消し去るところが見えた。
「先輩方は?」
抜折羅が後方の遊輝と蒼衣に問う。
「間一髪ってところかな」
「同じく」
二人の声には驚きと焦りが滲んでいる。本当にギリギリだったのだろう。
「おいおい。まさかこれでおしまいか? もっと遊ぼうぜ」
将人のペンジュラムは黒い槍に変形していた。紅たちを見ながら、退屈そうにくるくると槍を回転させている。身体の一部であるかのように使いこなせているのが、そんな様子から窺い知れるだろう。
「――あんたがその石を求める理由はなんだ?」
紅を下がらせて問い掛けたのは抜折羅だ。
「星章家への宣戦布告だ。紅を嫁にもらうのはこのおれだ! だのに、勝手に婚約など――」
――って、やっぱり完全に私怨じゃない……。
紅が呆れていると、遊輝も苦笑して呟く。
「あらら、またしてもライバル出現?」
紅は立ち上がって、将人に向かって叫ぶ。
「あのね、あんまり本気にしないでくれる? あたしはまだ、承知していないの。親同士の勝手な取り決めなんだからね? それに、あの傷も残ってないんだから、無理に責任を取ってくれなくて良いのよ?」
「無理とか責任とかそういう問題じゃねぇっ! おれはあの事件と関係なく昔っから――と、とにかく、おれは〝氷雪の精霊〟でこの学院に不幸を呼び込んでやるっ! すべては星章家を潰してからだっ!」
何か言いよどんだように聞き取れたが、将人に宣言される。
「おれの邪魔をしようって言うなら、そんなことを考えられねえように再起不能にしてやるだけだがなっ!」
将人が槍を構えた――そのときだった。
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