197 / 309
【番外編】不機嫌なブルーサファイア(R-18)
*2*
しおりを挟む
――それに、あたしには好きな人がいるし……。
紅には、異性として意識している人がいる。その人とこの先の人生の苦楽をともにしたいと感じている以上、蒼衣を受け入れるわけにはいかないのだ。
「でも、キスくらいはしていますでしょう?」
青葉に追及されて、紅の肌に朱がさす。
――うっ……つい反応してしまった……。
「うふふ。照れていらっしゃるということは、認めるんですね? あらあら可愛らしいですこと」
「かっ、からかってないで、仕事してくださいよっ! こんな格好でいることだけでも恥ずかしいんですからっ!」
「そうですね。あまりお待たせするのもよろしくありませんものね」
――待たせる……?
誰を待たせるというのだろうか。いつもの手順であれば、ここで採寸と試着、調整用のための仮留めなどをし、終われば帰宅する。昼食をこの屋敷でいただいたときに蒼衣も一緒ではあったが、彼は今日の予定について特に何も言っていなかったはずだ。
――なんか妙に機嫌が良かった気がするけど、それだけだもんねぇ……。
逃げてないで元の位置に戻るようにと手招きする青葉に従って、紅はおとなしく採寸された。定期的にやっているせいで、身体測定は恒例行事。慣れたものである。
「――確かに少々肉付きがよろしくなったようですが、ダイエットを勧める程ではありませんね。むしろ、中学時代が筋肉質過ぎたのだと思いますわ。今の方が女性として魅力的ですよ」
巻き尺を片付けながら、青葉が楽しげに告げる。
「そう? あたしとしては、こんなに脂肪はいらないんですけど」
自分の胸を持ち上げてみる。手のひらにずっしりと重みが伝わった。大好きな体育を本気でやると肩が凝ってしまうのは、この質量の所為だ。もっと小さくても構わない。
中学時代はこんなに胸はなかった。正確には、胸だけではなく、全体的に筋肉で引き締まっていた。陸上部に所属し、朝も夕もずっと運動をするような環境にいたためだ。紅の体質としては、脂肪よりも筋肉がつきやすい。身体が丸みを帯びてきたのは中学三年生の秋に部活をやめてからで、年が変わる頃には現在に近いシルエットになってしまった。ダイエットも考えたが、成長期にするものじゃないと周りに反対されて今に至る。通学に自転車を使っているのが、せめての抵抗だろう。
「需要があるんですから、いらないなんて言うもんじゃありませんよっ!!」
「いや、力説されても……」
紅はハンガーラックに掛かっているドレスに近付く。どれも高そうだ。細かい刺繍が施されているものや、たっぷりと布が重ねられて花のようになっているものもある。
――これにアクセサリー類をつけたら、総額幾らくらいの格好になるのかしら……。
身内しかいないパーティーで使うような金額ではないだろうことは明らかだ。蒼衣は身内だろうと、決して手を抜くような男ではない。
「――ところで、今回は蒼衣様のリクエストはあるんですか?」
たくさん衣装を用意してくれるのは有り難いのだが、実は蒼衣のこだわりが強くて自分の意見は通してもらえない。つまり、彼のお気に入りの一着を選ぶ必要があり、あとのドレスは紅が試着をして楽しむためだけに存在する。
――まぁ、蒼衣兄様のセンスには間違いがないから、お任せしてしまっていいんだけどさ……。
それに、紅がドレスを着るのは蒼衣のためだ。ダンスのパートナーを務めるためには必要な衣装であり、着飾って彼の目を楽しませるのもパーティーに呼んでもらったことに対する礼のようなもの。全部彼が用意してくれるのだから、できるだけ彼のリクエストには応えてあげたい。中流家庭で育つ紅には、あらゆるものを持っている蒼衣に返せるものがない――そう考えているためだ。
「はい。承っておりますよ」
「でしたら、それの調整だけで良いです」
一応、ドレスを一つ一つ見てみたが、しっくりとくるものがなかった。ここにあるような露出過多で派手な印象のイブニングドレスよりも、九月末に行われた蒼衣の誕生日パーティーで着ていたルビー色の光沢があるドレスの方が良い。連続で着るのはあまりよくないために今回は見送ることになるが、機会があればまた着てみたい。そのドレスはやはり蒼衣の趣味で決まったもので、紅のお気に入りなのだ。それに並ぶドレスはここにない。
「あらあら? 本当によろしいのですか?」
紅を着せ替え人形にするつもりでいたらしい青葉が首を傾げた。
「選ぶのも着るのも嫌いじゃないんですけど、今日はあまり気分が乗らなくて。試験勉強を頑張りすぎたのかも」
疲れているのは本当だ。できるなら早く用事を済ませて帰りたい。
「残念ですわ。紅お嬢様に色々なドレスを着せるのを楽しみにしてましたのに。お嬢様はスタイルがよろしいから、目の保養にもなって一石二鳥――コホン」
小さく咳払いを挟んで、青葉は続ける。
「――お似合いのドレスを選ぶのも、私の楽しみなんですが……。紅お嬢様がそう仰るなら、そういたしましょう」
告げると、彼女はテーブルに置かれたケースから何かを取り出して、紅に持ってきた。
紅には、異性として意識している人がいる。その人とこの先の人生の苦楽をともにしたいと感じている以上、蒼衣を受け入れるわけにはいかないのだ。
「でも、キスくらいはしていますでしょう?」
青葉に追及されて、紅の肌に朱がさす。
――うっ……つい反応してしまった……。
「うふふ。照れていらっしゃるということは、認めるんですね? あらあら可愛らしいですこと」
「かっ、からかってないで、仕事してくださいよっ! こんな格好でいることだけでも恥ずかしいんですからっ!」
「そうですね。あまりお待たせするのもよろしくありませんものね」
――待たせる……?
