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面倒ごとは金剛石の隣で【第2部完結】
★11★ 10月14日月曜日、15時過ぎ【第2部完結】
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唇を離すと、顔を真っ赤にした紅が腕の中で見上げていた。彼女の唇が物足りなさそうに動き、台詞を紡ぐ。
「あの……おでこにしてくれるのも嬉しいんだけど、ふつうにキスしてくれてもいいんだよ?」
抑圧している欲望が膨らむのがわかる。それ故に、抜折羅は表に出たがっている本能を即座に理性で封じた。小さく息を吐き出して、紅から視線を外す。
「お前なぁ、俺がどんな気持ちでこうしているのか、ちゃんと想像してくれ。割と本気で押し倒してしまいたいって考えているんだぞ?」
「……そ、それは困る」
いそいそと回していた腕を解き離れようとした紅を、抜折羅は簡単に放したりはしなかった。彼女の腕から伝わる力を失った分だけ腕に込める力を強め、しっかり抱き締める。
「……抜折羅?」
紅を見ると、彼女の瞳には不安と期待が少しずつ含まれているような感じがした。思わず小さく笑ってしまう。
「なんで笑うの?」
不満げな声。彼女は腕から逃れようと身じろぎしていたが、諦めさせるためにさらに力を込めて封じる。
「どうして嫌がらないのかなって思ったら、つい。――そういうところがあるから、白浪先輩に付け入られるんじゃないか?」
指摘して、紅を解放してやった。意地悪なことをしたという自覚はある。だからか、腕の中から彼女の温もりや柔らかい感触が離れていく寂しさが普段以上に強くて、胸が苦しい。
――自業自得なんだが。
「違うもん……抜折羅だけなんだから」
へそを曲げて膨れている彼女も可愛いと思う。色々な表情を見せてくれる紅を眺めているのは、それだけでも充分な幸せを得られた。
「今はその台詞を信じておくよ。――さて、明日の科目は何だったかな?」
「って、あたしを現実という落とし穴に突き落とさないで欲しいんだけど……」
抜折羅としては今のこの雰囲気から逃げたかったのだが、紅はそれよりも明日の中間テストから逃げたかったようだ。テンションが勢いよく下がっていくのが見えて、抜折羅は彼女の前に餌をちらつかせることを思いつく。
「紅? 試験が終わったら、デートするか?」
「デート?」
早速食いついてきた。こうも反応が良いと癖になりそうだ。
「俺だって気晴らしくらいはするんだ。予定がないなら、付き合ってくれないか?」
らしくないことは充分に承知している文句で誘ってみると、紅は不審なものでも見つけたかのような視線を向けてきた。
「な、なんかそういう提案されると、明日台風が直撃してくるんじゃないかって不安になるんだけど……」
「俺はお前の中の金剛抜折羅像がどんなものなのか、色々物申したい気分だ」
――彼女は俺のどこを好きだと言っているんだか……きっと訊かない方が幸せなんだろうな……。
いつかは離れていってしまうのかも知れない――とは思う。それは今生の別れという意味合いではなく、すれ違いの意味で。たまたま今は互いの道が交差して知り合えたが、それだけの意味しか持たないのではないかと考えてしまう。
――恋は麻疹みたいなものだと聞いてはいるが……永遠なんてもの、俺は信じられないし、それが実感として近いか。
熱に浮かされていただけだと気付く日がいつか来るのだろう。冷めた目で、今を振り返る日が来るに違いない。
――でも、だからといって、今の彼女から幸せや喜びを奪って良いわけがないよな。
気持ちをしっかり切り替えて、抜折羅は紅に告げた。
「――デートの件はひとまず保留にして、試験勉強を始めないとな。追試になったら、デートどころじゃなくなるし」
「確かにその通りね。やれるだけの努力はしないと」
