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【番外編】必要なのは夢魔を祓う石(R-15)
*12* 12月7日土曜日、昼
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「えー、もう返しちゃうんだ、閣下は」
――この声はっ!?
蒼衣のことを日頃から『閣下』と呼ぶ人物は、おそらく一人しかいない。
背後から聞こえてきたキーの高い声に反応して振り向くと、思った通りの人物がいた。
白いニットキャップ、ふんわりとして暖かそうなベージュのニットカーディガンを身に付けた少年は白浪遊輝だ。今日はトレードマークの艶やかで長い銀髪はニットキャップの中にしまわれているので、少しだけ印象が違って見える。
「知らぬ存ぜぬを貫けば、紅ちゃんを好きにできただろうに」
「私はそのような自作自演など好みません。するならば、もっと強引な手を使って攻めますよ」
つまらなそうに告げる遊輝に、蒼衣はきっぱりと返す。
――勘弁してください、蒼衣兄様……。
苦笑いをしそうになるのを堪えることはできただろうか。
「怒り狂って会場全体に《鎮静の光》を放ちそうな剣幕だったから協力してあげたのに」
「しませんよ」
蒼衣は不機嫌そうだ。
「どうかなぁ。閣下はやりかねないと思うんだけど」
――あたしも同意するわ。
《鎮静の光》はサファイアの効能をもとにした技の名称だ。その技が発動すると、〝石憑き〟は一時的にその能力を奪われ、一般人ならほとんどの場合で失神する。使われたら洒落にならない。
「……って、二人して俺たちをストーキングしていたんですかっ!?」
抜折羅の指摘に、遊輝が首を横に振る。
「まっさかぁ。尾行していたのは閣下だけだよ。僕は魔性石目当てのお買い物ー。まぁ、君たちが来ているのに気付いたあとは、遠くから見物させてもらったけどね」
「いや、それなら同類だろ」
冷静な突っ込みに、遊輝はニコニコしたままだ。
――どうしてこうなった……。
「そーだ。今さらかもしれないけど、誰が見ているかわからないところでイチャイチャするのは得策じゃないよ?」
告げて、抜折羅と繋ぐ手を指で示す。
「良い勉強になったんじゃないかな?」
「ほっといてくださいよ、もう……」
言われても、手は離さない。ぎゅっと握り合う。
「――こんなところに揃いも揃って、試験前だっつーのに頭の良い奴らは余裕だな」
かったるそうな低い声が別のところから聞こえてきた。声の聞こえる方に目をやれば、女性客よりも頭一つ分は優に超えた位置に顔がある大男が目に入る。短髪に鋭い目つきのその少年は、大きな紙袋を持って紅たちに近付いてきた。
「将人……なんであんたまで?」
つい反射的に抜折羅の後ろに隠れる。
黒いフリースのジャケットを着ているこの大男は黒曜将人だ。紅は見た目の恐さを始めとする色々な事情で、将人を見かけるだけで竦んでしまう。蒼衣の次くらいには付き合いの長い幼なじみだが、この反応は物心がついた頃から変わらない。
「ちょっと人使いの荒いヤツからの頼まれごとでな。やっと買い物が済んだから、今から帰るところだ」
――将人に買い物を頼めるような強者がいるんだ……。
かなり意外である。目つきの悪い大男というだけで学校でも避けられがちである彼に、わざわざ頼むとは。その上、将人は面倒くさがりであるため、素直に従うということ自体も珍しい。
「何やってんだか知らんが、邪魔したな。今日中に届けないとうるさいから、もう行く」
知り合いを見掛けたから声を掛けてみただけらしい。すぐに立ち去ろうとする将人を見て、紅はあることを思い出す。
「将人、ちょっと待って」
引き留めて、慌ててポシェットからオブシディアンのペンジュラムを取り出す。
「ん?」
怪訝そうにしている将人に、紅はペンジュラムを載せた手を差し出した。
この黒い石のペンジュラムは将人が使っていた魔性石〝ダークスピア〟だ。秋の始めに起きた事件の最中に紅のところに転がり込んできたのだが、一対一で話しにくい相手だということもあって、返しそびれていたものである。今なら抜折羅も近くにいるので安心だ。
