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White Day's Rhapsody
◯14◯ 3月15日土曜日、未明
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「――陽太くん、こんな夜更けにごめん」
遊輝が話し相手に選んだのは向日陽太だった。
「夜更けというか、早朝だけどな」
「確かに」
陽太の欠伸をする声が電話の向こう側から聞こえる。
時刻は四時過ぎ。目の前には真っ暗な海岸線。BGMは波の音。ホテルから逃げてきてしまった。
「――何かあったんだろ。頼んでる報告以外も特別に受け付けてやるぜ?」
黙っていると、陽太が促してきた。遊輝はふっと小さく笑う。
「……失敗しちゃったよ。何やってんだろうね。紅ちゃんがあまりにも美味しそうだったから、抑えられなかったみたい。勿体無いことをしたよ」
告白、そして沈黙。
先に沈黙を破ったのは陽太だった。
「――ユー? どうして遊びの関係でいられないんだ? 君の周りにはたくさん女の子がいるだろう? 石憑きの女は珍しいのかも知れないが、こだわりを捨てて次に行くのもアリじゃないか? 火群ちゃんに執着する君たちの気持ちがオレにはわからないんだが」
君たち、の『たち』の部分には一体誰が含まれているのだろう。少なくとも自分と抜折羅は含まれている、遊輝はそう受け取った。
「僕にはどうして君に紅ちゃんの魅力が通じないのか不思議だけどね。あ、ひょっとして陽太くんは胸がない方が好み?」
「オレの好みはどうでもいいだろ」
答えて、陽太は笑う。
「こんな妙な時間に電話掛けてくるから、立ち直れていないんじゃないかと想像していたんだが、それだけの台詞が出てくるなら平気そうだな。しかも自滅とは」
「笑わないでよ。結構これでも凹んでいるつもりなんだよ? 陽太くんに電話なんて、仕事の報告以外でするとは思わなかった」
「そうか? オレにとっては想定の範囲内なんだが」
そう答える声は意外そうに聞こえる。
「えー、僕が失敗すると思っていたのかい? 本当にそう考えていて、僕を抜折羅くんたちのお守りにつけたんだとしたら、君はずい分と大した人間だね」
「ユーが引き受けた時点で、オレの目的は達成できているようなもんだったからな。付き合わせて悪いと少しながら思ったんで電話に出たのさ。それを察して欲しかったな」
――目的の達成ね……。
彼が何をしようとしているのか、この話に乗ればわかるかもと期待していた。だが、結局はわからず仕舞いだ。何かを企んでいるとは感じられるのに、全貌はさっぱり見えてこない。流石は隠蔽に特化したタリスマントーカーだと思う。
――少し試してみようか。
「ねぇ、君はどこまで計算しているの? アメリカからわざわざ抜折羅くんを追いかけてくるなんて、僕としてはそっちの方が異常に思えるよ?」
タリスマンオーダー社の日本支部を設立するための調査を兼ねて、向日陽太はアメリカから来た。日本人の父とアメリカ人の母との間に生まれたハーフで、育ちはずっとアメリカだった――そんな生い立ちを遊輝は調べて知っている。
――調査なんて建前みたいだし、何か別の意図がある。何か嫌な感じがするんだよね……。
探るための遊輝の台詞に、陽太は声を立てて愉快そうに笑った。
「その口振りだと、バサラが女だったら納得してくれたのかな?」
「自分が女だったら、とは言わないんだね。君が紅ちゃんに興味を示さないのは、男が好きだからかと疑っているんだよ」
真意を隠すために冗談を混ぜ込む。
彼は軽い調子で、こう答えた。
「オレは君とは違うよ、ユー」
そういう返しが来るとは思っておらず、すぐに台詞が出て来ない。
「……そこで沈黙されると、肯定だと受け取りたくなるのだが」
気まずそうな声がスピーカーから響く。
「傷心中で寝ぼけ気味なんだよ。頭が回っていると思う?」
舌を噛まないで言えたのは奇跡かも知れない。完全に動転している。それは心の底で陽太の台詞を認めているからだろうか。
「ふーん」
