宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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血玉髄は太陽を追って

★6★ 10月11日金曜日、放課後

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 午後五時過ぎ。
 将人まさとを置いて、一同は星章せいしょう邸にやってきた。蒼衣あおいに案内されて食堂に通される。まだ明るいうちにここに来るのは抜折羅ばさらは初めてだ。
 何十人も一度に入れそうな広い食堂。大きな窓の向こうには手入れがされたイングリッシュガーデンが広がっている。まるでリゾート地のペンションにいるかのような光景だ。
 真っ白なクロスが掛けられた長机にそれぞれがついたところで、蒼衣が切り出した。

「星章家が潰されると困るというのは?」

 早速の陽太ようたへの問い。どんな意図があるのか気になるのだろう。

「日本支部の資金を星章家にまかなっていただきたくて。その方が、お互いラクでしょ? 元々、タリスマンオーダー社が日本支部を置かなかったのは、出水いずみ千晶ちあき様がいたからなんだし。出水派の星章家がバックにつくなら、オレの向日むこう家は本社の支援に撤して、日本支部には口を出さないよ」

 交渉の態度というよりは雑談の延長のような口振りで陽太が説明する。現状としては互いに決定権を持っているわけではないのだから、この話題は将来的な根回しという位置付けにすぎないのだ。

「なるほど。――向日家は世界展開している輸入雑貨店の経営者でしたね。タリスマンオーダー社の支援をしているとの話は伺っておりますよ」

 外交用の笑顔で蒼衣が告げ、さらに続ける。

「ですが、それはそちらの都合でしょう? わざわざタリスマンオーダー社の日本支部としなくても、星章家には宝杖学院があります。出水家だって、現役なのです。あちらの顔は立てなくて良いんですか?」

 ――まぁ、そう返すのは想定の範囲内だよな。

 抜折羅は右隣に座る陽太の反応を窺う。

「後継者問題を抱えているところはどーでもいいんだよ。山梨から出て来るつもりがあれば、検討の余地があるけど。そう考えると、まだ都内である八王子の方が、立地として便利じゃん?」

 山梨県は抜折羅の出身県でもある。交通の便が悪いという意見はわからないでもない。

「――それは、タリスマンオーダー社の意向ですか?」

 蒼衣の視線が陽太から抜折羅に移った。渋々応じる。

「俺個人の考えです。説得に一週間掛かりました」
「貴方は面白いことをしますね」

 ふっと小さく蒼衣が笑う。意外に感じられたようだ。
 抜折羅は続ける。

「ホープの呪いが解けたら、タリスマンオーダー社から出るつもりでいるので。その準備といったところですよ」

 これは建前ではなく、本音だ。蒼衣の隣に座っているこうが驚いた顔をしていた。
 抜折羅が素直に答えると、陽太が間に入る。

「女のために仕事辞めるとか言うんだよ、コイツ。改心するよう、説得してくれません? 次期社長の可能性もあるのに、それすら捨てるって、おかしいでしょ」

 親指で指しながら言ってくるので、抜折羅は右手でそれを下げさせて返す。

「俺は静かに慎ましく生きていきたいだけだ。――一応、先輩方には言っておきますが、タリスマンオーダー社は紅を引き入れたがっています。浄化系能力は需要がある、手元に置きたいと思うのは当然でしょう。また、紅が出水千晶の孫であることも影響しています。放置しておく訳がない」

 抜折羅の補足に、しばらく黙って傍観しているふうだった遊輝ゆうきが反応した。

「それってさ、日本に支部を立てなかったら、アメリカに連れて行くってことかい?」
「そうなります。俺の意志とは無関係に。――紅を巻き込みたくないんだ」

 遊輝ならわかってくれるだろうと、なんとなく思えた。恋愛感情を抜きにしても、紅のそばにいることにメリットを感じている遊輝であれば、きっとその未来は望まないはずだ。

「なんというか、あたしの知らないところであれこれ動いているみたいね」

 ため息混じりに紅が告げる。そして苦笑して続けた。

「――あたしの使命は〝フレイムブラッド〟の力を欲する者の手助けをすることだから、呼ばれたら断れないでしょうね」
「アメリカに渡るのもやむなしだと言うのか?」

 あまりにもあっさりと言うので、思わず抜折羅は確認する。

「だって仕方がないじゃない。それに抜折羅の仕事が片付くまでは、その方が好都合でしょ?」

 紅の意見を否定できない。妙な葛藤があって、受け入れたい気持ちと退けたい気持ちがせめぎ合っている。紅を本社に取られないために今できる手っ取り早い確実な方法は、抜折羅の使命である〝ホープ〟の回収を終えることに他ならない。

「うっ……さり気なくプレッシャーをかけてきたな……」
「だけど、紅ちゃんの夢はどうするんだい?」

 左側に座る紅を見ながら、遊輝が問う。紅の夢はジュエリーデザイナーになることだ。そのために様々な努力をしていることを抜折羅は知っているし、遊輝も部活動を通して見てきたのだろう。
 紅は余所行きの笑顔を浮かべていた。諦めが少し混じった、良い子を演じているときに見せる建前の表情。

「夢は叶えたいけど、急ぎじゃないもの。人生経験が活きることもあるんじゃないかしら?」

 そんな紅を見ていると、抜折羅は忠告せずにはいられない。自分の説明不足が原因で想像できないのだろうとしても、楽観視しすぎている。

「紅、気安く言ってくれるな。甘く見てるとえらい目に遭うぞ。俺はタリスマンオーダー社の人間ではあるが、あの組織のやり方には反対しているんだ」

 きっぱり告げると、右隣から鋭い視線を感じる。陽太が睨んでいた。
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