妹に婚約者を取られた挙句、デブの辺境伯と強制結婚させられましたが、せっかくなので自分好みに育て上げたいと思います

第3章

進言

　私はレイモンドの部屋で、彼に自分の案を伝えることにした。


　結婚式を終えた今、私はアンダーソン伯爵夫人。

　つまり言ってしまえば、彼の仕事に口出しをしても問題ない立場になったということである。


「1つご提案があるのですが」

「はい。なんでしょうか？」


　レイモンドは、女のくせに生意気だとか、女の意見に耳を傾けるはずないだろうとか、もちろんそんなことは言わず、忙しなく動かしていたペンを机の上に置いて、話を聞く態勢を取った。


「現在、このアンダーソン領で深刻な問題になっている経済ですが、その解決策について1つお話したいことがあるのです」

「解決策？」

「はい。レイモンド様は、『転移魔法』をお使いにはならないのでしょうか？」


　転移魔法とは、文字通り1点から1点を瞬間移動する魔法だ。

　わざわざ歩いたり乗り物に乗ったりしなくとも、楽に移動が出来る優れもの。


　当然、高度な魔法なので、それなりに魔力は使うが。

「……もちろん、そのことについて議論したこともあります」


　レイモンドは苦笑した。

「ですが、あの魔法には欠点がありますから」

「ええ、存じております」


　転移魔法は、人間を瞬間移動させるのに向いているが、物を運ぶのには不向きだ。


　まず、移動させる物体に制限が加えられる。

　ただでさえ複雑な魔法だから、出来て人1人分。

　それ以上増やすとなると、魔法がコントロール出来ずに失敗する。


　ただ失敗すれば魔力の無駄な消費だけで済むが、もっと恐ろしいのは魔力暴走。


　最悪、人が死ぬ可能性も出てくる。


　2点目は、移動距離。

　先ほども述べたように、複雑な転移魔法は効力を増やそうとすればするほど失敗につながる。


　となると、移動距離は必然的に短くなり、その限界距離の要所要所に転移魔法を使える魔法使いを設置しなければならない。


　この方法で出来ないことはない。

　だが、非現実的過ぎる。


「私はここの領主ですから、領民に負担のかかることはしたくないのです」

「存じております――ですが、その欠点を解決出来る方法があるかもしれないのです」

「と言いますと？」

「私の友人に、魔法具開発の天才がいます。彼は少し前に、転移魔法の構造について研究していました。かなりの大事になるかもしれませんが、彼に頼めば、転移魔法を発動出来る魔法具が開発出来るかもしれません」