誰を待たせるというのだろうか。いつもの手順であれば、ここで採寸と試着、調整用のための仮留めなどをし、終われば帰宅する。昼食をこの屋敷でいただいたときに蒼衣も一緒ではあったが、彼は今日の予定について特に何も言っていなかったはずだ。
――なんか妙に機嫌が良かった気がするけど、それだけだもんねぇ……。
逃げてないで元の位置に戻るようにと手招きする青葉に従って、紅はおとなしく採寸された。定期的にやっているせいで、身体測定は恒例行事。慣れたものである。
「――確かに少々肉付きがよろしくなったようですが、ダイエットを勧める程ではありませんね。むしろ、中学時代が筋肉質過ぎたのだと思いますわ。今の方が女性として魅力的ですよ」
巻き尺を片付けながら、青葉が楽しげに告げる。
「そう? あたしとしては、こんなに脂肪はいらないんですけど」
自分の胸を持ち上げてみる。手のひらにずっしりと重みが伝わった。大好きな体育を本気でやると肩が凝ってしまうのは、この質量の所為だ。もっと小さくても構わない。
中学時代はこんなに胸はなかった。正確には、胸だけではなく、全体的に筋肉で引き締まっていた。陸上部に所属し、朝も夕もずっと運動をするような環境にいたためだ。紅の体質としては、脂肪よりも筋肉がつきやすい。身体が丸みを帯びてきたのは中学三年生の秋に部活をやめてからで、年が変わる頃には現在に近いシルエットになってしまった。ダイエットも考えたが、成長期にするものじゃないと周りに反対されて今に至る。通学に自転車を使っているのが、せめての抵抗だろう。
「需要があるんですから、いらないなんて言うもんじゃありませんよっ!!」
「いや、力説されても……」
紅はハンガーラックに掛かっているドレスに近付く。どれも高そうだ。細かい刺繍が施されているものや、たっぷりと布が重ねられて花のようになっているものもある。
――これにアクセサリー類をつけたら、総額幾らくらいの格好になるのかしら……。
身内しかいないパーティーで使うような金額ではないだろうことは明らかだ。蒼衣は身内だろうと、決して手を抜くような男ではない。
「――ところで、今回は蒼衣様のリクエストはあるんですか?」
たくさん衣装を用意してくれるのは有り難いのだが、実は蒼衣のこだわりが強くて自分の意見は通してもらえない。つまり、彼のお気に入りの一着を選ぶ必要があり、あとのドレスは紅が試着をして楽しむためだけに存在する。
――まぁ、蒼衣兄様のセンスには間違いがないから、お任せしてしまっていいんだけどさ……。
それに、紅がドレスを着るのは蒼衣のためだ。ダンスのパートナーを務めるためには必要な衣装であり、着飾って彼の目を楽しませるのもパーティーに呼んでもらったことに対する礼のようなもの。全部彼が用意してくれるのだから、できるだけ彼のリクエストには応えてあげたい。中流家庭で育つ紅には、あらゆるものを持っている蒼衣に返せるものがない――そう考えているためだ。
「はい。承っておりますよ」
「でしたら、それの調整だけで良いです」
一応、ドレスを一つ一つ見てみたが、しっくりとくるものがなかった。ここにあるような露出過多で派手な印象のイブニングドレスよりも、九月末に行われた蒼衣の誕生日パーティーで着ていたルビー色の光沢があるドレスの方が良い。連続で着るのはあまりよくないために今回は見送ることになるが、機会があればまた着てみたい。そのドレスはやはり蒼衣の趣味で決まったもので、紅のお気に入りなのだ。それに並ぶドレスはここにない。
「あらあら? 本当によろしいのですか?」
紅を着せ替え人形にするつもりでいたらしい青葉が首を傾げた。
「選ぶのも着るのも嫌いじゃないんですけど、今日はあまり気分が乗らなくて。試験勉強を頑張りすぎたのかも」
疲れているのは本当だ。できるなら早く用事を済ませて帰りたい。
「残念ですわ。紅お嬢様に色々なドレスを着せるのを楽しみにしてましたのに。お嬢様はスタイルがよろしいから、目の保養にもなって一石二鳥――コホン」
小さく咳払いを挟んで、青葉は続ける。
「――お似合いのドレスを選ぶのも、私の楽しみなんですが……。紅お嬢様がそう仰るなら、そういたしましょう」
告げると、彼女はテーブルに置かれたケースから何かを取り出して、紅に持ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』
月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。
飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる