宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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White Day's Rhapsody

★11★ 3月14日金曜日、22時前

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「温泉、なかなか良かったわよ? 二人とも部屋風呂じゃなくて入ってくればいいのに」

 部屋に入ってきたこうは浴衣姿だ。しっとりとして艶やかな髪は高い位置で纏められ、ほんのりと上気した首筋を際立たせる。ぴっちりと前身頃は閉じているのだが、それが余計に彼女の胸を強調しているように映った。正直、色っぽい。
 抜折羅ばさらは前にも紅の浴衣姿を見ている。だけど見慣れるようなものではない。

 ――紅はまた危険なことを……。

 遊輝ゆうきの前ですべき格好ではないと思う。鴨がネギを背負ってきているようなものではないか。
 あれこれと抜折羅が思いを巡らせている間に、遊輝が紅に応える。

「僕のスティールハートは目立つからね。人目のつくところでは肌を見せられないよ」

 苦笑して、遊輝は肩を竦める。彼の胸元に埋まる宝石は、確かに目立つかも知れない。推定のカラット数も一〇カラットは軽く越えている。湯気でごまかすこともできないだろう。

「あたしは気にせず入りますけどね」
「紅のは一見赤い痣だからな。俺と同じでわかりにくいだろうよ」

 石が身体に埋まった状態になる石憑きは、石の場所によっては見た目を気にして隠すことが多い。紅はその点には無頓着であるようだ。

「――なんていうか、今の会話を閣下に聞かせてやりたいね。君らは肌を見せ合う仲なの?」

 抜折羅の台詞に、遊輝はニヤリと笑んで問う。

「へ、変な言い方をしないで下さいよっ!! あたしたちの場合、石の場所が肩だから見やすいだけですっ!!」

 慌てて否定したのは紅だ。紅は右肩、抜折羅は左肩に石が埋まっている。見ようとすればどこででも見せることができる場所だ。

「ふふっ、それなら安心だね。色々突っ込んで訊きたいこともあるけど、ここで引いてあげるよ。部屋から追い出されたくないしね」

 それじゃあ否定しきれていないよ、とでも言いたげな台詞だ。気になって、抜折羅は冷静に紅と自身の台詞を思い返す。

 ――あ、紅が墓穴を掘ったのか。

 遊輝が巧妙な罠を仕掛けてきたことに今さら気付く。言ってしまった台詞をなかったことにはできない。

「そうそう。寝る場所、どうする?」

 話題を変えたかったのだろう。紅は抜折羅と遊輝の顔を見ながら訊ねる。

「僕は紅ちゃんが真ん中だったらどこでもいいよ!」

 ハイっと手を上げて、遊輝は元気に即答した。狙っていたに違いない。

「下心見え見えな台詞をよくもまぁはっきり言えたもんだな」

 呆れて、ですます調を使う気にもなれない。冷たい視線を送ると、遊輝は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。

「真ん中がいいと言わなかっただけ、譲歩しているつもりだよ? 僕は君から紅ちゃんを取り上げるつもりはないからね。混じるくらいが良いかも」

 遊輝の台詞に、紅が反応した。顔を赤らめている。

「あの……白浪先輩? よからぬ妄想をしていませんか?」

 恐る恐るといった雰囲気が漂う紅の問い。
 それに対し、遊輝は真顔で目を瞬かせ、小首を傾げた。長い銀髪がさらさらと揺れる。

「ん? 紅ちゃんが期待しているなら、僕は抜折羅くんをせっつくよ?」

 ――せっつく?

