114 / 309
血玉髄は太陽を追って
★6★ 10月11日金曜日、放課後
しおりを挟む
午後五時過ぎ。
将人を置いて、一同は星章邸にやってきた。蒼衣に案内されて食堂に通される。まだ明るいうちにここに来るのは抜折羅は初めてだ。
何十人も一度に入れそうな広い食堂。大きな窓の向こうには手入れがされたイングリッシュガーデンが広がっている。まるでリゾート地のペンションにいるかのような光景だ。
真っ白なクロスが掛けられた長机にそれぞれがついたところで、蒼衣が切り出した。
「星章家が潰されると困るというのは?」
早速の陽太への問い。どんな意図があるのか気になるのだろう。
「日本支部の資金を星章家に賄っていただきたくて。その方が、お互いラクでしょ? 元々、タリスマンオーダー社が日本支部を置かなかったのは、出水千晶様がいたからなんだし。出水派の星章家がバックにつくなら、オレの向日家は本社の支援に撤して、日本支部には口を出さないよ」
交渉の態度というよりは雑談の延長のような口振りで陽太が説明する。現状としては互いに決定権を持っているわけではないのだから、この話題は将来的な根回しという位置付けにすぎないのだ。
「なるほど。――向日家は世界展開している輸入雑貨店の経営者でしたね。タリスマンオーダー社の支援をしているとの話は伺っておりますよ」
外交用の笑顔で蒼衣が告げ、さらに続ける。
「ですが、それはそちらの都合でしょう? わざわざタリスマンオーダー社の日本支部としなくても、星章家には宝杖学院があります。出水家だって、現役なのです。あちらの顔は立てなくて良いんですか?」
――まぁ、そう返すのは想定の範囲内だよな。
抜折羅は右隣に座る陽太の反応を窺う。
「後継者問題を抱えているところはどーでもいいんだよ。山梨から出て来るつもりがあれば、検討の余地があるけど。そう考えると、まだ都内である八王子の方が、立地として便利じゃん?」
山梨県は抜折羅の出身県でもある。交通の便が悪いという意見はわからないでもない。
「――それは、タリスマンオーダー社の意向ですか?」
蒼衣の視線が陽太から抜折羅に移った。渋々応じる。
「俺個人の考えです。説得に一週間掛かりました」
「貴方は面白いことをしますね」
ふっと小さく蒼衣が笑う。意外に感じられたようだ。
抜折羅は続ける。
「ホープの呪いが解けたら、タリスマンオーダー社から出るつもりでいるので。その準備といったところですよ」
これは建前ではなく、本音だ。蒼衣の隣に座っている紅が驚いた顔をしていた。
抜折羅が素直に答えると、陽太が間に入る。
「女のために仕事辞めるとか言うんだよ、コイツ。改心するよう、説得してくれません? 次期社長の可能性もあるのに、それすら捨てるって、おかしいでしょ」
親指で指しながら言ってくるので、抜折羅は右手でそれを下げさせて返す。
「俺は静かに慎ましく生きていきたいだけだ。――一応、先輩方には言っておきますが、タリスマンオーダー社は紅を引き入れたがっています。浄化系能力は需要がある、手元に置きたいと思うのは当然でしょう。また、紅が出水千晶の孫であることも影響しています。放置しておく訳がない」
抜折羅の補足に、しばらく黙って傍観しているふうだった遊輝が反応した。
「それってさ、日本に支部を立てなかったら、アメリカに連れて行くってことかい?」
「そうなります。俺の意志とは無関係に。――紅を巻き込みたくないんだ」
遊輝ならわかってくれるだろうと、なんとなく思えた。恋愛感情を抜きにしても、紅のそばにいることにメリットを感じている遊輝であれば、きっとその未来は望まないはずだ。
「なんというか、あたしの知らないところであれこれ動いているみたいね」
ため息混じりに紅が告げる。そして苦笑して続けた。
「――あたしの使命は〝フレイムブラッド〟の力を欲する者の手助けをすることだから、呼ばれたら断れないでしょうね」
「アメリカに渡るのもやむなしだと言うのか?」
あまりにもあっさりと言うので、思わず抜折羅は確認する。
「だって仕方がないじゃない。それに抜折羅の仕事が片付くまでは、その方が好都合でしょ?」
紅の意見を否定できない。妙な葛藤があって、受け入れたい気持ちと退けたい気持ちがせめぎ合っている。紅を本社に取られないために今できる手っ取り早い確実な方法は、抜折羅の使命である〝ホープ〟の回収を終えることに他ならない。
「うっ……さり気なくプレッシャーをかけてきたな……」
「だけど、紅ちゃんの夢はどうするんだい?」
左側に座る紅を見ながら、遊輝が問う。紅の夢はジュエリーデザイナーになることだ。そのために様々な努力をしていることを抜折羅は知っているし、遊輝も部活動を通して見てきたのだろう。
紅は余所行きの笑顔を浮かべていた。諦めが少し混じった、良い子を演じているときに見せる建前の表情。
「夢は叶えたいけど、急ぎじゃないもの。人生経験が活きることもあるんじゃないかしら?」
そんな紅を見ていると、抜折羅は忠告せずにはいられない。自分の説明不足が原因で想像できないのだろうとしても、楽観視しすぎている。
「紅、気安く言ってくれるな。甘く見てるとえらい目に遭うぞ。俺はタリスマンオーダー社の人間ではあるが、あの組織のやり方には反対しているんだ」
きっぱり告げると、右隣から鋭い視線を感じる。陽太が睨んでいた。
将人を置いて、一同は星章邸にやってきた。蒼衣に案内されて食堂に通される。まだ明るいうちにここに来るのは抜折羅は初めてだ。
