宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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血玉髄は太陽を追って

★7★ 10月11日金曜日、放課後

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「オレの前でよくそんな批判を言えるね、君」
沙織さおり姉ちゃんの件を俺がどう思っているか、お前は知っているだろっ!?」

 本当の姉のように慕っていた赤縞あかしま沙織に、タリスマンオーダー社が何と言って実験に誘ったのか――抜折羅ばさらはそれを思い出す。その実験の話を知ってから、タリスマンオーダー社にずっと疑念を抱いているのだ。

「――それに、お前もなんだぞ、ヨータ。俺はまだ納得していない」

 ふっと湧き上がってきた怒りで、語気が荒くなってしまう。過剰反応だと自身の冷静な部分では思うが、制御できない。
 対して陽太ようたは冷ややかな、落ち着いた表情のままだった。

「〝石憑いしつき〟になることを望んだのは赤縞の姉御もオレも同じだ。君は無理やりそうしたと思い込んでいるみたいだが――」
「誘導していたのは事実だろ? こんなことのために力を欲するなんて、俺はやっぱり納得できないし、理解できない」

 口論になりそうな空気になってきたところで、にわかに外が騒がしくなる。乱暴に開け放たれた扉から部屋に入ってきたのは将人まさとだった。

「決着はまだついてないぞ! 逃げる気か、蒼衣あおいにい」

 人差し指を向けて挑発する将人に、蒼衣はやれやれといった様子で立ち上がる。

「ひとまず延期にしませんか? 益のない話だと思いますが」
「っんだと!?」

 将人は殴りかかってきてもおかしくはない剣幕だ。だがなおも蒼衣は落ち着いて笑顔を作る。

「それに、婚約しているのは事実で、覆すだけの方策は貴方にはないでしょうよ?」
「うるせーっ! あんたを亡き者にすれば、強制的に婚約破棄になるだろ。おれには勝負を挑む権利がある」

 ペンジュラムを構える将人。
 一触即発となりそうな空気を、遊輝ゆうきが立ち上がることで変えた。

「ねぇ、黒曜こくようくん。それって、本当に君の意志?」

 何かを悟ったらしい。探るような眼差しが将人に向けられる。

「外野はすっこんでろ」
「そう冷たいことを言わないでよ」

 答え、そして瞬きをしている間に、遊輝は将人との距離を一気に詰めた。魔性石の能力を使って身体機能を極限まで高め、移動したのだ。
 将人の握る黒い石に細い指先でそっと触れて、遊輝は不敵に笑む。

「その〝ダークスピア〟を君に贈ったのって、出水いずみ家の人間じゃないかい?」

 表情に変化があった。予期せぬ事態らしく、攻撃も仕掛けてこない。
 警戒したまま黙り込む将人に、遊輝は口の端をきゅっと上げた。

「ふーん。やっと話が見えてきたよ」

 預からせてもらうよ――と告げて、遊輝は将人から黒い魔性石のペンジュラムをさっと奪う。手際が良く鮮やかだ。盗んだり奪ったりすることに慣れているように見えるあたり、やはり腕の良い怪盗なのだろう。

「どういうことですか? 白浪しらなみ先輩」

 席に戻ってくる遊輝に、こうが問う。

「そうだねぇ。どうも紅ちゃんを巡って、出水いずみ本家も動き出したってことなんじゃないのかな。なんかタイミングを計ったみたいな感じがして、気持ち悪かったんだよねー。僕と抜折羅くんがいない間に仕掛けてくるなんてさ、いかにもって感じじゃない。〝氷雪の精霊〟の存在も、出水本家からの情報であれば、それなりに説明がつくでしょ?」
「ぐっ……」

 遊輝がちらりと見やって指摘すると、将人は顔色を曇らせて唇を堅く結ぶ。

「出水家も後継者には悩まされているんだっけ?」

 将人が口を割りそうにないので、遊輝が陽太を見て問う。

「あぁ、そのはず。婚約者が駆け落ちして逃げられた、とかでさ。あそこの双子、それがきっかけで不穏なムードだそうだ」

 くだらないという気持ちが如実に現れた口調で陽太が答える。

「――となると、閣下を潰して、タリスマントーカーとしての才能ある紅ちゃんをめとろうって魂胆なのかな」

 遊輝の推理に、蒼衣が反応した。

「馬鹿な。紅の子を出水の養子なり婚約者にする話はありましたが――」
「って、なんであたしの知らないところでそういう話が進んでいるのよ。あたしに人権はないわけ?」

 当事者のはずなのに何も知らされていなかったらしい。紅の笑顔が引きつっている。

「ふふっ、こうなったら紅ちゃん、僕と一緒に駆け落ちするかい?」

 すっと紅の右手を取って誘惑する遊輝に、紅はその手を軽く払って抜折羅を見る。

「行くなら、抜折羅とアメリカに行きますよ」
「来なくていい、むしろ来るな」

 その一連のやり取りに、陽太が声を立てて笑った。

「君たち、想像以上に愉快な連中だね。本当に火群ほむらちゃんを取り合っているのか」
「外野は黙っていて下さい」

 馴れ馴れしく触ろうとしてくる遊輝を軽くあしらいながら、紅がムスッとした顔で陽太を睨む。

「オレはバサラが仕事を続けてくれればそれで良いんだけどね。そのために火群ほむらちゃんが必要なら、協力する用意はあるぜ?」

 陽太から話が振られてきた。抜折羅は頭痛を覚える。

「あーくそっ。紅、まずはお前のトラブル体質をどうにかしろっ! 面倒みきれんっ!」
「どうにかできるものならそうしたいわよっ!」

 ――そりゃそうだ。

 対策ができるなら取っている。本来ならトラブルを寄せ付けないはずのスタールビーの魔性石と契約していてこの調子なのだ。おそらく回避不能なのだろう。
 そこまで考えて、抜折羅は一つ思いついた。顔を将人に向ける。

「将人とか言ったな。星章先輩と勝負がしたいなら、俺に案がある」
「なんだ?」

 訝しげな顔をされた。だが、敵対心は薄い。
 抜折羅は続ける。

「宝石知識テストに参加すればいい。ハンデも兼ねて、試験問題は英文だ。解答も英文とする。――星章先輩と白浪先輩での勝負ではあったんだが、やってみないか?」

 ――果たしてこの提案に乗ってくるだろうか。

 結論は将人の表情を見ればすぐにわかった。

 ――決まりだな。

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