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面倒ごとは金剛石の隣で【第2部完結】

★9★ 10月14日月曜日、15時過ぎ

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 エキセシオルビルに到着し部屋に戻ると、抜折羅ばさらは真っ先に預かっていた封筒を引っ張り出した。それを持って、こうを待たせている事務所側の部屋に入る。

「これ、開けさせてもらうぞ?」

 真っ白な封筒をひらひらさせて紅に見せると、彼女はソファーから勢いよく立ち上がった。

「いや、ちょっと待って!」
「なんだよ、往生際おうじょうぎわの悪いヤツだな」

 手を伸ばされたので、抜折羅はさっと腕を伸ばし、封筒を上げて回避した。彼女の恨めしがる上目遣いの表情を見てしまうと、なんとなくまたやってみたく思ってしまう。正直なところ、こういう彼女の反応を見るのは楽しい。

「往生際が悪いって、ねぇ……それを開けるってことは、あたし、将人まさとには勝てたってことで良いのよね?」

 封筒を奪うのを諦めたらしい。紅はふてくされた様子で問いかけてきた。

「たったの一問差だったけどな。紅が90問正解で、黒曜こくようが89問だった。とは言え、彼は雑なところがあるみたいだから、知識はおそらく紅より勝っているのだろう。今回の出題形式に感謝して、さらなる努力を惜しまないことだな」

 採点していて感じたのは、将人はケアレスミスが多いということだ。スペルミスが最も多く、続いて複数解答が必要なのに足りないという間違いが目立った。問題を解こうという姿勢は充分に評価できるが、雑でせっかちな性格が災いしているのが見て取れる。
 一方、紅は覚えている範囲をかなり正確に解答しているように見えた。わからないと思った問題は潔くスキップしたらしく、解答欄は飛び飛びに埋まる。得意分野と不得意分野をきっちり捉えていることが、彼女が答えた問題にかなりの偏りがあることから窺えた。まだまだ勉強が必要そうだ。

「う……そうね。精進するわ」
「ところで、紅。俺は褒美に願いを叶えてやると言ったはずなんだが、どうして罰ゲームを受けるみたいな顔をする?」

 なんだか不服そうな顔をしている。書いた直後も恥ずかしがっていたように抜折羅は思う。何が彼女をそうさせるのだろう。

「書いたは良いけど、照れくさくなったのよ。――いいわよ、もう開けてくれて」

 さっさとそうしろと、紅はジェスチャーで示す。
 抜折羅は首を傾げながらも、言われた通りに封を切った。中に入っている綺麗に折り畳まれたコピー用紙を慎重に取り出して、ゆっくりと広げる。

「……ん?」

 紅の文字だ。大きめではっきりとした丸っこい文字を、抜折羅は視線でなぞる。

「――そんなものが欲しいのか?」

 紙から顔を上げて、紅を見る。彼女は頬を赤く染めて小さく頷いた。
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