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【番外編】ルビーという名の特効薬で

*1* 10月18日金曜日、朝

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 十月十八日金曜日、朝のホームルームが始まる少し前。火群ほむらこうは窓際の列の後ろから二番目にある自分の席で窓の外をぼんやり眺めていた。

 ――今回の試験は抜折羅ばさらがいてくれたおかげで、手応えはあるのよねー。遅刻で追試ってことにもならなかったし、今週末くらいはゆっくりするぞー!

 昨日で中間テストを終え、今日の授業が終わればのんびりと土日を過ごすことができる。普段なら試験後は憂鬱だが、今回は達成感があるおかげで気分が良い。

 ――それに、抜折羅とデートだし。

 紅は口元が緩んだのに気付いて、すぐにキュッと口を結ぶ。締まりのない顔をしていては、周りから何を言われるかわからない。
 悟られないように気にしながらデートの約束のことを考えていると、ちょうど登校してきたばかりらしい長月ながつきひかりに肩を叩かれた。顔を彼女に向けた途端に、のぞき込むように顔を近付けられる。

「紅ちゃんにお客さんですよ」

 二人の間でしか聞こえないような小声で光は告げる。

「あたしに?」

 彼女の手入れが行き届いたおかっぱ髪の背後に見える廊下には、誰かが待っているような気配はない。

「東階段の屋上入口で待っています」
「誰が?」

 なんとなく、嫌な予感がする。親友がメッセンジャー役を引き受けるような相手を警戒するのもどうかと思うのだが、ここのところの厄介ごとを思い返すに、注意するのにこしたことはない。

「行ってみてからのお楽しみですわ」

 大和美人といった雰囲気の光が、意味深長な微笑みを浮かべている。

「……東階段の屋上入口、ね。わかったわ」

 気が乗らないが、早めに出なければホームルームが始まってしまう。紅はしぶしぶ立ち上がり、スマートフォンだけブレザージャケットのポケットに突っ込む。ついでに真後ろの席に視線を移した。普段であればこの時間までには抜折羅が来ているはずなのだが、今日はまだ見かけていなかった。

 ――昨日会ったときは、なんか気怠そうにしていたけど、どうかしたのかしら?

 抜折羅のことを気に掛けながら、紅は一年A組の教室を出た。


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