感情を失ったアンデッドな(元)大魔導師様 ~勇者に裏切られて死んだらしい~

中沢日秋

文字の大きさ
1 / 1
第一章 シェルド王国

~1~ 出会い

しおりを挟む
 「・・・・・・ん。ふわぁ~あ。」

 深い森の中で大きなあくびと共に起き上がった一人の少年。
 肌は血の気が無く、汚れた灰色の髪と、濁った灰色の瞳。

 寝ぼけた頭できょろきょろと辺りを見回す。

 「ここ、どこ?」

 口をついて出た言葉は、誰に聞かれることもなく消えていく。

 「何でここにいるんだろう。」

 不意に湧いた疑問に答えるかのように、その少年の頭の中を記憶が走っていく。
 一番新しい記憶は、見たことも聞いたこともないような、新種の魔物に殺された光景だった。

 どうして魔物だと分かるのか。
 なぜ死んだと自覚できるのか。
 なぜ記憶の中の自分は、勇敢な大人・・なのか。

 分からない事だらけの中で、一つ明確に分かるものがあった。

 「僕、死んじゃったんだ。」

 ただ死んだという実感だけは、何故か若返ったその体にもはっきりと残っていた。

 だが、それをまるで知らないかのように、その少年は歩き出した。
 無邪気に遊びながら、ただ歩いた。なぜ歩いているのかも分からなかったが、それでもただ歩いた。

 枝を拾ったり、川の水をすくったり、幼い狼を追いかけたり、その親の狼に追い払われたり。
 何が起こっても、どうしてなのかと思っても、それを放ってどこかへ歩く。

 別段悲しそうでも、淋しそうでも、楽しそうなわけでもなく、何かに導かれるように歩いていった。


   ***


 「ねぇー。こんなところに何の用があるのよぉー。ただの雑草集めでしょー?いった!痛い痛い!ごめんごめん!もう言わないから!」

 ごんっ、と鈍い音と共に何度も拳骨を喰らう若い女と、ただ無表情に拳を振るい続けている釣り目の女。
 貴重な薬草を集める依頼クエストをこなしている真っ最中だった。

 「その雑草で助かる命がいったいいくつあると思ってんだい?んん?」
 「ごめんごめん。ちゃんと私も集めるか・・・なにあれ?」

 何かを見つけ、軽い口調が一変して真剣な声になって何かを見つめる若い女。
 それを目で追う釣り目の女が同じものを見つける。

 色あせくすんだ色になった、ボロボロになったぶかぶかの大きな服を着た少年だった。

 「なんだいありゃあ?」
 「私に聞かれても・・・。私の目にはかわいい子供しか見えないですけど。」
 「それは分かってる。何でこんなところにガキが一人で歩いてるんだ?」
 「なにがですか~?ッいった!いったい!また殴った!」

 とぼけたように生返事を返す若い女にまたしても拳骨が飛ぶ。

 「一人前の冒険者も入るのを躊躇うこの森の中になんであんなチビッコイのが歩いてるのかを聞いてるんだよ!!このボンクラ娘が!!」
 「ボンクラ娘って、酷いこと言わないでよ!って、こっちに来たよ。」

 少し警戒気味にその少年を見つめる二人は、正直このあとどうしようかと迷っていた。


   ***


 少年は、深い緑に着色された金属の軽鎧を来た二人組みの冒険者を見つけた。
 偶然見つけた二人組みの冒険者に向かってテクテクと歩いていく少年は、無邪気に問いかける。

 「お姉さん達、誰?」

 不意にかけられた問いに一瞬きょとんとする二人だが、若い女が楽しそうに笑いながら明るい返事をする。

 「お姉さんはね、ミールっていうんだー。あっちの目つきの悪い人はネアって言・・・いったい!だから痛いよ!何度殴れば気が済むの!?」
 「誰の目つきが悪いって?それとね、あと100回殴り続ければ気が済むよ。」

 軽い言葉と拳骨を交わしながら話す二人組みの冒険者ミールとネアは、少年にも問いかけると同時に、確認・・もした。

 「僕はなんていう名前なのー?」
 「え、えっと、えっとぉ。」

 頭の中に残る記憶の中から自分の名前を探し出す。

 「た、多分、ルル。です。」
 「ルルだと?ネア、私が試す。いざとなったら首を刎ねろ。《ホーリー》!」
 「わあっ!」

 掌を少年に向けて、使えるものが少ない希少価値の高い魔法を発動させる。

 「わー。とってもきれー。ねえねえお姉さん、もう一回やってー!」

 魔物などによく聞く《ホーリー》を受けても、動じるどころか興奮して無邪気に駄々をこねる少年に、二人の警戒心は解けていった。

 「お前、《ルル》って言う名前に、どんな意味があるのか分かってるのか?」
 「・・・?知らない。わかんない。」

 首を横に振って知らないと応える少年に、ネアはいくつか確認を行っていく。

 「《ルル》っていう名前はな、何世紀も前の時代に、味方の勇者に裏切られて魔物に寝返ってしまった大魔導師と同じ名前なんだ。その大魔導師が寝返り暴れた時代を終焉時代ってよばれてる。それ以来、《ルル》っていう名前と当時の勇者の名前は嫌われる名前になったんだ。」
 「そうなんだ。」

 確かに、頭に残っている自分のものらしい記憶の中には、醜い笑みを貼り付けた顔で後ろから(おそらく)自分の体に剣を突き刺す勇者らしき男が居る。
 ルルの頭の中で知識だけが残っていることは誰も知らない。
 その残った知識に、その新しい歴史が記憶された。

 「ちなみに、《ステータス》は知ってるか?」
 「すて、たす?」

 首をかしげる年相応の幼さを感じさせるその動きに、二人の警戒心は薄れていった。

 「《ステータス》っていうのはねぇー、心の中か、口に出して自分のことを知りたいって思いながら唱えると、自分にしか見えない板みたいなのが出てくるの。それに自分のことがいっぱい載ってるわよ。」
 「す、《ステータス》?」

 ぎこちなく言葉にするルルを、ミールが満面の笑みで眺めていた。
 一方で、ネアは顔を背けて顔がニヤついていることを隠していた。

 ルルは、目の前に現れたステータスボードを見ていた。


   名前  ルル・シュベル・ダーナ
   種族  ノークス・アンデッド《亜種》
   状態  通常
   職業  魔法使い 武具使い
   レベル 1/35
   HP :30/30
   MP :80/80
   攻撃力:60
   防御力:65
   技巧力:80
   素早さ:70

   種族スキル
   《霊体化Lv--》《実体化Lv--》《不眠不休Lv--》《無感情Lv--》
   《半人間Lv--》《アンデッドLv--》

   通常スキル
   《創世の魔神書Lv1》

   魔法スキル

   耐性
   《異常状態無効Lv--》《属性無効Lv--》

   称号
   《元大魔導師Lv--》《感情を失った者Lv--》《偽りの感情Lv--》


 ・・・あれ?僕、人じゃなかったの?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...