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【番外編】必要なのは夢魔を祓う石(R-15)
★7★ 12月7日土曜日、朝
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「う……じゃあ、ベッドから遠い場所にしまっておけば解決する?」
対処としては一番簡単な方法を紅が訊いてくる。表情が曇っているのは、本当に困っているからだろう。
抜折羅は首を横に振る。
「どうかな。同じ部屋の中だと、あまり期待できないかもしれん」
「あぁっ!! どうしたら良いっていうのよ!? 今晩もあんな夢を見たら、試験勉強どころじゃなくなるっ!!」
頭を抱えてうなだれる。可哀想な気がしてきたが、からかいたい衝動は抑えられない。
「徹夜で勉強して、あえて寝ないのはどうだ?」
「抜折羅、冷たい……」
恨めしそうな目で見つめられてしまった。
「だったら――いや、これは黙っておくか」
ウチに来るか――と言いかけてやめる。
《浄化》を得意とする水晶の結晶の集合体、クラスターが大量に置いてある抜折羅の部屋であれば、他の石の効能を抑えることができるだろう。だが、それには抜折羅側に問題があった。
――紅が見た夢を現実にしかねないよな……。いつでも衝動を抑え込めるとは限らんし。
可能性の芽は、できるだけ摘んでおくに限る。わざわざ自分からそんな危険に足を踏み入れる必要はない。
小さく咳払い。気を取り直して続ける。
「冗談はさておき、解決策くらいはある。安心しろ」
「欲求不満の解消と称してあたしに手を出したら殴るわよ? 平手打ちじゃなく、グーで」
今にも殴られそうな口調である。目が本気であり、添えられた拳がリアルだ。
「恋人を殴るな」
すぐさま返す。付き合い出す前に、色々な手違いから彼女に平手打ちを食らっているのだが、正直、あれはかなり効く。自分に非があっても、次は受けたくない。
「それに、俺は白浪先輩じゃないんだから、そういうことを期待されても困る」
白浪遊輝なら、まず間違いなく便乗して迫るのだろう。簡単に想像がつく。あれはそういう男だ。
「わかっているわよ。念のためなんだからねっ」
――念のためで殴られそうになってなかったか、俺……。
議論したいところだが、ここは円満に話を進めるためにそっとしておこう。
「解決策というのは単純な話だ。石の力に惑わされているのなら、それを正しい方向に導いてやればいい」
「と、言うと?」
「《夢魔を払う》石がある。そういう類の夢なら、効果を期待できるだろうよ」
「夢魔ね……」
何か言いたげだが、触れると面倒そうなので突っ込まないでおく。気付かなかった振りをするために、抜折羅は補足を入れることにする。
「昔の人は悪夢から逃れるために石の力を借りたんだ。《夢魔を払う》《悪夢を退ける》などの効果を持つとされる石は様々なんだが、俺がお前に合いそうなものを見繕ってやるよ。昨日調べた感じだと、結構売っていそうだし」
「ん? 選んでくれるの?」
紅が不思議そうな顔をしている。それを見て、まだ目的地を彼女に伝えていないことを思い出した。
「あぁ、勿論。買って、プレゼントするよ。クリスマスには少し早いけど、すぐに必要だろう?」
彼女の瞳がキラキラ輝いた。喜んでくれているようだ。
「嬉しい! 本当に良いの?」
「お前のヘアピンほど高価な物は買えないけどな。――クリスマスは向こうに帰らなきゃならないから、今日は前倒しのつもりで誘ったんだよ。一緒に過ごしてやれない詫びも含んでいる。遠慮するな」
ワシントンにある本社に顔を出せと、社長から直々に電話があった以上、帰るしかない。クリスマスは家族で過ごすのが、社長であり抜折羅の養母である彼女の方針だ。だから、完全に独り立ちできるようになるまでは付き合うと決めていた。
「へぇっ……なんだか普通のデートみたい」
「行き先が東京ミネラルショーだから、普通のデートとは少し違うだろうけどな」
彼女が楽しめるかどうかは未知数である。一般的なデートとは異なるだろうことはわかっているつもりだが、映画を見たりショッピングをしたり食事をしたりという行為に面白みを見いだせなかった彼なりのデートコースなのは確かだ。
――あとは、いかに彼女の気分を盛り上げるか、だな。
今日のための仕込みは、思い付いた先月から始まっている。紅の悪夢の話題で道が逸れかかったものの、まだまだ気合いは充分だ。
「ふふっ。楽しみにしてる」