「返すわ」
「いや、それはあんたに預けておく」
不要だということはないはずなのだが、将人は断ってきた。
「でも……」
「おれには〝スノーホワイト〟があるから、特に困ってねぇし」
〝スノーホワイト〟とは、将人が契約をしているオブシディアンの魔性石のことだ。彼はオブシディアンの魔性石を自在に操るセンスを持っている。
紅が手を下げずに突き出したままでいると、将人は何かを思い付いたような顔をして〝ダークスピア〟を大きな指でつついた。
「だったらこうしよう。――もし、紅が蒼衣にいをウザイと感じて始末したくなったら、おれのところにそれを持って来いよ。綺麗さっぱりと片付けてやっから」
蒼衣に聞こえるだけの音量ではっきり告げると、口の端を上げて不敵に笑む。目がぎらついているのを見るに、かなり本気で言っている。将人が蒼衣を敵対視して嫌っているのは昔からなのだが、最近の言動は犯罪ギリギリの空気があって無視できない。
――ある種の脅迫よね……。
紅が返答に困っていると、将人は「んじゃ」と片手を上げて人混みの中に消えてしまう。急いでいるのは本当だったようだ。
――これ、どうしろっていうのよ……。
夢魔の元凶の一つであるオブシディアンが、結局手元に残ってしまった。魔性石であるので、粗末な扱いはできないのに。
紅はしぶしぶペンジュラムをポシェットの中に戻した。今後の扱いは、また別の機会に考えることにしよう。
「――じゃあ、僕たちもこの辺で失礼するよ」
「何をするんですか。私を巻き込まないでください」
嫌がる蒼衣の背を遊輝が強引に押して、紅たちから引き離す。
「もう良いでしょう、閣下。あんまり邪魔すると嫌われますよー?」
「私は貴様とは違うのですっ!!」
「このままストーカーやってたら、限界超えちゃうでしょうよ。適度な距離を保って、冷静にならないと。〝紺青の王〟に身体を乗っ取られても知りませんよ?」
遊輝は蒼衣の文句を適当にいなしながら、紅たちにウインクを飛ばしてくる。早く行きなさい、とのことらしい。デートに横槍を入れた彼なりの罪滅ぼしも含んでいるのかも知れない。
やいのやいのとやっているのを横目に、紅は抜折羅に手を引かれてこの場を離脱したのだった。
――この声はっ!?
蒼衣のことを日頃から『閣下』と呼ぶ人物は、おそらく一人しかいない。
背後から聞こえてきたキーの高い声に反応して振り向くと、思った通りの人物がいた。
白いニットキャップ、ふんわりとして暖かそうなベージュのニットカーディガンを身に付けた少年は白浪遊輝だ。今日はトレードマークの艶やかで長い銀髪はニットキャップの中にしまわれているので、少しだけ印象が違って見える。
「知らぬ存ぜぬを貫けば、紅ちゃんを好きにできただろうに」
「私はそのような自作自演など好みません。するならば、もっと強引な手を使って攻めますよ」
つまらなそうに告げる遊輝に、蒼衣はきっぱりと返す。
――勘弁してください、蒼衣兄様……。
苦笑いをしそうになるのを堪えることはできただろうか。
「怒り狂って会場全体に《鎮静の光》を放ちそうな剣幕だったから協力してあげたのに」
「しませんよ」
蒼衣は不機嫌そうだ。
「どうかなぁ。閣下はやりかねないと思うんだけど」
――あたしも同意するわ。
《鎮静の光》はサファイアの効能をもとにした技の名称だ。その技が発動すると、〝石憑き〟は一時的にその能力を奪われ、一般人ならほとんどの場合で失神する。使われたら洒落にならない。
「……って、二人して俺たちをストーキングしていたんですかっ!?」
抜折羅の指摘に、遊輝が首を横に振る。
「まっさかぁ。尾行していたのは閣下だけだよ。僕は魔性石目当てのお買い物ー。まぁ、君たちが来ているのに気付いたあとは、遠くから見物させてもらったけどね」
「いや、それなら同類だろ」
冷静な突っ込みに、遊輝はニコニコしたままだ。
――どうしてこうなった……。
「そーだ。今さらかもしれないけど、誰が見ているかわからないところでイチャイチャするのは得策じゃないよ?」
告げて、抜折羅と繋ぐ手を指で示す。
「良い勉強になったんじゃないかな?」
