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White Day's Rhapsody
*12* 3月15日土曜日、深夜
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スマートフォンで時刻を確認すれば、深夜三時過ぎを示している。
紅は喉の渇きを感じて目が覚めた。
――やっぱりホテルは乾燥するわね……。
何か飲むには明かりが必要だ。しかし部屋の電灯を点けると二人を起こす可能性がある。
妙な誤解もされたくないので、紅は黙ったままそっと部屋を抜け出すことにした。幸い、このホテルはオートロックではない。少し抜け出して、すぐに戻れば良いだろう。
――二人がおとなしくしているのは、何か理由があるのかしら?
もう一波乱あるかと警戒していたが、二人ともそれぞれの布団で静かに寝息を立てている。彼らの布団の様子を見て、紅は自分の寝床を見やった。
――あたしが一番、寝相が悪いみたいね……。
掛け布団を跳ね除け、だいぶ乱れた状態で目が覚めている。家でも同じ状態なので、誰かの仕業ではなく自分が原因なのだろう。
――見られていないと良いのだけど……。
紅は小さく息を吐き出すと、足音を忍ばせて廊下に出た。
絨毯が敷かれた廊下は適度な明るさを保っている。こんな夜更けに出歩いている人もなく、どこかの部屋からいびきが聞こえてくるくらいだ。
現在いる六階に自販機は見当たらない。一階で見掛けたのを思い出して、紅はエレベーターに乗り込んだ。そのまま真っ直ぐ一階に降りて、目的の自販機を発見する。財布を取り出し、お茶のペットボトルを購入した。
「ふぅ……」
よっぽど喉が渇いていたに違いない。ごくごくと半分以上を一気に流し込んだあとで、ほっとひと息つく。あとは戻るだけだ。
「紅ちゃん」
知った声がすぐ後ろから聞こえて、紅はびくっと身体を震わせた。
「一人になるのは危ないよ」
振り向くと遊輝が立っていた。いつもと雰囲気が違うように感じられるのは、シチュエーションの所為だろうか。
「起こしちゃったみたいですね。すぐに戻ろうと思っていたんですけど」
フレイムブラッドの気配を追って、迷わずにここに降りてきたに違いない。魔性石の探知を得意とする彼にとっては造作ないことだ。
――迎えに来てくれた、と受け取ったりしたら平和ボケし過ぎよね……。
単独行動をしているときの彼は気を付けなくてはならない。なおさら、一対一ではさらに神経を使う。
紅の反応に、遊輝は立ち止まったままで口元だけ笑みを作った。
「ふふっ。警戒してくれるみたいだね。素敵な表情だ」
「危険だって警告したのはあなた自身ですよ」
一歩踏み出すだけで捕らえられてしまうだろう場所まで接近されている。紅の背後には自販機。正面に立つ遊輝から逃げきる余地は、これまでの経験を振り返ってみても存在しない。
――詰んでる……。
緊張で、左手で掴んでいる三五〇ミリのペットボトルに力が入る。
「そうだね。おそらく僕が君の今一番の脅威になるとは自覚してる」
「そう思っているなら、現実にならないように努めて下さい。部屋に戻りましょう」
戻ろう、と提案するものの紅は動けない。遊輝が動かねば、安全な距離を保てないからだ。
遊輝の視線がお茶の入ったペットボトルに向けられる。
「ねぇ、紅ちゃん。僕も喉が渇いたよ。お茶、分けてくれない?」
「良いですよ」
その程度なら許容範囲内だ。手渡そうとする紅に、遊輝が続ける。
「紅ちゃんの口移しが良いんだけどな」
自分の唇を指して、彼は微笑みながら催促した。
――なるほど、何か意図があるだろうとは思っていたけど、そういうことね。
もちろん、その依頼はお断りだ。
「間接キスで譲歩して下さい」
身の危険を感じて、紅はペットボトルをふわりと放った。緩やかな放物線を描いて、それは遊輝の手に収まる。彼は楽しそうに笑んだ。
「照れなくても良いじゃない。ふふっ、君があまりにも可愛いから、手本を示してあげる」
――それが本当の狙いっ!?