答えて、紅は自分の右手を抜折羅の左手に重ねた。気持ちを掴むことはできたのだろうと、抜折羅はほっとする。
もうすぐ池袋。目的地が迫っている。
対処としては一番簡単な方法を紅が訊いてくる。表情が曇っているのは、本当に困っているからだろう。
抜折羅は首を横に振る。
「どうかな。同じ部屋の中だと、あまり期待できないかもしれん」
「あぁっ!! どうしたら良いっていうのよ!? 今晩もあんな夢を見たら、試験勉強どころじゃなくなるっ!!」
頭を抱えてうなだれる。可哀想な気がしてきたが、からかいたい衝動は抑えられない。
「徹夜で勉強して、あえて寝ないのはどうだ?」
「抜折羅、冷たい……」
恨めしそうな目で見つめられてしまった。
「だったら――いや、これは黙っておくか」
ウチに来るか――と言いかけてやめる。
《浄化》を得意とする水晶の結晶の集合体、クラスターが大量に置いてある抜折羅の部屋であれば、他の石の効能を抑えることができるだろう。だが、それには抜折羅側に問題があった。
――紅が見た夢を現実にしかねないよな……。いつでも衝動を抑え込めるとは限らんし。
可能性の芽は、できるだけ摘んでおくに限る。わざわざ自分からそんな危険に足を踏み入れる必要はない。
小さく咳払い。気を取り直して続ける。
「冗談はさておき、解決策くらいはある。安心しろ」
「欲求不満の解消と称してあたしに手を出したら殴るわよ? 平手打ちじゃなく、グーで」
今にも殴られそうな口調である。目が本気であり、添えられた拳がリアルだ。
「恋人を殴るな」
すぐさま返す。付き合い出す前に、色々な手違いから彼女に平手打ちを食らっているのだが、正直、あれはかなり効く。自分に非があっても、次は受けたくない。
「それに、俺は白浪先輩じゃないんだから、そういうことを期待されても困る」
白浪遊輝なら、まず間違いなく便乗して迫るのだろう。簡単に想像がつく。あれはそういう男だ。
「わかっているわよ。念のためなんだからねっ」
――念のためで殴られそうになってなかったか、俺……。
議論したいところだが、ここは円満に話を進めるためにそっとしておこう。
「解決策というのは単純な話だ。石の力に惑わされているのなら、それを正しい方向に導いてやればいい」
「と、言うと?」
「《夢魔を払う》石がある。そういう類の夢なら、効果を期待できるだろうよ」
「夢魔ね……」
何か言いたげだが、触れると面倒そうなので突っ込まないでおく。気付かなかった振りをするために、抜折羅は補足を入れることにする。
「昔の人は悪夢から逃れるために石の力を借りたんだ。《夢魔を払う》《悪夢を退ける》などの効果を持つとされる石は様々なんだが、俺がお前に合いそうなものを見繕ってやるよ。昨日調べた感じだと、結構売っていそうだし」
「ん? 選んでくれるの?」
紅が不思議そうな顔をしている。それを見て、まだ目的地を彼女に伝えていないことを思い出した。
「あぁ、勿論。買って、プレゼントするよ。クリスマスには少し早いけど、すぐに必要だろう?」
彼女の瞳がキラキラ輝いた。喜んでくれているようだ。
「嬉しい! 本当に良いの?」
「お前のヘアピンほど高価な物は買えないけどな。――クリスマスは向こうに帰らなきゃならないから、今日は前倒しのつもりで誘ったんだよ。一緒に過ごしてやれない詫びも含んでいる。遠慮するな」
ワシントンにある本社に顔を出せと、社長から直々に電話があった以上、帰るしかない。クリスマスは家族で過ごすのが、社長であり抜折羅の養母である彼女の方針だ。だから、完全に独り立ちできるようになるまでは付き合うと決めていた。
「へぇっ……なんだか普通のデートみたい」
「行き先が東京ミネラルショーだから、普通のデートとは少し違うだろうけどな」
彼女が楽しめるかどうかは未知数である。一般的なデートとは異なるだろうことはわかっているつもりだが、映画を見たりショッピングをしたり食事をしたりという行為に面白みを見いだせなかった彼なりのデートコースなのは確かだ。
――あとは、いかに彼女の気分を盛り上げるか、だな。
今日のための仕込みは、思い付いた先月から始まっている。紅の悪夢の話題で道が逸れかかったものの、まだまだ気合いは充分だ。
「ふふっ。楽しみにしてる」
答えて、紅は自分の右手を抜折羅の左手に重ねた。気持ちを掴むことはできたのだろうと、抜折羅はほっとする。
もうすぐ池袋。目的地が迫っている。
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