何十人も一度に入れそうな広い食堂。大きな窓の向こうには手入れがされたイングリッシュガーデンが広がっている。まるでリゾート地のペンションにいるかのような光景だ。
真っ白なクロスが掛けられた長机にそれぞれがついたところで、蒼衣が切り出した。
「星章家が潰されると困るというのは?」
早速の陽太への問い。どんな意図があるのか気になるのだろう。
「日本支部の資金を星章家に賄っていただきたくて。その方が、お互いラクでしょ? 元々、タリスマンオーダー社が日本支部を置かなかったのは、出水千晶様がいたからなんだし。出水派の星章家がバックにつくなら、オレの向日家は本社の支援に撤して、日本支部には口を出さないよ」
交渉の態度というよりは雑談の延長のような口振りで陽太が説明する。現状としては互いに決定権を持っているわけではないのだから、この話題は将来的な根回しという位置付けにすぎないのだ。
「なるほど。――向日家は世界展開している輸入雑貨店の経営者でしたね。タリスマンオーダー社の支援をしているとの話は伺っておりますよ」
外交用の笑顔で蒼衣が告げ、さらに続ける。
「ですが、それはそちらの都合でしょう? わざわざタリスマンオーダー社の日本支部としなくても、星章家には宝杖学院があります。出水家だって、現役なのです。あちらの顔は立てなくて良いんですか?」
――まぁ、そう返すのは想定の範囲内だよな。
抜折羅は右隣に座る陽太の反応を窺う。
「後継者問題を抱えているところはどーでもいいんだよ。山梨から出て来るつもりがあれば、検討の余地があるけど。そう考えると、まだ都内である八王子の方が、立地として便利じゃん?」
山梨県は抜折羅の出身県でもある。交通の便が悪いという意見はわからないでもない。
「――それは、タリスマンオーダー社の意向ですか?」
蒼衣の視線が陽太から抜折羅に移った。渋々応じる。
「俺個人の考えです。説得に一週間掛かりました」
「貴方は面白いことをしますね」
ふっと小さく蒼衣が笑う。意外に感じられたようだ。
抜折羅は続ける。
「ホープの呪いが解けたら、タリスマンオーダー社から出るつもりでいるので。その準備といったところですよ」
これは建前ではなく、本音だ。蒼衣の隣に座っている紅が驚いた顔をしていた。
抜折羅が素直に答えると、陽太が間に入る。
「女のために仕事辞めるとか言うんだよ、コイツ。改心するよう、説得してくれません? 次期社長の可能性もあるのに、それすら捨てるって、おかしいでしょ」
親指で指しながら言ってくるので、抜折羅は右手でそれを下げさせて返す。
「俺は静かに慎ましく生きていきたいだけだ。――一応、先輩方には言っておきますが、タリスマンオーダー社は紅を引き入れたがっています。浄化系能力は需要がある、手元に置きたいと思うのは当然でしょう。また、紅が出水千晶の孫であることも影響しています。放置しておく訳がない」
抜折羅の補足に、しばらく黙って傍観しているふうだった遊輝が反応した。
「それってさ、日本に支部を立てなかったら、アメリカに連れて行くってことかい?」
「そうなります。俺の意志とは無関係に。――紅を巻き込みたくないんだ」
遊輝ならわかってくれるだろうと、なんとなく思えた。恋愛感情を抜きにしても、紅のそばにいることにメリットを感じている遊輝であれば、きっとその未来は望まないはずだ。
「なんというか、あたしの知らないところであれこれ動いているみたいね」
ため息混じりに紅が告げる。そして苦笑して続けた。
「――あたしの使命は〝フレイムブラッド〟の力を欲する者の手助けをすることだから、呼ばれたら断れないでしょうね」
「アメリカに渡るのもやむなしだと言うのか?」
あまりにもあっさりと言うので、思わず抜折羅は確認する。
「だって仕方がないじゃない。それに抜折羅の仕事が片付くまでは、その方が好都合でしょ?」
紅の意見を否定できない。妙な葛藤があって、受け入れたい気持ちと退けたい気持ちがせめぎ合っている。紅を本社に取られないために今できる手っ取り早い確実な方法は、抜折羅の使命である〝ホープ〟の回収を終えることに他ならない。
「うっ……さり気なくプレッシャーをかけてきたな……」
「だけど、紅ちゃんの夢はどうするんだい?」
左側に座る紅を見ながら、遊輝が問う。紅の夢はジュエリーデザイナーになることだ。そのために様々な努力をしていることを抜折羅は知っているし、遊輝も部活動を通して見てきたのだろう。
紅は余所行きの笑顔を浮かべていた。諦めが少し混じった、良い子を演じているときに見せる建前の表情。
「夢は叶えたいけど、急ぎじゃないもの。人生経験が活きることもあるんじゃないかしら?」
そんな紅を見ていると、抜折羅は忠告せずにはいられない。自分の説明不足が原因で想像できないのだろうとしても、楽観視しすぎている。
「紅、気安く言ってくれるな。甘く見てるとえらい目に遭うぞ。俺はタリスマンオーダー社の人間ではあるが、あの組織のやり方には反対しているんだ」
きっぱり告げると、右隣から鋭い視線を感じる。陽太が睨んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』
月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。
飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる