龍神たちの晩餐

一花カナウ

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青の龍の物語

龍神の伝説 1

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 時刻は日が傾き始め、空が赤く染まりだす少し前だ。湯浴みを終え、少女は鏡の前に立った。同じ年頃であるはずの世話係の少女たちと比べてまだまだ幼い自分の容姿に、少女は思わずため息をつく。

(うぅ……どうせ見られるなら、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるメリハリのきいた体型でありたかった……)

 青年に見られてしまったことと奉納する舞を踊る際に多くの人に見られることになってしまうのを思い出してしょんぼりとしながら、袖を通す。
 祭りが始まってからはずっと神殿に籠って舞の練習に勤しんでいるため、肌を晒している時間が長い。湯浴みのあとと食事のとき以外に服を着ていないことに気付いて、再びため息をついた。

(なんで大勢の人間の前で裸同然の格好で踊らなきゃならないのよ……。巫女の仕事だっていっても、やらされる側のことも考慮して欲しいもんだわ……)

 衣服を身につけ、鏡の前に椅子を置くと髪を梳る。空よりも深い青い色の長髪は、まだ水気を多く含んでいて重たい。それでも櫛が途中で引っかかることなくするりと抜ける。

(……今日を入れてあと三日――それがあたしの生きられる時間。明後日の夕刻には、あたしは龍神様の糧になるのか……)

 鏡を見るたびに、あと何日生きられるのかを考えてしまう。少女の瞳に宿る青い光、腰まで伸びる青い髪はこの町を守護する青の龍に選ばれし者のみが持つものだからだ。
 年頃を迎えて発現するその色に町の人々が歓喜し、選ばれた少年少女はいつだって最初は絶望し、そして運命を受けいれる。
 ザフィリで十七年に一度の周期で盛大に行われる青龍祭は、青の龍に選ばれた印を持つ少年少女が主役だ。ひと月に渡る祭りの最終日にその主役が舞を披露し、その命を捧げることで終えるのだった。エラザ共和国がその名を使うようになるはるか昔から、この土地で行われてきた風習である。

 ――神は人間を喰うなんて真似はしない。どうか俺を信じてくれ。

 不意に日中に出会った青年の言葉を思い出す。

(どういう意味だったのかなぁ、あれは……)

 自分を励ますために出任せで告げた台詞ではないとは思えた。しかしその真意を少女は測りかねる。

(もしも、あたしが死ななくてもいいっていう意味だったら、嬉しいんだけどな……)

 そんなことを考えて口元を綻ばせ、すぐに悲しい表情を作る。その願いが叶わないことを知っているからだ。たとえ、命を賭す必要がなかったとしても、この町の人間がどう思うかはわからない。今までの仕来りが、結果的に少女を殺す。

(――話を聞きに行ってみようかな……)

 揺れていた心が静けさを取り戻す。少女は櫛を置くと手早く髪をまとめて結った。

「よしっ」

 決めてしまえば早いものだ。青年が捕まっているだろう場所の見当はついている。少女は誰にも見られていないことを確認すると、抜け道に向かって駆けたのだった。
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