「ほっといてくださいよ、もう……」
言われても、手は離さない。ぎゅっと握り合う。
「――こんなところに揃いも揃って、試験前だっつーのに頭の良い奴らは余裕だな」
かったるそうな低い声が別のところから聞こえてきた。声の聞こえる方に目をやれば、女性客よりも頭一つ分は優に超えた位置に顔がある大男が目に入る。短髪に鋭い目つきのその少年は、大きな紙袋を持って紅たちに近付いてきた。
「将人……なんであんたまで?」
つい反射的に抜折羅の後ろに隠れる。
黒いフリースのジャケットを着ているこの大男は黒曜将人だ。紅は見た目の恐さを始めとする色々な事情で、将人を見かけるだけで竦んでしまう。蒼衣の次くらいには付き合いの長い幼なじみだが、この反応は物心がついた頃から変わらない。
「ちょっと人使いの荒いヤツからの頼まれごとでな。やっと買い物が済んだから、今から帰るところだ」
――将人に買い物を頼めるような強者がいるんだ……。
かなり意外である。目つきの悪い大男というだけで学校でも避けられがちである彼に、わざわざ頼むとは。その上、将人は面倒くさがりであるため、素直に従うということ自体も珍しい。
「何やってんだか知らんが、邪魔したな。今日中に届けないとうるさいから、もう行く」
知り合いを見掛けたから声を掛けてみただけらしい。すぐに立ち去ろうとする将人を見て、紅はあることを思い出す。
「将人、ちょっと待って」
引き留めて、慌ててポシェットからオブシディアンのペンジュラムを取り出す。
「ん?」
怪訝そうにしている将人に、紅はペンジュラムを載せた手を差し出した。
この黒い石のペンジュラムは将人が使っていた魔性石〝ダークスピア〟だ。秋の始めに起きた事件の最中に紅のところに転がり込んできたのだが、一対一で話しにくい相手だということもあって、返しそびれていたものである。今なら抜折羅も近くにいるので安心だ。
「返すわ」
「いや、それはあんたに預けておく」
不要だということはないはずなのだが、将人は断ってきた。
「でも……」
「おれには〝スノーホワイト〟があるから、特に困ってねぇし」
〝スノーホワイト〟とは、将人が契約をしているオブシディアンの魔性石のことだ。彼はオブシディアンの魔性石を自在に操るセンスを持っている。
紅が手を下げずに突き出したままでいると、将人は何かを思い付いたような顔をして〝ダークスピア〟を大きな指でつついた。
「だったらこうしよう。――もし、紅が蒼衣にいをウザイと感じて始末したくなったら、おれのところにそれを持って来いよ。綺麗さっぱりと片付けてやっから」
蒼衣に聞こえるだけの音量ではっきり告げると、口の端を上げて不敵に笑む。目がぎらついているのを見るに、かなり本気で言っている。将人が蒼衣を敵対視して嫌っているのは昔からなのだが、最近の言動は犯罪ギリギリの空気があって無視できない。
――ある種の脅迫よね……。
紅が返答に困っていると、将人は「んじゃ」と片手を上げて人混みの中に消えてしまう。急いでいるのは本当だったようだ。
――これ、どうしろっていうのよ……。
夢魔の元凶の一つであるオブシディアンが、結局手元に残ってしまった。魔性石であるので、粗末な扱いはできないのに。
紅はしぶしぶペンジュラムをポシェットの中に戻した。今後の扱いは、また別の機会に考えることにしよう。
「――じゃあ、僕たちもこの辺で失礼するよ」
「何をするんですか。私を巻き込まないでください」
嫌がる蒼衣の背を遊輝が強引に押して、紅たちから引き離す。
「もう良いでしょう、閣下。あんまり邪魔すると嫌われますよー?」
「私は貴様とは違うのですっ!!」
「このままストーカーやってたら、限界超えちゃうでしょうよ。適度な距離を保って、冷静にならないと。〝紺青の王〟に身体を乗っ取られても知りませんよ?」
遊輝は蒼衣の文句を適当にいなしながら、紅たちにウインクを飛ばしてくる。早く行きなさい、とのことらしい。デートに横槍を入れた彼なりの罪滅ぼしも含んでいるのかも知れない。
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