気合いを新たに、勉強に取り掛かる。まだまだ乗り越えねばならない課題はたくさんあるが、一つずつ乗り越えていけばそれで良い――抜折羅は紅の楽しげな横顔を見ながら、そんなことを思うのだった。
(第八章 面倒ごとは金剛石の隣で 完)
「あの……おでこにしてくれるのも嬉しいんだけど、ふつうにキスしてくれてもいいんだよ?」
抑圧している欲望が膨らむのがわかる。それ故に、抜折羅は表に出たがっている本能を即座に理性で封じた。小さく息を吐き出して、紅から視線を外す。
「お前なぁ、俺がどんな気持ちでこうしているのか、ちゃんと想像してくれ。割と本気で押し倒してしまいたいって考えているんだぞ?」
「……そ、それは困る」
いそいそと回していた腕を解き離れようとした紅を、抜折羅は簡単に放したりはしなかった。彼女の腕から伝わる力を失った分だけ腕に込める力を強め、しっかり抱き締める。
「……抜折羅?」
紅を見ると、彼女の瞳には不安と期待が少しずつ含まれているような感じがした。思わず小さく笑ってしまう。
「なんで笑うの?」
不満げな声。彼女は腕から逃れようと身じろぎしていたが、諦めさせるためにさらに力を込めて封じる。
「どうして嫌がらないのかなって思ったら、つい。――そういうところがあるから、白浪先輩に付け入られるんじゃないか?」
指摘して、紅を解放してやった。意地悪なことをしたという自覚はある。だからか、腕の中から彼女の温もりや柔らかい感触が離れていく寂しさが普段以上に強くて、胸が苦しい。
――自業自得なんだが。
「違うもん……抜折羅だけなんだから」
へそを曲げて膨れている彼女も可愛いと思う。色々な表情を見せてくれる紅を眺めているのは、それだけでも充分な幸せを得られた。
「今はその台詞を信じておくよ。――さて、明日の科目は何だったかな?」
「って、あたしを現実という落とし穴に突き落とさないで欲しいんだけど……」
抜折羅としては今のこの雰囲気から逃げたかったのだが、紅はそれよりも明日の中間テストから逃げたかったようだ。テンションが勢いよく下がっていくのが見えて、抜折羅は彼女の前に餌をちらつかせることを思いつく。
「紅? 試験が終わったら、デートするか?」
「デート?」
早速食いついてきた。こうも反応が良いと癖になりそうだ。
「俺だって気晴らしくらいはするんだ。予定がないなら、付き合ってくれないか?」
らしくないことは充分に承知している文句で誘ってみると、紅は不審なものでも見つけたかのような視線を向けてきた。
「な、なんかそういう提案されると、明日台風が直撃してくるんじゃないかって不安になるんだけど……」
「俺はお前の中の金剛抜折羅像がどんなものなのか、色々物申したい気分だ」
――彼女は俺のどこを好きだと言っているんだか……きっと訊かない方が幸せなんだろうな……。
いつかは離れていってしまうのかも知れない――とは思う。それは今生の別れという意味合いではなく、すれ違いの意味で。たまたま今は互いの道が交差して知り合えたが、それだけの意味しか持たないのではないかと考えてしまう。
――恋は麻疹みたいなものだと聞いてはいるが……永遠なんてもの、俺は信じられないし、それが実感として近いか。
熱に浮かされていただけだと気付く日がいつか来るのだろう。冷めた目で、今を振り返る日が来るに違いない。
――でも、だからといって、今の彼女から幸せや喜びを奪って良いわけがないよな。
気持ちをしっかり切り替えて、抜折羅は紅に告げた。
「――デートの件はひとまず保留にして、試験勉強を始めないとな。追試になったら、デートどころじゃなくなるし」
「確かにその通りね。やれるだけの努力はしないと」
気合いを新たに、勉強に取り掛かる。まだまだ乗り越えねばならない課題はたくさんあるが、一つずつ乗り越えていけばそれで良い――抜折羅は紅の楽しげな横顔を見ながら、そんなことを思うのだった。
(第八章 面倒ごとは金剛石の隣で 完)
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