からかいの感情が滲んでいる。男色疑惑は自身の中性的な容姿も手伝って、時折湧いてくる話題であるのだが、陽太にそう思われるのはどうにも許し難い。遊輝はむすっとした。
遊輝が話し相手に選んだのは向日陽太だった。
「夜更けというか、早朝だけどな」
「確かに」
陽太の欠伸をする声が電話の向こう側から聞こえる。
時刻は四時過ぎ。目の前には真っ暗な海岸線。BGMは波の音。ホテルから逃げてきてしまった。
「――何かあったんだろ。頼んでる報告以外も特別に受け付けてやるぜ?」
黙っていると、陽太が促してきた。遊輝はふっと小さく笑う。
「……失敗しちゃったよ。何やってんだろうね。紅ちゃんがあまりにも美味しそうだったから、抑えられなかったみたい。勿体無いことをしたよ」
告白、そして沈黙。
先に沈黙を破ったのは陽太だった。
「――ユー? どうして遊びの関係でいられないんだ? 君の周りにはたくさん女の子がいるだろう? 石憑きの女は珍しいのかも知れないが、こだわりを捨てて次に行くのもアリじゃないか? 火群ちゃんに執着する君たちの気持ちがオレにはわからないんだが」
君たち、の『たち』の部分には一体誰が含まれているのだろう。少なくとも自分と抜折羅は含まれている、遊輝はそう受け取った。
「僕にはどうして君に紅ちゃんの魅力が通じないのか不思議だけどね。あ、ひょっとして陽太くんは胸がない方が好み?」
「オレの好みはどうでもいいだろ」
答えて、陽太は笑う。
「こんな妙な時間に電話掛けてくるから、立ち直れていないんじゃないかと想像していたんだが、それだけの台詞が出てくるなら平気そうだな。しかも自滅とは」
「笑わないでよ。結構これでも凹んでいるつもりなんだよ? 陽太くんに電話なんて、仕事の報告以外でするとは思わなかった」
「そうか? オレにとっては想定の範囲内なんだが」
そう答える声は意外そうに聞こえる。
「えー、僕が失敗すると思っていたのかい? 本当にそう考えていて、僕を抜折羅くんたちのお守りにつけたんだとしたら、君はずい分と大した人間だね」
「ユーが引き受けた時点で、オレの目的は達成できているようなもんだったからな。付き合わせて悪いと少しながら思ったんで電話に出たのさ。それを察して欲しかったな」
――目的の達成ね……。
彼が何をしようとしているのか、この話に乗ればわかるかもと期待していた。だが、結局はわからず仕舞いだ。何かを企んでいるとは感じられるのに、全貌はさっぱり見えてこない。流石は隠蔽に特化したタリスマントーカーだと思う。
――少し試してみようか。
「ねぇ、君はどこまで計算しているの? アメリカからわざわざ抜折羅くんを追いかけてくるなんて、僕としてはそっちの方が異常に思えるよ?」
タリスマンオーダー社の日本支部を設立するための調査を兼ねて、向日陽太はアメリカから来た。日本人の父とアメリカ人の母との間に生まれたハーフで、育ちはずっとアメリカだった――そんな生い立ちを遊輝は調べて知っている。
――調査なんて建前みたいだし、何か別の意図がある。何か嫌な感じがするんだよね……。
探るための遊輝の台詞に、陽太は声を立てて愉快そうに笑った。
「その口振りだと、バサラが女だったら納得してくれたのかな?」
「自分が女だったら、とは言わないんだね。君が紅ちゃんに興味を示さないのは、男が好きだからかと疑っているんだよ」
真意を隠すために冗談を混ぜ込む。
彼は軽い調子で、こう答えた。
「オレは君とは違うよ、ユー」
そういう返しが来るとは思っておらず、すぐに台詞が出て来ない。
「……そこで沈黙されると、肯定だと受け取りたくなるのだが」
気まずそうな声がスピーカーから響く。
「傷心中で寝ぼけ気味なんだよ。頭が回っていると思う?」
舌を噛まないで言えたのは奇跡かも知れない。完全に動転している。それは心の底で陽太の台詞を認めているからだろうか。
「ふーん」
からかいの感情が滲んでいる。男色疑惑は自身の中性的な容姿も手伝って、時折湧いてくる話題であるのだが、陽太にそう思われるのはどうにも許し難い。遊輝はむすっとした。
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