宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】必要なのは夢魔を祓う石(R-15)

★8★ 12月7日土曜日、午前

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 女性のエスコートの仕方くらい覚えなさい――養子として迎えられたウィストン家の執事トパーズから叱られたのはつい最近の話である。
 言われたとき、抜折羅ばさらとしては色々と物申したい気持ちでいっぱいだった。だが、過去や現状がどうであれ、彼の文句については将来的に必要なスキルだと感じられたので、素直に耳を傾けることにした。ホープの呪いを気にして知人や友人を作るのを避けていた抜折羅には、女性の扱い方について尋ねられるような人物が身近にいなかったのだ。

「結構、盛況なのね」

 小豆色のピーコートに赤いチェックのプリーツスカート、黒いタイツにロングブーツを合わせた少女、こうが振り向きながら告げる。入場券を買うために少し並び、会場に足を踏み入れたところだ。土曜日の朝、開場してすぐの時間でも、たくさんのブースが並ぶ会場は賑わいを見せていた。

「だな。最近は鉱物こうぶつ蒐集しゅうしゅうをするような人以外も立ち寄るみたいだし。例えば、天然石ビーズを目的として訪れる女性客、とか」

 抜折羅は一つのブースを指す。色とりどりの小さな石が糸に通された状態で売られていた。石の種類や大きさは様々で、壁に吊されて展示されている様はキラキラ輝く暖簾のれんのようだ。

「アクセサリーなども手頃な値段で販売している。何か気になる物があったら、俺に訊くといい」
「はーい」

 紅は楽しげに長机に並べられた石の標本や置物を見ている。地学部に所属していることもあり、それなりに興味があるのだろう。

「……ずいぶんと色々な物が売っているのね。地学準備室で見せてもらったような化石標本もあるし」

 化石やら隕石やらを見たのちに、紅が呟く。フロアの半分は見終えたが、まだ上にも会場はあるのですぐには全部を回れない規模であることはわかるだろう。

「それに、日本国内で産出される石なんかも意外とあるのね」
「宝飾品になるものは限られているが、標本にする程度のものなら出るからな」

 日本でも石によっては世界に輸出していた時代もあるのだが、今は盛んではない。海外と比べて、良質な石を大量に得ることが難しいという理由で廃れたものもある。また、時代のニーズなども変わるので、市場に出回る量自体にも波がある。彼女が驚くのも無理はない。

「あ、なんか見慣れた感じ」

 沢山の尖った結晶が密集して形作られた水晶のクラスターが並ぶ辺りで、紅が立ち止まる。机には大小様々な大きさのクラスターが置かれていた。

「おや、君は昨日の」

 四十代半ばくらいの年齢の男性店員が、こちらに気付いて声を掛けてきた。初日だった昨日、この店で買い物をしたのだ。

「どうも」
「今日はカノジョさんとデートかい?」
「えぇ、まぁ」

 他人からカノジョかと冷やかされると照れくさい。

「また買ってくれたら、オマケしてあげるよ。どうだい、インテリアに一つ。アクセサリー置きにも使えるよ?」

 店員は紅にも勧めてくる。抜折羅は紅の反応を待った。

「うーん……これだって思えるものがないのよね……」

 彼女の瞳にルビー色の光が宿る。魔性石の力を借りているときに現れるものだ。

 ――真剣に選んでいるようだな。

 おそらく、紅が契約している魔性石〝フレイムブラッド〟が彼女の身を案じて力を貸し出しているのだろう。ルビーが持つ《トラブルを避ける》という効能が発動しているものと思われる。

「そっか……それは残念。無理には勧めないよ」

 紅の返事に、店員はあっさりとひいた。

「石には縁というものがあるもんでね、その人が欲しているものだと自然と寄ってくる。不要だと感じたのなら、ここにある石たちはお嬢さんとは縁がないのだろう」

 告げて、にっこりと微笑む。

「ごめんなさい。気になって思い出すことがあったらまた来ますね」

 紅は申し訳なさそうに微笑むと、一礼して歩き出す。抜折羅も店員に一礼すると、彼女を追った。

「あのお店で買い物をしたの?」

 追いついて並ぶなり、抜折羅は問い掛けられた。顔を覗き込むように、上目遣いでこっちを見ている。

「あぁ。気に入ったのがあったんで」

 ちょうど良いサイズと求める品質のものが売っていたのだ。購入リストになかったものとはいえ、こういうものは一期一会。他の人の手に渡る前に即決して買ったのである。

「ふぅん……。お仕事用?」

 誰かへのプレゼントではないかと勘ぐっているらしい。彼女の目には疑いの気持ちが混じっている。

「そうだ。同じものを使い続けると《浄化》の力もへばるからな。定期的にセージでいぶして溜まった悪いエナジーを払ってやるが、それにも限界はあるし」
「へぇ……そういうものなんだ」

 目を瞬かせて彼女は興味を示す。疑いは晴れたようだ。

「俺の場合、ホープの力が強すぎて、近くに置いとくとそれを吸っちまうから、余計に消耗が激しいんだ」
「それは面倒ね」
「吸わせているからこそ、日常生活に支障をきたさないのかもしれないけどな」
「むむっ……抜折羅も大変なのね」
「これでも落ち着いたもんさ」

 答えて、抜折羅は肩を小さく竦めた。ホープの呪いの対処方法を知らなかった幼い頃と比べたら、かなり気がラクになったものだ。

「――ところで《夢魔を払う石》って、何の石? 大体の雰囲気は掴めたし、買い物に集中したいんだけど」
「それもそうだな。昼食の時間までには会場を出たいし」

 腕時計を確認すると、十一時半になろうとしている。

 ――予約は十三時だから、まだ余裕はあるか。

 抜折羅は続ける。

「《夢魔を払う石》はムーンストーンやトパーズ辺りが代表的だ。この会場で探すなら、ムーンストーンが見つけやすいだろう。トパーズと比べたら安価だし。それにムーンストーンは女性との相性が良い」

 他にもムーンストーンを彼女に勧める理由があるのだが、抜折羅はあえて言わなかった。

「なるほど……」
「まずは適当なブースに移動だな」

 会場はますます賑わっている。抜折羅はさり気なく紅の手を取った。握り返される彼女の指先は冷たい。

「案内してやるよ」
「うん」

 幸せそうに微笑まれるとなんだか嬉しい。指を絡めるように手を繋ぐと、人混みの中を突き進んだ。
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