遊輝はお茶を口に含むと、瞬時に紅との距離を詰めた。
後ろには逃げられない。横に逃げるには判断が遅過ぎる。
紅は喉の渇きを感じて目が覚めた。
――やっぱりホテルは乾燥するわね……。
何か飲むには明かりが必要だ。しかし部屋の電灯を点けると二人を起こす可能性がある。
妙な誤解もされたくないので、紅は黙ったままそっと部屋を抜け出すことにした。幸い、このホテルはオートロックではない。少し抜け出して、すぐに戻れば良いだろう。
――二人がおとなしくしているのは、何か理由があるのかしら?
もう一波乱あるかと警戒していたが、二人ともそれぞれの布団で静かに寝息を立てている。彼らの布団の様子を見て、紅は自分の寝床を見やった。
――あたしが一番、寝相が悪いみたいね……。
掛け布団を跳ね除け、だいぶ乱れた状態で目が覚めている。家でも同じ状態なので、誰かの仕業ではなく自分が原因なのだろう。
――見られていないと良いのだけど……。
紅は小さく息を吐き出すと、足音を忍ばせて廊下に出た。
絨毯が敷かれた廊下は適度な明るさを保っている。こんな夜更けに出歩いている人もなく、どこかの部屋からいびきが聞こえてくるくらいだ。
現在いる六階に自販機は見当たらない。一階で見掛けたのを思い出して、紅はエレベーターに乗り込んだ。そのまま真っ直ぐ一階に降りて、目的の自販機を発見する。財布を取り出し、お茶のペットボトルを購入した。
「ふぅ……」
よっぽど喉が渇いていたに違いない。ごくごくと半分以上を一気に流し込んだあとで、ほっとひと息つく。あとは戻るだけだ。
「紅ちゃん」
知った声がすぐ後ろから聞こえて、紅はびくっと身体を震わせた。
「一人になるのは危ないよ」
振り向くと遊輝が立っていた。いつもと雰囲気が違うように感じられるのは、シチュエーションの所為だろうか。
「起こしちゃったみたいですね。すぐに戻ろうと思っていたんですけど」
フレイムブラッドの気配を追って、迷わずにここに降りてきたに違いない。魔性石の探知を得意とする彼にとっては造作ないことだ。
――迎えに来てくれた、と受け取ったりしたら平和ボケし過ぎよね……。
単独行動をしているときの彼は気を付けなくてはならない。なおさら、一対一ではさらに神経を使う。
紅の反応に、遊輝は立ち止まったままで口元だけ笑みを作った。
「ふふっ。警戒してくれるみたいだね。素敵な表情だ」
「危険だって警告したのはあなた自身ですよ」
一歩踏み出すだけで捕らえられてしまうだろう場所まで接近されている。紅の背後には自販機。正面に立つ遊輝から逃げきる余地は、これまでの経験を振り返ってみても存在しない。
――詰んでる……。
緊張で、左手で掴んでいる三五〇ミリのペットボトルに力が入る。
「そうだね。おそらく僕が君の今一番の脅威になるとは自覚してる」
「そう思っているなら、現実にならないように努めて下さい。部屋に戻りましょう」
戻ろう、と提案するものの紅は動けない。遊輝が動かねば、安全な距離を保てないからだ。
遊輝の視線がお茶の入ったペットボトルに向けられる。
「ねぇ、紅ちゃん。僕も喉が渇いたよ。お茶、分けてくれない?」
「良いですよ」
その程度なら許容範囲内だ。手渡そうとする紅に、遊輝が続ける。
「紅ちゃんの口移しが良いんだけどな」
自分の唇を指して、彼は微笑みながら催促した。
――なるほど、何か意図があるだろうとは思っていたけど、そういうことね。
もちろん、その依頼はお断りだ。
「間接キスで譲歩して下さい」
身の危険を感じて、紅はペットボトルをふわりと放った。緩やかな放物線を描いて、それは遊輝の手に収まる。彼は楽しそうに笑んだ。
「照れなくても良いじゃない。ふふっ、君があまりにも可愛いから、手本を示してあげる」
――それが本当の狙いっ!?
遊輝はお茶を口に含むと、瞬時に紅との距離を詰めた。
後ろには逃げられない。横に逃げるには判断が遅過ぎる。
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