 二人は何の話をしているのだろうか。

「……話が通じているように見えるのは気のせいか?」

 問うと、紅は自分の失言に気付いたらしい顔をした。片手を額に当ててうなだれる。

「うう……あたし、だいぶ白浪先輩に毒されてる……」

 一方、何がツボに入ったのか、遊輝はとても楽しそうにクスクスと笑った。

「抜折羅くんはピュアだねー。乗り気になったらどうしようかと思っていたんだけど、杞憂だったね。――しかし、紅ちゃんにそういう素養があったとは……僕はオーケーな人だよ?」
「先輩は黙って下さい」

 紅は恥ずかしがっている。

「紅ちゃん、赤くなり過ぎ。そんなに反応されるとは思わなかった」

 紅の反応が面白いのか、遊輝がからかいを含んだ軽い口調で告げる。彼女はきっと睨み付けた。

「《浄化の炎》で焼いて差し上げましょうか?」

 声が地を這うように冷たく重い。冗談が通じない声だ。

「ごめんなさい。間に合ってます」

 降参とばかりに遊輝は両手を肩の上まで上げる。

「ん……?」

 ここまでの紅と遊輝の様子を見ると、やはり通じるものがあったのだとしか思えない。説明を求めて紅を見ると、真っ赤な顔で睨まれた。

「お願い、抜折羅。今の話題は綺麗さっぱり忘れて。二度と話題にしないで」

 紅の瞳には殺気が混じる。抜折羅は頷くことしかできない。

「……わかった」

 コクコクと首を縦に振って見せると、紅は深呼吸をした。そのあとで、改めて彼女は告げる。

「――とにかく、抜折羅が真ん中、その両隣に白浪先輩とあたしね。今の立ち位置から、窓際が先輩でドア側があたしで良いかしら?」
「異議なし」

 必然的な位置取りだと抜折羅は思う。紅が真ん中でも遊輝が真ん中でもまずいのだから、それしかあるまい。

「右に同じく――寒かったら、いつでもこっちにおいで。僕が暖めてあげる」

 こんなときでもすぐにそういう台詞が出てくるのは、本当にすごいと思う。羨ましいとも真似したいとも思っていない抜折羅ではあるが、遊輝の才能だと認めているのは事実だ。

「耐えますからご心配なく」

 遊輝の誘いを、紅は照れずに断った。彼女の想定には存在した台詞のようだ。

「あ、抜折羅くんも暖めてあげるよ?」
「気持ち悪いことを言うな」

 ついでのように言われて、抜折羅も返す。好きだと言われた影響が、口調に出ている気がしなくもない。

「ねぇ、僕が凍えそうになったら、どっちが暖めてくれる?」

 ――まだこの話題を続けるのか。

 紅が返す前に抜折羅が即答する。

「寒さに震えながら朝を迎えればいい」
「ひどっ!?」
「明日の最低気温は一〇度を越えるそうですから、心配いりませんよ」

 スマートフォンで天気を確認したらしい。紅が画面を見ながら言う。

「あらら、それは残念。楽しいイベントが減っちゃったよ」

 心底残念そうに告げて、遊輝は肩を竦める。

「もう何も期待せず、おとなしく眠って下さい、先輩」

 爽やかな笑顔で紅が促す。

「仕方ないなぁ。こんなに楽しいことってないんだけど、今朝はなんだかんだで早かったし、寝ようかな」

 遊輝は大きく伸びをする。ホワイトデーのために数十枚だか百枚以上だか知れないポストカードを配ってきているのだ。さぞかし眠いことだろう。

「じゃあ、あたしも寝る……抜折羅、電灯よろしく」

 そろりと紅も布団に潜る。

「了解。――って、浴衣のまま寝て、お前、大丈夫なのか?」
「はだけても見えないように下に着てるわ。防寒も兼ねてる」
「なら、構わないが……」

 遊輝の舌打ちが聞こえたような気がするが、そっとしておこう。

「そだ。寝てるあたしに何かしたら、星章せいしょう先輩に言いつけるから、そのつもりで」
「閣下をそういう使い方するのもどうかと思うんだけどなぁ」

 布団で横になった遊輝が呟く。

「報告しろって、本人が言っていたんですけど?」
「愛しい婚約者がこんな調子じゃ、閣下も気苦労が絶えないね」

 ――星章先輩を煩わせている原因はあんたにもあるでしょうよ。

 遊輝の同情の台詞に、抜折羅は心の中で指摘する。自分にも返ってくる言葉だけに、口にすることができない。

「電灯、消すぞ」
「はーい」

 消灯は二十二時前。こうして夜は更けていく。
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