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血玉髄は太陽を追って
*5* 10月11日金曜日、放課後
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「うーん、星章家を潰されると、オレが困るんだよね」
「誰だ!?」
ここにいるはずのない声が割って入った。警戒する将人。声の主は続ける。
「オレはタリスマンオーダー社の監査担当、向日陽太だ。以後、見知りおきを」
告げて、突如舞台に姿を現したのは、昼休みに紅の前にやってきた金髪の少年――向日陽太に間違いなかった。
――え? 今、どっから出てきたの!?
湧いてきたかのような登場の仕方に驚いている間も、陽太は続ける。
「黒曜将人くん、君がどこの所属なのかは知らないけど、オレの筋書きにないことをしないでくれるかな?」
「知ったことか」
急に現れた闖入者にも動じず、将人は槍を軽く薙ぐ。掠めると、陽太の長い前髪が切れて舞台の上に散った。
攻撃を受けたはずの陽太が薄く笑う。
「オブシディアンは守りの石。本来なら攻撃には不向きな力だ。それを補うために、貝殻状に割れる性質を使って槍を生み出し、それによる近接戦闘をメインにしたってところはなかなか良い着眼点だと思う。非常に君のスタイルに合っている。だけどさ――オレとの相性は最悪よ?」
次の瞬間、ホール内が冷えた。冷房が強くなったかのように感じられたが、それは錯覚。冷や汗が吹き出したからだ。
――何、この感覚……。
嫌な感じは陽太から発せられている。つまり、物理的な変化ではなく、精神的な変化。
――あの人、一体何を?
硬いものが舞台に落ちて音を立てる。それは将人が持っていたはずの黒い石のペンジュラム。将人の頬には流れ落ちる汗。困惑気味に将人は視線を陽太に向けた。
「何をした……?」
「手の内を明かすのは愚行だと思うね。とにかく、オレには逆らわないことだな」
動けない将人のポケットから〝氷雪の精霊〟を抜き取る。それを待っていたかのように将人がその場に崩れた。
陽太は奪い取った〝氷雪の精霊〟を放ったりキャッチしたりしながら、舞台を下りて紅たちに向かってくる。
「バサラ、何悠長なことやってんのさ?」
座席三つ分くらいまで近付いたところで、陽太は抜折羅に〝氷雪の精霊〟をほいっと投げ渡す。抜折羅は片手で軽く受け止めた。
「ヨータ、お前……」
「潜入と奇襲攻撃はオレの十八番よ。知ってるだろ?」
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくてな――」
文句を言っている抜折羅を除けて、二人の間に紅が割り込む。
「向日先輩、ありがとう。助かったわ」
なんだかよくわからないのだが、助けてもらったのは事実だ。忘れないうちに礼を言う。
紅が笑顔を向けると、陽太もにっこりと笑んだ。
「お礼なら火群ちゃんのキスでお願いしたいね」
「なっ……」
思わず笑顔を強ばらせて、一歩退く。
「あの術を使うと、オレの力、半減するんだわ。君の口付けに回復能力があるのは知っているよ」
陽太は自身の唇を人差し指でツンツンとつついて、キスを要求してくる。
紅は焦った。
「だ、だけど、それを要求しますかっ!?」
「じゃあ、〝フレイムブラッド〟の力を求めるからやれって言えば、素直に応じる?」
迫る陽太に困る紅。
そんな紅の肩をわしっと掴んで後退させ、抜折羅が割り込んだ。その手には水晶のクラスターが握られ、鋭い先端が陽太の喉元を狙っている。
「――ヨータ、紅をからかわないでくれるか?」
抜折羅から発せられているのは殺気。かなり怒っている。
――あ、ちょっと嬉しいかも。
自分のためにこうして怒ってくれることに、少しだけ幸せを感じる。これまでそんなふうに感じたことはなかったのに。
陽太は抜折羅の威嚇に、何も持っていない手を肩まで上げて降参を示した。
「やだなぁ。冗談に決まっているじゃん。本気で怒るなって。君にとっては〝ホープ〟の回収と同じくらい大事にしている女でも、オレの好みから外れるし」
「ここでその発言は命取りだぞ?」
抜折羅の指摘に、陽太は不敵に笑む。
「――勝てる見込みがあるから、わざと挑発しているってわかれよ、バサラ。白浪遊輝の〝スティールハート〟の対策も、星章蒼衣の〝紺青の王〟の対策も、オレはできているぜ?」
遊輝と蒼衣の二人が殺気立ったのを肌で感じたが動かない。相手の手の内がわからないので、様子を窺っているのだろう。
陽太は視線を将人が転がる舞台に向ける。
「まぁ、そこのオブシディアンの少年は事前情報がなかったんで、ちょいと驚いたけどね。あとで報告書をやるよ」
「仕事が出来過ぎるヤツは敵に回したくないもんだな」
面倒くさそうな顔をして、抜折羅は手を引いた。ここでの戦闘は得策ではないと判断したのだろう。
その様子に陽太は肩を竦める。
「オレの親父にその評価を送ってくれよ」
「――えっと……お知り合い?」
昼休みに陽太に会ったときに聞いてはいるのだが、抜折羅から聞いて確認したかった。
「あぁ。腐れ縁だな。アメリカからついて来たみたいだ。ちゃっかり二年生に編入してるし……」
憂鬱そうな表情で答えられる。仲がよい友人というわけではなさそうだ。
「あ、火群ちゃん、その〝氷雪の精霊〟さっさと浄化しちゃってよ。それで任務終了っしょ?」
抜折羅が持つ〝氷雪の精霊〟を指して、陽太が言う。このホールにきて話していた内容ではあるが、紅たちの事情をある程度把握しているらしいことが態度から感じられる。
「は、はい」
抜折羅から〝氷雪の精霊〟を受け取ると、呪文詠唱付きの《浄化の炎》で溜まっていた魔性の力を祓った。
「これでよしっと」
「ではホールから、移動しましょうか。星章邸を使っていいですよ。向日陽太さんでしたね。貴方に聞きたいこともありますので」
蒼衣に促されて、一同は星章邸に移動することになったのだった。
「誰だ!?」
ここにいるはずのない声が割って入った。警戒する将人。声の主は続ける。
「オレはタリスマンオーダー社の監査担当、向日陽太だ。以後、見知りおきを」
告げて、突如舞台に姿を現したのは、昼休みに紅の前にやってきた金髪の少年――向日陽太に間違いなかった。
――え? 今、どっから出てきたの!?
湧いてきたかのような登場の仕方に驚いている間も、陽太は続ける。
「黒曜将人くん、君がどこの所属なのかは知らないけど、オレの筋書きにないことをしないでくれるかな?」
「知ったことか」
急に現れた闖入者にも動じず、将人は槍を軽く薙ぐ。掠めると、陽太の長い前髪が切れて舞台の上に散った。
攻撃を受けたはずの陽太が薄く笑う。
「オブシディアンは守りの石。本来なら攻撃には不向きな力だ。それを補うために、貝殻状に割れる性質を使って槍を生み出し、それによる近接戦闘をメインにしたってところはなかなか良い着眼点だと思う。非常に君のスタイルに合っている。だけどさ――オレとの相性は最悪よ?」
次の瞬間、ホール内が冷えた。冷房が強くなったかのように感じられたが、それは錯覚。冷や汗が吹き出したからだ。
――何、この感覚……。
嫌な感じは陽太から発せられている。つまり、物理的な変化ではなく、精神的な変化。
――あの人、一体何を?
硬いものが舞台に落ちて音を立てる。それは将人が持っていたはずの黒い石のペンジュラム。将人の頬には流れ落ちる汗。困惑気味に将人は視線を陽太に向けた。
「何をした……?」
「手の内を明かすのは愚行だと思うね。とにかく、オレには逆らわないことだな」
動けない将人のポケットから〝氷雪の精霊〟を抜き取る。それを待っていたかのように将人がその場に崩れた。
陽太は奪い取った〝氷雪の精霊〟を放ったりキャッチしたりしながら、舞台を下りて紅たちに向かってくる。
「バサラ、何悠長なことやってんのさ?」
座席三つ分くらいまで近付いたところで、陽太は抜折羅に〝氷雪の精霊〟をほいっと投げ渡す。抜折羅は片手で軽く受け止めた。
「ヨータ、お前……」
「潜入と奇襲攻撃はオレの十八番よ。知ってるだろ?」
「俺が言いたいのはそういうことじゃなくてな――」
文句を言っている抜折羅を除けて、二人の間に紅が割り込む。
「向日先輩、ありがとう。助かったわ」
なんだかよくわからないのだが、助けてもらったのは事実だ。忘れないうちに礼を言う。
紅が笑顔を向けると、陽太もにっこりと笑んだ。
「お礼なら火群ちゃんのキスでお願いしたいね」
「なっ……」
思わず笑顔を強ばらせて、一歩退く。
「あの術を使うと、オレの力、半減するんだわ。君の口付けに回復能力があるのは知っているよ」
陽太は自身の唇を人差し指でツンツンとつついて、キスを要求してくる。
紅は焦った。
「だ、だけど、それを要求しますかっ!?」
「じゃあ、〝フレイムブラッド〟の力を求めるからやれって言えば、素直に応じる?」
迫る陽太に困る紅。
そんな紅の肩をわしっと掴んで後退させ、抜折羅が割り込んだ。その手には水晶のクラスターが握られ、鋭い先端が陽太の喉元を狙っている。
「――ヨータ、紅をからかわないでくれるか?」
抜折羅から発せられているのは殺気。かなり怒っている。
――あ、ちょっと嬉しいかも。
自分のためにこうして怒ってくれることに、少しだけ幸せを感じる。これまでそんなふうに感じたことはなかったのに。
陽太は抜折羅の威嚇に、何も持っていない手を肩まで上げて降参を示した。
「やだなぁ。冗談に決まっているじゃん。本気で怒るなって。君にとっては〝ホープ〟の回収と同じくらい大事にしている女でも、オレの好みから外れるし」
「ここでその発言は命取りだぞ?」
抜折羅の指摘に、陽太は不敵に笑む。
「――勝てる見込みがあるから、わざと挑発しているってわかれよ、バサラ。白浪遊輝の〝スティールハート〟の対策も、星章蒼衣の〝紺青の王〟の対策も、オレはできているぜ?」
遊輝と蒼衣の二人が殺気立ったのを肌で感じたが動かない。相手の手の内がわからないので、様子を窺っているのだろう。
陽太は視線を将人が転がる舞台に向ける。
「まぁ、そこのオブシディアンの少年は事前情報がなかったんで、ちょいと驚いたけどね。あとで報告書をやるよ」
「仕事が出来過ぎるヤツは敵に回したくないもんだな」
面倒くさそうな顔をして、抜折羅は手を引いた。ここでの戦闘は得策ではないと判断したのだろう。
その様子に陽太は肩を竦める。
「オレの親父にその評価を送ってくれよ」
「――えっと……お知り合い?」
昼休みに陽太に会ったときに聞いてはいるのだが、抜折羅から聞いて確認したかった。
「あぁ。腐れ縁だな。アメリカからついて来たみたいだ。ちゃっかり二年生に編入してるし……」
憂鬱そうな表情で答えられる。仲がよい友人というわけではなさそうだ。
「あ、火群ちゃん、その〝氷雪の精霊〟さっさと浄化しちゃってよ。それで任務終了っしょ?」
抜折羅が持つ〝氷雪の精霊〟を指して、陽太が言う。このホールにきて話していた内容ではあるが、紅たちの事情をある程度把握しているらしいことが態度から感じられる。
「は、はい」
抜折羅から〝氷雪の精霊〟を受け取ると、呪文詠唱付きの《浄化の炎》で溜まっていた魔性の力を祓った。
「これでよしっと」
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